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古伊万里★新伊万里

劇作家・唐沢伊万里の身辺雑記です

カテゴリー「舞台」の記事一覧

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リーディング公演って…

 紀尾井ホールに「溺れる花嫁」というリーディング公演を観にいきました。
 リーディング公演とは、前にも書きましたが(2006年1月26日の投稿「『病院ミシュラン』リーディング公演」参照)、「セリフを読む」という行為だけを抽出して観客に見せる公演のことです。
 「お金がかからない」「スタッフも最小限で済む」「稽古時間が少なくて済むので役者の拘束時間も節約できる」といった理由から、最近は徐々に増えてきているようですが、実際は観るほうもやるほうも「リーディング公演とはどういうものなのか」よくわからないまま行われているのが現状です。
 今回の「溺れる花嫁」を観て、あらためてそれを強く感じました。

 「溺れる花嫁」のチラシには、わざわざ「ドラマリーディングとは」という解説が載っていて、そこには「本公演は4人の役者による朗読劇。視覚的要素をあえて手離すことにより、役者の肉声はより研ぎ澄まされた表現に昇華され、観客の想像力をいやおうなく刺激する。声の高低、声量、テンポ、間まで、すべてに『完璧な心理描写』が要求され、戯曲の真価や俳優の力量が克明に刻まれた『ことばによる弦楽四重奏曲』の趣である」とありました。
 「ことばの弦楽四重奏曲」とまで書かれたら期待も高まるというもの。いったいどんな演出で行われるのか、すごーく興味津々だったのですが、実際に観てみた感想は、

 これ、芝居とどう違うの?

 でした。
 「視覚的要素をあえて手離して勝負」という言葉はどこに?
 台本を手にしているのは形だけで、ほとんど台本に目をやらず、表情はつくるは、動きはつけるは、相手と視線はかわすは、ってこれじゃあ視覚的要素頼りまくりじゃん!
 たしかに一列に並んで台本を読んでいるだけでは地味すぎてお客は退屈しちゃうだろうし、お金とるからにはもう少し色をつけないとっていうことなんでしょうが、これじゃ本来の目的とは違うような気がします。
 中途半端に芝居っぽいと、逆に「ここまでやるならもう少し視覚的要素を加えて普通の芝居にすればわかりやすくなっていいのに」と思っちゃうんですよね。
 そもそも台本じたいが「リーディング向け」に書かれたものではなく、普通のお芝居にすることを前提として書かれたものなので、リーディングで紹介することじたいが不自然といえば不自然。
 もちろん、経費節減がおもな目的だから「やらないよりはやったほうがいい」という意味では「上演されにくい戯曲を紹介する」という意義は充分あると思いますが、なんかそれだけじゃなくて、「リーディング」向きに書き下ろした本をやるっていうのもありなんじゃないかなあ。
 そういう本ってほとんどないと思うけど。

 とにかく、本が上演されるのってものすごく大変なことなので、リーディング公演は少しでも本が上演されやすい選択肢を提示するという利点があるのはたしか。
 もっと発展していくといいなと思いつつ、まだまだ「退屈そう」というイメージが強いのが実状のような気がします。
 プログラムに演出の鵜山さんが「途方に暮れた」と書かれていて、大ベテランの鵜山さんですらそんなふうに思うんだからやっぱり難しいんだろうなとあらためて思いました。

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森光子@進化中

 最近、全日空でチェックインも搭乗券もなしで飛行機に乗れてしまう「SKiP」というシステムが話題になっていますが、そのCMをご覧になりましたか?
 伊東美咲が「無理、無理」と携帯でしゃべりながら手にもったカードをヒラヒラさせているうちに機内にたどりついてしまい、「乗れちゃった」と我に返るやつ……のほうではなく、「森光子編」です。

 マネージャーとしゃべりながら無意識にカードをかざして次々にゲートを通過してしまう森光子。
 「だって私もう86よ。いくらなんでも無理でしょう、小学生の役は」
 ここですでに芝居好きの人は噴き出してしまうんですが(森光子ならやりかねん!という説得力があるので)、さらに続く
 「そりゃ、でんぐりがえしはできるけど、それとこれとはねぇ…」
 というセリフには大爆笑。
 
 ここで爆笑できる人がはたして視聴者の何割くらいなのかわかりませんが、現在帝劇で上演中の「放浪記」では、森光子による「伝説のでんぐりがえし」が毎日披露されています。
 「放浪記」(作:菊田一夫)は、この9月4日で前人未踏の1800回を記録した東宝の当たり狂言で、森光子は40年以上前からこの作品の主役・林芙美子を演じ続けています。
 でんぐりがえしは、「初めて自分の書いた小説が雑誌に掲載された芙美子が喜びのあまり木賃宿の布団の上ででんぐりがえしをする」というシーンで行われるのですが、森光子はいまだに軽々とこのパフォーマンスを披露し続け、客席もでんぐりがえった瞬間には万雷の拍手がわき起こるのがお約束となっています。
 そのためのトレーニングとして、森光子が毎日150回のスクワットを欠かさないのはあまりにも有名です。

 「放浪記」については、拙著「RE>PLAY」で詳しく書いたので内容については省略しますが、先日、私は初めて帝劇での「放浪記」を観てきました(この作品は、本来、芸術座というもっと小さい東宝の専用劇場のために書かれたものですが、現在芸術座は取り壊し中のため、今回はイレギュラーで帝劇での上演となったのです)。
 多分、ほとんどの方はピンとこないと思いますが、「放浪記」の人気というのはかなりすごくて、決して安い料金ではないにもかかわらず、チケットは常に入手困難です(今回ももちろん1ヶ月間全日程が完売してます)。
 私も3年前に芸術座でゲネプロを見せてもらったのが唯一の「放浪記」体験なので、今回が本当の意味での初「放浪記」となりました。

 客席はかなり年齢層が高い!
 皆、森光子の「若さ」にあやかろうと、お詣りにきた参拝客のようです。。。
 たしかに森光子は若い。
 舞台から発散されるエネルギーはまぶしいくらいです。
 が、観ていてなんか気の毒だなーと思ったのは、あまりにも「86歳と思えない若々しさ」「スクワット150回」「でんぐりがえし」という記号が一人歩きしすぎているように感じられたこと。
 ここまでわかりやすいセールスポイントが揃っていると、観るほうはそこでもう満足しちゃうと思うんですよ。
 極端な話、とりあえず元気に動きまわって毎日舞台を務めてでんぐりがえしさえすれば「あー、やっぱり森光子若いわ〜。すごいわね〜」でOKになってしまう、みたいな。
 年だけで充分価値が出てるというか。
 ある意味子供とか動物とかが芸をすると点数が甘くなるのに似た感じになってくるというか。

 でも、今回私が本当に「すごい」と思ったのは、「86にしちゃよくやるでしょ」っていう水準にまったく甘んじていない森光子のこの作品に賭ける飽くなき執念です。
 3年前のゲネと今回と、たった2回しか観ていない私ですが、その2回を比較しても森光子が演じた芙美子は全然違う。
 役の作り方というか、アプローチが明らかに変わってるんです。
 だって皆さん、1800回ですよ。
 普通、1800回演じたら、「もう目つぶってもできるわ」って気分になりそうだし、まあそこまでいかなくても「今さら前と違うものを作り直そう」という気にはなかなかなれないと思うんですよね。
 気持ちの上で新鮮さを保つのだって容易じゃないと思うし、キャリアを積めば積むほど「今までの蓄積」で料理しようと思ってしまいがちです。
 ましてや、でんぐりがえしをするだけでお客が喜ぶ境地にまできたら、「あとはどれだけこの状態を長くキープできるか」という守りに入るのが普通でしょう。

 でも森光子は1800回越えても進化を続けていました。
 もちろん、体力も気力もすごいんですが、それ以上に「毎回壊してもう一度作る」という地味でしんどい作業に挑み続ける勇気こそが真の賞賛に値するものなのではないでしょうか。
 「長く続いた」というのは結果論にすぎないのですから。

 森光子に遠くおよばないこんなちっぽけなキャリアですら、ちょっと油断すると「次もこの手でいこう」とか「このまま流用しよう」とか楽な方向へ流れてしまいそうになります。
 「創造と破壊」の繰り返しに耐えられる強靱な精神力をもちたい…。
 森さんをみてあらためてそう思いました。

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ただ似ているというだけで。。。

 「ベルサイユのばら」に行ってきました。
 「ベルばら」にはいくつかヴァージョンがあるんですが、今日のは「フェルゼンとマリー・アントワネット編」。
 ベースは今までに観た「フェルゼン〜編」と同じですが、今回はかなり改訂が加えられていました。
 一言でいうとすごく説明が多くなってて、さらに人物の感情の流れがわかりやすくなった感じ。
 とはいえ、原作を読んだ人や、他のヴァージョンを観た人にはわかるけど、初見の人はついてこられるのかな?という省略も一方ではあったりして、あらためて登場人物が多くてさばくのが大変なドラマだなと思いました。

 一番意外だったのは湖月わたるのフェルゼンが予想以上にしっくり合っていたこと。
 宝塚版のフェルゼンって(原作はそうじゃないけど)、観てるとすごーく身勝手で、正直あんまり感情移入できないんですよ。「不倫のくせに態度でけーんだよ」「おまえが言うな!」みたいな部分が多々ありまして(笑)。
 ところが、わたるは持ち味が比較的「まっすぐ」というか「武骨」というか「質実剛健」というか「裏表がない」というか、いやこれ皆ほめてんですよ(笑)。その持ち味が「王妃への一途な情熱」という形にうまく昇華されていて、妙な説得力がありました。

 前回観たときのフェルゼンは和央ようかだったんですが、彼女の持ち味は「影のある耽美(と私は思ってます)」なので、何をやってもスキッと明るくはならないんですね。
 こういうタイプがフェルゼンのような役をやると「道ならぬ恋」に悩む暗さのほうが浮き立ってしまい、「情熱」というよりは「身勝手」な印象のほうが強くなる。
 まあこれは脚本がそういうふうに書かれてるからしょうがないのかなーと思っていたのですが、わたるのフェルゼンは全然暗くないし、ほんとに「いい人!」って感じなので、終盤王妃を救おうとなりふりかまわず必死になるところとかもすごくよく伝わってきて、初めて「あー、いいじゃん。フェルゼン」と思わせてくれました。

 思うにフェルゼンってあんまりスマートな感じじゃないほうがいいのかも。
 当時のフランス宮廷におけるスウェーデン貴族の留学生というものがどういう位置づけだったのかはっきりわかりませんが、ちょっと田舎臭いというか、泥臭いというか、フランス貴族ほど洗練されていないという感じだと、その素朴で正直な部分に孤独な王妃がひかれていくのもわかるし、駆け引きができなくて簡単に宮廷中の噂になってしまうというどんくささも好感がもてると思うのですが。
 いちいちひきあいに出して悪いけど、和央フェルゼンは最初の不倫からもう自暴自棄というか自堕落というか、開き直ってる感じがして共感できなかったんですよね。
 うん。やっぱりスマートでかっこよすぎるんだと思う。一歩間違えると遊び人に見えてしまう。
 その他、アントワネットもオスカルもとても人間的で共感しやすい造型になっていたのが印象的でした。
 何度観ても「ベルばら」はドラマが濃厚でよくできているなと思いますね。

 「ベルばら」観劇後、友人と私は遅い夕食をとりに、行きつけのイタリアンレストランへ。
 そこで、私はある発見をしてしまい、そのことを友人に告げるべきかどうか迷ったのですが、思い切って言ってみました。

 「ねえねえ。あそこにいる店員さー、Oちゃんに似てない?」

 Oちゃんとは、友人が大のひいきにしている現宝塚のトップスターです。
 私としては「えー、全然似てない」「やめてください」という反応を覚悟してたんですが、意外にも彼女の反応はまんざらでもありませんでした。
 最初のうちこそ「えーーー、そうかなーーー」という肯定したくないモードだったのですが、2分3分と観察するうちに「うーーん。そう言われてみれば口元がちょっと…」「鼻のあたりもたしかに…」と容認モードに入ってきた。
 そのうちに携帯に入ってるOちゃんの写真と店員の顔を真剣に比べ始めたじゃないですか。
 しかも、おいおい、あんた、なに赤くなってんだよ(笑)。

 べつにその店員、宝塚の男役みたいとか、かっこいいとか、そういうんじゃ全然ないんですよ。ほんと、そのへんによくあるっていっちゃ失礼だけど、ごくフツーの若い女性なんです。なのに、顔の雰囲気がちょっと似てるっていうだけで、なんでそこまで真剣になるんだ!!
 と言ったら、友人いわく「Oちゃんが髪の毛のばしてああいう恰好したらあんな感じになるのかなーと思って」。その想像が楽しくてウキウキするんだそうです。
 その後ずっと、友人はその店員が気になってしかたがない様子で、ずーーーっと目で追っていて、「もしかして妹かもしれない」と勝手に妄想をふくらませて興奮。

 妹だったらどうだっつーの??

 ていうか、「似てても他人」というケースのほうが圧倒的に多いと思うんですけど、なぜ妹妄想??
 しまいには「名札を確認したい」とか言い出して、「デジカメで撮って画像を拡大してみようか」などとストーカーオヤジのようなことまで。。。
 その店員はきっと「このおばさん、なんでさっきから私をジロジロ見るの?」と気持ち悪がってるでしょうねー。

 帰るときには友人はすっかりいい気分になり、「また来よう」とご満悦でした。
 いや、この一言でこんなに楽しんでもらえるとは私も思わなかったよ。

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プロフィール

HN:
伊万里
性別:
女性
職業:
劇作家・ライター
趣味:
旅行 骨董 庭仕事

著作



「RE>PLAY〜一度は観たい不滅の定番」

Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!

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