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古伊万里★新伊万里

劇作家・唐沢伊万里の身辺雑記です

カテゴリー「クラシック音楽」の記事一覧

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コーロ・ヴィータ演奏会、無事終了

 すでにご存じの方も多いかと思われますが、私の両親は声楽を教えていて、コーロ・ヴィータという女声合唱団をもっています。
 先週の土曜日、そのコーロ・ヴィータの定期演奏会がありました。

 コーロ・ヴィータ結成のきっかけは、東京男声合唱団というアマチュアの老舗男声合唱団(戦後すぐくらいからずっと活動している)に、父が指導にいったことでした(1996年〜)。
 最初は男声合唱の演奏会だけをやっていたのですが、そのうちに「もうひとつ女声合唱団をつくれば、男声、女声、混声とすべてのレパートリーができる」と思うようになり、幸い人材も集まったので、女声合唱団を発足することになりました。
 まずは2000年12月の東京男声合唱団の演奏会の一部に賛助出演する形でお披露目を行い、2002年4月のジョイント・コンサートを経て2003年10月に第1回演奏会を、続いて2005年6月に第2回演奏会を開催、そして今回無事3回目の演奏会を開くことになったという次第です。

 世の中、混声合唱団は数多くありますが、男声合唱団と女声合唱団が共演する形で混声合唱を行うという演奏会はなかなかないと思います。そういう意味では非常に贅沢な企画です。
 普段は、男声は男声、女声は女声とバラバラに練習していて、本番間近になると、合同練習を重ねて混声のレパートリーを仕上げていく…というのが基本的なやり方ですが、これは練習方法としても合理的だし、お互いに与える刺激もあって新鮮さも保てるようです。

 いつも会場はこまばエミナースを使っているのですが、今回は初めてトッパンホールで、クリスマスキャロルばかりを集めたクリスマスヴァージョンの演奏会を行いました。
 トッパンホールは人気あるホールだけにきれいで良いホールなんですけど、交通の便が悪い(駅からかなり歩く)のと、当日の天気が悪かったため、どれだけお客さんが来てくださるのかギリギリまで心配だったのですが、予想以上に盛況で、トッパンホールのスタッフにも「うちのホールでこんなにお客が入ったのを見たのは初めて」と驚かれたほどでした。
 年末で忙しいときなのに本当にありがたいことです。

 参考までに今回演奏したプログラムをご紹介します。

1.近代フランスの聖歌<女声合唱>
 「Ave verum corpus」 (プーランク作曲)
 「Ave Maria」(プーランク作曲)
 「Tota pulchra es Maria」(デュリュフレ作曲)

2.伝統的なクリスマスソング<女声合唱>
 「まきびと羊を<賛美歌103>」(ウィルコックス編曲)
 「世の人忘るな<賛美歌第2編128>」(ウィルコックス編曲)
 「み空をはせ行く<旧賛美歌92>」(ウィルコックス編曲)
 「柊と蔦は<賛美歌第2編217>」(ラッター編曲)
 「クリスマスおめでとう」(ラッター編曲)
 「神の御子は今宵しも<賛美歌111>」(ウィルコックス編曲)

3.ジョン・ラッターのクリスマスキャロル<女声合唱>
 「降誕祝歌」
 「羊飼いの笛」
 「ろうそくの光」
 「ろばのキャロル」
 「クリスマスの子守歌」

4.ポピュラーなクリスマスソング<混声合唱>
 「ジングルベル」(ピアポント作曲/蒔田尚昊編曲)
 「ホワイトクリスマス」(バリーン作曲/ショウ、蒔田尚昊編曲)
 「赤鼻のトナカイ」(マークス作曲/デ・コーミエル、蒔田尚昊編曲)
 「オー・ホーリィ・ナイト」(アダム作曲/蒔田尚昊編曲)

アンコール曲<混声合唱>
 「What sweeter Music can we bring」(ラッター作曲)
 「きよしこの夜」(グルーバー作曲/蒔田尚昊編曲)


 いつもの演奏会は、大曲+中品+小品いくつか…という構成で、今回のように小品をたくさん、しかもキャロルばかりという趣向は初めてだし、ソリストなしで通したのも今回が初めてでした。
 「小品がたくさん」って、聴いているお客さんは「気楽な感じ」に思えるかもしれませんが、じつは「大曲」をまぜるよりずっと大変なんです。
 歌っている人いわく、「こんなにいっぱい歌ってるのにまだこれしか時間がたってないの〜?」と泣きたくなったそうで。
 書くことにたとえると、「長編1本」より「短編複数」のほうがしんどいのと同じっていうか…。
 スポーツにたとえると、「5000m走」より「50mダッシュ100本」のほうが苦しいのと同じっていうか…。
 短い曲って最初から最後まで全力疾走だから、ずっとテンションあげっぱなしでいなきゃいけないし、しかも1曲終わるごとに拍手なんてこないから間がもてなくてどんどん進行が早くなってしまう。ペース配分も難しいんですよね。
 それに曲数が増えればそれだけ練習時間はくわれるし、短いからすぐにこなせるってわけでもない。
 皆さん、今回は今までになく疲れたようで、短編の恐ろしさを身にしみて感じたようです。

 コーロ・ヴィータの演奏会は、完全に家内制工業で、父→指揮、母→代表兼マネージャー兼トレーナー、私→プログラムとチラシの制作&当日のロビー業務運営、弟→荷物運搬&送迎その他……という分担になっています。
 プログラムは、自分で言うのもなんですけどタダで配るものとしてはけっこう豪華版です。内容は挨拶、プロフィール、曲目解説、歌詞、演奏記録…などこのあたりはどこのプログラムにもある内容だと思いますが、うちだけの特徴として毎回「特別コラム」を載せています。

 内容は間際で考えますが、「その演奏会で演奏される曲目に関係することを書く」ということだけは決まっています。
 たとえば、ヴェルディの「四つの聖歌」を演奏した2002年のジョイント・コンサートでは、四つのうちの一曲「スタバト・マーテル(悲しみの御母はたたずむ)」にちなんで、「“キリス磔刑図の横にたたずむ聖母”というモチーフを描いた宗教絵画を見比べてみると、最初は“スタバト・マーテル”の言葉通り毅然と立っていた聖母が、時代とともに嘆きをあらわにした表情になったり、派手に気絶したりするようになっていく」という現象について書いたし、オペレッタ「蝙蝠」のワルツを演奏した2003年の演奏会では「オペレッタからミュージカルへの系譜」というコラムを書きました。また、モーツァルトの「戴冠ミサ」を演奏した2005年の演奏会では、「未完の肖像画が語る人間ドラマ」というタイトルで、“肖像画”という切り口からモーツァルトの私生活を垣間見るコラムを書きました。

 で、今年はクリスマスキャロルなので、クリスマスについて書くことは決まっていたんですけど、一口にクリスマスといってもあまりにも範囲が広すぎてなかなかこれといったテーマに絞れず、けっこう苦労しました。
 最初はキリスト関係の話にしようかと思ったのですが、「教会でやるわけじゃないし、クリスマスだからといって必ずしも宗教的意味を感じる人ばかりじゃないだろうから」と思いなおし、むしろもっと軽く読める楽しい題材がいいかも…と選んだのが“クリスマス菓子”の話。
 ほんとはディケンズの「クリスマス・キャロル」について書こうと思ってたんですが、そこに出てきた“クリスマス・プディング”なるお菓子の存在が気になり、ネットで調べていったらそっちのほうにはまりこみ、結局はお菓子ネタになってしまいました。
 もう演奏会も終わったので、以下プログラムに載せたコラムを転載します。

特別コラム「クリスマスプディングは熟女の味わい?!」

 本日の演奏会で歌われる「クリスマスおめでとう」の歌詞中に「figgy pudding(いちじくのプディング)」という言葉が何回も出てくる。これほど熱狂的に連呼される「いちじくのプディング」とはいったいどんなお菓子なのだろうか。

 クリスマスのお菓子といえば、日本ではふわふわのスポンジ生地+真っ白なホイップクリーム+真っ赤ないちご…というショートケーキが思い浮かぶが、国によってクリスマス菓子の定番はさまざまだ。フランスの「ブッシュ・ド・ノエル」、イタリアの「パネトーネ」、ドイツの「シュトーレン」などなど。
 それぞれに「いわく」があったり、「決まり事」があったりして調べていくと楽しいのだが、その中でもインパクトという点で群を抜いているのがイギリスの伝統的クリスマス菓子「クリスマス・プディング」である。

 一言でいうと「ドライフルーツが大量に入ったパンプディング」だ(冒頭の「いちじくのプディング」はこれを指していると思われる)。
 幼少期にロンドンに住んでいた友人にどんな味か聞いてみたところ、「とにかくあまりの甘さと濃厚さに卒倒しそうになる」という答え。要するにまずいらしい。と言いながらも「でもねぇ、今でもなんかクリスマスになると無性にアレが食べたくなって、輸入菓子店で買ってきては『おー、これこれ。このまずさ』とか言いながら食べちゃうのよね」と続けていたので、やはりインパクト抜群であることはたしかだ。

 クリスマス・プディングを作るのは非常に手間がかかる。まず、レーズンを主体としたさまざまなドライフルーツ類をお酒に漬け込むのに1週間。これにくるみなどのナッツ類、シナモンなどのスパイス類、牛脂(ケンネ脂と呼ばれる腎臓付近の上質な脂。バターのように溶けやすい)、卵、砂糖、生パン粉をまぜたものを一晩寝かせ、翌日に型に入れ、半日かけて蒸す。蒸しあがったものは1ヶ月熟成させて味をなじませ、クリスマス当日には数時間かけて蒸し直したものにヒイラギの葉を飾り、ブランデーバターを添えていただく。
 これまたクリスマスの定番であるディケンズの「クリスマス・キャロル」の中では、クリスマス・プディングの登場シーン(最後に火をつけたブランデーを上からかける)が生き生きと描写されていて、この作品のヒットとともにクリスマス・プディングの知名度も一気に広まった。「クリスマス・キャロル」はヴィクトリア朝時代の小説だが、イギリスのクリスマスの食卓の光景は今でもほとんど変わっていないという。

 クリスマス・プディングは作ってから1ヶ月で食べ頃になるが、1年くらいは日持ちするそうなので、熟成したクリスマス・プディングが好きな人はクリスマスが終わるとすぐに翌年のクリスマス・プディングづくりにとりかかるという。ケーキは「本日中に食べるもの」という固定観念がある日本人から見るとなんとも不思議な感覚だ。
 しかし、こうしてみると各国のクリスマス菓子は日持ちのするタイプが多く、生菓子タイプのものは少数派である。日持ちといえば、イギリスでは、クリスマスとその翌日は「ローストターキーの余りものをサンドウィッチやシチューに再利用する」などして主婦も家事を休むのだという。これは日本のおせち料理の感覚に似ていないだろうか? 日頃は離れている家族が唯一顔を合わせて骨休めをする日──日本ではお正月にあたる「特別休暇」がイギリスではクリスマスなのかもしれない。

 ちなみに、クリスマス・プディングには、蒸すときに生地の中に銀貨などを隠し入れて、切り分けられたプディングにそれが入っていた人には来年幸運が訪れるという「フォーチュン・クッキー」のような趣向もあり、これなどはまさに年頭の「おみくじ」そのものだ。


 読んでしまえばあっという間の短いコラムですが、ネタを探すのは毎回気苦労です。
 もともとはページ数調整のために書いたのが始まりなんですが、なんとなく毎回書くのが恒例となってしまい……気がつけば「今度は何書くの?」というプレッシャーが加わるように。これがなければプログラム作りはぐっと楽になるんですが。
 ただ、外注するとなると、テーマとか文字数とか早めに頼まなくてはなりませんが、自分で書く分には締切ギリギリまでひっぱれるし、文字数もレイアウトを同時に調整しながら書けるので安心かつ確実。「自分を使うって便利だなー」と思いつつ、自分に便利に使われている自分っていったい……とも思ったりします。

 とりあえず、無事演奏会が終わって重責から解放されました。
 これでなんとか心やすらかに年を越せそうです。



トッパンホールのロビー。



立体の座席表もおしゃれ!座席数は400といつも使うホールに比べるとやや少な目。



10時半よりゲネプロ開始。本番前に全曲通すので、指揮者もコーラスもペース配分が大変です。



ゲネプロ中。



アンコール最終曲の「きよしこの夜」では、照明を落として“キャンドルサービス”ならぬ“ルミカライトサービス”を行う演出を。ゲネプロで初めて練習しました。



初めて道具を使った類人猿……じゃなかった(←失礼)。折ると光るルミカライトに興味津々の東京男声合唱団のおじさま方。



ゲネプロ終了直後のホール内。
最後列から舞台を撮影。



本番です。東京男声合唱団が登場し、混声になるのはラストの第4部から。



1部〜2部の衣装は、白ブラウス&黒スカート&ゴールドのコサージュ。



3部〜4部の衣装は、金ラメ入りの白ブラウス&クリスマスカラーのグリーンのスカート。



「ジングルベル」では鈴の効果音も入ります。効果音担当者、とっても楽しそうでノリノリでした。



いつもソリストでゲスト出演してくれるソプラノの淵岡さん。今回はコーラスの助っ人としての出演のみでしたが、その美声は大勢の中でもひときわ目立っていて、メンバーをぐいぐいひっぱってくれました。淵岡さんの隣りで歌う人は自分もうまくなったような気分になれるのでお得です(笑)。

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16年越しの「譜めくりの謎」が今明らかに…!

 前回書いたサンクトペテルブルグ・オーケストラの話をもう1回ひっぱります。一緒に書いちゃってもよかったんだけど、ちょっと長くなりすぎるので分けました。

 じつは、今回オケ裏の席になって、もうひとつ楽しみにしていたことがありました。
 それは、「譜めくりの謎」です。
 ずーーーっと前から不思議だったんですよ。

 「譜めくりする瞬間に音が小さくならないのはなぜなのか?」

 だって全員が一斉に同じタイミングで譜をめくったら、その瞬間は音が切れちゃうじゃないですか。
 2人で1個の譜面台を見ていて、どっちかが譜めくりしたとしても、その瞬間は弾いてる人が半分になっちゃうんですよ。
 変だと思いませんか?

 この疑問を、以前、オーケストラで弾いてる人たちに聞いたことがあるんですが、開口一番「……いやなこときくなぁ」と言われました。
 さらにつっこんだら、「片方がめくってるときは、もう片方が頑張って倍の音量で弾くんだよ」と言われました。そんなアホな…。
 さらにさらに「でも、めくる寸前に弾くのがめんどくさいなーっていう部分がきたら、めくる人は『よっしゃ。弾かなくて済む。ラッキー』とか思いませんか?」としつこく食い下がったところ、若いメンバーは「あー、わかります。私、そういうときはゆっくりめくってる振りしてサボリますよ」と正直に答えてくれました。
 そのときは納得したような、しないようなって感じだったんですが、じつはこのときの私には根本的な認識が欠けていたんです。
 おそらく、オケの人たちにとっては常識すぎて、そんなこと相手は当然知ってて聞いてるんだろうと思っていたのでしょう。
 だからあえて説明しなかったんだと思います。
 その事実に、私はこの演奏会でようやく気づいたのです。

 オケ裏から見ると、誰がどのタイミングで譜をめくるのかが一目瞭然です。
 ところが、想像していたように、一斉に譜をめくることってないんですよ。しかも、譜をめくる回数がすごーく少ない。
 これはいったいどうしたことなのだ……と不審に思った末、ひとつの推論に思い至りました。

 「もしかして…オケの人たちってパート譜で弾いてるの??」

 要するに、自分の弾くところしか載ってないから楽器によってめくるタイミングもバラバラだし、1頁にいっぱい詰め込めるから楽譜をめくる回数も少ないのではないだろうかと。。。。
 そう考えればすべての辻褄が合います。 
 で、帰ってから専門家に聞いたらその通りでした。

 びっくりしましたよ。
 私はてっきり全員のパートがダーッと並んでいる楽譜を全員が見ているんだとばかり思ってたんで(それは指揮者だけが持っているんだそうです)。
 だってそれじゃ今どのへんやってるかとか、自分がいつまで休みだとかわかんないじゃないですか。
 ヴァイオリンとか、比較的弾きずっぱりになりがちなパートはまだいいけど、出番が少ないパートなんて、「このあと79小節休み」としか書いてないんですよ。不安になりませんか?
 
 これって、たとえば合唱でいうと、アルトはアルトのパートしか書かれてない楽譜を見て歌うようなものですよね。
 芝居で言うと自分のセリフだけ並んでる脚本を読むようようなものですよ。
 ありえないでしょう。
 でも音楽業界の人は誰も不思議だと思ってないようでした。

 ちなみに、弦楽器(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)の楽譜は2人でひとつという決まりがあるんですが、見てたらどうも向かって左側(つまり前から見ると右側)に座っている人がめくるというルールがあるようでした。
 正確に言うと、コンマス(指揮者の左側に座っている)を一番外側と規定し、内側にあたる人がめくるということらしいですが。
 ってことは譜めくり担当席のほうに若輩が座るんでしょうね。
 そう言われてみると、めくるほうが「先輩ッ。自分、お邪魔でなければ今めくらせていただきます!」って感じで、もう一人はふんぞりかえって弓でめくったページをペシッと押さえたりしてなんとなく後ろ姿からも上下関係が伝わってくる気がする。
 でも時々若輩が出遅れてベテランが手を出しちゃうこともあったりして、そのときは「(あわあわと)す、すみません」「(憮然と)いいから」「(心の中で)やべー」みたいなやりとりが背中から伝わってきてこっちも緊張します。

 16年前にサイトウキネン・オーケストラのヨーロッパ巡業についていったことがあって(オケの人に話を聞いたのはこのとき)、そのときに「弦はエリートで個人主義っぽいけど、管楽器って上下関係すごいはっきりしてて体育会系だなー。金管グループなんてほとんどたけし軍団みたい」と感じたのを思い出し、もし管楽器が2人で1つの譜面だったらもっとこういう雰囲気が濃厚に漂うかも……などとマニアックな想像がふくらみました。

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「ハンカチ・マエストロ」と「ちょい不良コンマス」

 クラシックオタクの柿右衛門@弟からサンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団のチケットがまわってきたので杉並公会堂まで聴きに行ってきました。
 最近は、たまーにオペラに行くようになったものの、あらためて考えてみるとオーケストラを聴きにいくのは久しぶりかも。

 正直なところ、自分で積極的にとったチケではないし、予備知識もほとんどないまま行ったので、行く前はそれほど期待はしていませんでした。
 オーケストラって、オペラみたいにドラマを楽しめるものじゃないし、演奏されている曲を知らないと気持ちよくなって寝てしまう可能性大なので。
 ところが、座席番号をさがしあてたところで期待は一気にふくれあがりました。
 なんとオケの後ろ側の席だったんです。それも最前列!
 舞台よりさらに高い位置から見下ろすように鑑賞することになるので、指揮者の表情もよく見えるし、オーケストラのメンバー一人ひとりの様子も手にとるようにわかる。
 こんなにおいしい席に座ったのは初めてです。

 ありがとう、柿右衛門!

 まもなくメンバーが、そして指揮者が舞台に出てきて演奏スタート。
 演奏曲目はチャイコフスキーの「くるみ割り人形」からのダイジェストと、同じくチャイコフスキーの「交響曲第5番」。
 いやー、びっくりしました。
 なにがって音のでかさに。いや、ほんとに。でかすぎだよ、あんたら。で・か・す・ぎ!!
 だいたいどのオーケストラでも、「弦は音が大きいけど金管が弱い」とか多少はばらつきがあると思うんですが、このオケはどの楽器が、とかじゃなく、どいつもこいつもまんべんなくでかいの。これって本当にナマ音? どっかにマイク仕込んでない?っていうくらい。後ろから聴いててこれなんだから、前で聴いたらいったいどんなことになってるんだろうと蒼白になりましたよ。

 しかもソロパートがまわってくると、皆さん、さらに張り切ってでかい音に。
 フルートの3人官女は髪振り乱して親の仇のように吹きまくってるし、ハープは陶酔してトランス状態になっちゃってるし、手がベルの中に入らないくらい肥えた石ちゃんのようなホルン吹きは耳が壊れてるとしか思えないような大音量だし、普通はそんなに目立たないはずの中途半端なポジションのヴィオラも野太いうなり声をあげているし、コントラバスの重低音は劇団★新感線並の迫力、トロンボーンにいたっては思わず殺意をおぼえるほどの大音響でした。
 歌なら「身体が大きいから声もでかい」っていうのは納得できるけど、楽器って必ずしも力持ちだから大きな音が出るわけじゃないと思うんだけどなあ。なんで外人というだけでこんな音が出るんだろう。不思議だ。

 よくいえば「情熱的でパワフル」、悪く言えば「暴走集団」。
 当然のことながら、合わせるとか、リズムを正確に刻むとか、細かいとこには超大雑把。帳尻はなんとなく合ってるんだけど(当たり前か。帳尻も合わなかったらもはやオーケストラじゃないよな)。
 まあ一言でいってしまえば「全員のだめ状態」って感じでした。
 オーケストラは合わせるものですから、合わない時点でもうダメだと思うんですよ。一部の楽器が突出して目立ってしまったら全体の調和を乱してしまうわけだし。
 そういう観点からいったら決して「いい」とは言えないんですが、でも情に訴えるところは妙にツボをおさえてるんですよね。

 なんだろう。前にロシア民謡を聴いたときにも思ったんですが、ロシアの土着のスピリットってなんか日本人の郷愁にピッタリくるものがある。
 初めて聴く気がしないっていうか。「なつかしい」気がするの。
 チャイコフスキーは、ロシアの作曲家にしてはヨーロッパナイズされてる(=洗練されてる)ほうだと思うのですが、それでもやっぱり匂い立ってくる“ロシアの民族魂”みたいなものがあって、ロシア人が演奏するとそこがいっそう強調されるんですわ。
 そういうところは気持ちいい。たしかに。
 今まで聴いてきたオケは日本人中心が多かったので、こういうタイプのオケってあんまり聴いたことがないかも。
 日本人のオケは逆にきれいにまじりあってて正確でどこも突出することがないし、安心して聴いていられるんだけど、心がざわつくような感じはないんですよね。
 ……という国民性の問題で片づけようとしたら、どうもそれだけではないことがあとでわかりました。

 サンクトペテルブルグ・フィルは、旧ソ連でもっとも古い歴史をもつオーケストラで、帝政時代(19世紀後半)から活動していたそうです。ロシア革命でペトログラード→レニングラードと都市名が変わったのに伴い、オーケストラの名称も変化していき、1991年、ソ連解体でまた昔の名前(サンクトペテルブルグ)に戻りましたが、最も長く名乗っていたのがレニングラードだったので、世界的にはレニングラード・フィルという名称が一番なじみがあるかもしれません。
 このレニングラード・フィルの名声を築いたのが、1938年〜1988年という長きにわたって君臨してきたカリスマ指揮者・ムラヴィンスキーでした。
 今の姿を見ると信じられませんが、なんでもこの指揮者の時代のレニングラード・フィルは、非常に統制のとれた一糸乱れぬオーケストラだったとのこと。
 こういう伝統というのは、オケメンバーの世代が変わったからといってそれだけでそうそう簡単に変わるものではないそうなので、となるとこの変化は「指揮者が変わったから」という理由も大きいと思われます。
 「オーケストラが暴走する」のは、「指揮者がなめられているから」というのが業界のお約束(これは演劇も同じです)。指揮者のキャラの問題にくわえ、ソ連解体→民主化という社会の流れに呼応するように、オーケストラの民主化も進んでいったのかもしれませんね(ムラヴィンスキー死去とソ連解体がちょうど入れ替わりくらいの時期だったというのも偶然だけど皮肉といえば皮肉だし、なにやら象徴的です)。

 現在の指揮者・テミルカーノフは、ムラヴィンスキーのあとを継いだ指揮者ですが、ムラヴィンスキーの50年にはおよばないものの、就任期間18年はかなりの長さです。
 にもかかわらず、私がそばで観た印象では、「指揮者のカラーとオケのカラーがちぐはぐ」な感じがしたんですよね、たしかに。
 テミルカーノフは、一言でいうと「すかした爺さん」って感じ。ちょっと気取ってて、ジェントルで、たとえていうなら柳生博系(笑)。「ナイスミドルって呼んでいいよ」みたいな雰囲気。
 1曲終わるたびに懐から白いハンカチを出して汗をぬぐうさまはまさしく「ハンカチ・マエストロ。まさか「日本ではこのパフォーマンスがうける」とかリサーチしてきたんじゃなかろうな(笑)。

 対して、オーケストラのメンバーは野性とパッション優先の「のだめ系」。今にも農民一揆とか起こしそうで、いかにも相性悪そうです。
 中でも気になったのはコンサートマスター。これがまたひとくせありそうなおっさんなんですよ。容貌は「池田理代子のマンガに出てくる精悍でセクシーなおじさん系」とでもいいましょうか。長めの銀髪を無造作にかきあげるワイルドな仕草といい、鋭い視線といい、チューニングで立ち上がるときの無駄に派手なパフォーマンスといい、目が釘付けになるかっこよさ。ちょっといかつい「ロシアのちょい不良オヤジって感じです。
 このコンマスが団員をザザッとねめまわすさまは、まさに「影の番長」。「ベルばら」で言うと、フランス衛兵隊にオスカルがやってきたときのアラン・ド・ソワソンみたいなポジションです。「悪いが、俺ら、あんたの下では働けねえ」とか言っちゃうタイプね。
 思えば、この「ハンカチ・マエストロ」と「ちょい不良コンマス」のちぐはぐさが、すべてを物語っていたのかもしれません。わかりやすく言えば、担任が替わってクラスが荒れちゃった状態。「学級崩壊」は言い過ぎですけど。

 終演後、後ろの客(女性)が「ホルンの音が汚い。無神経すぎる。あれっていいと思ってやってるのかな」と怒っていましたが、それに対して連れの男性がひとしきりウンチクを語ったあげく、最後に

「まあ、要するにロシア人っていうのは抑制のきかない民族なんだよ」

 とまとめていたのが笑えました。
 たしかに、本来のロシア人はきっとこういう熱いキャラで、指揮者の力が強かったソ連時代はそれがたまたま抑圧されてたんでしょうね。

 その他、ツボだったこと。

●アンコールでスタッフから花束を受け取った指揮者、ヴィオラの2列目にいるおばちゃんにあげていた。まあ、指揮者がもらった花束を女性メンバーにあげるのはお約束らしいが、もっと若い女性もいっぱいいたのになぜこのおばちゃんに? おばちゃんも意外だったようで「あら、私?」みたいなまんざらでもない顔をしていた。想像ですが、このおばちゃん、オケの労組の役員かなんかしてて、日頃激しく指揮者を糾弾していたのではないだろうか。花束贈呈はもちろんハンカチ・マエストロの政治的策略ね。やるなー。柳生博。

●比較的地味な1曲目のアンコールが終わったあと、にこやかに指揮者が再登場し、挨拶をしていたかと思ったら、いきなり(なんのタメもなく)2曲目のアンコール(プロコフィエフの激しい曲)が始まった。この「いきなり始める」というパフォーマンスもけっこう指揮者がかっこつけたいときにやるパターンらしく、その「いきなり」に涼しい顔でついてくるオケのメンバーもまた「職人はいかなる状況でもやるのさ」みたいなかっこよさをアピールできる。……と思いきや、ふと見ると最後列(つまり私の席からは一番近いところ)のクラリネット奏者1人だけが、この「いきなり」についていけなくて、「え? どこ? どこ? きいてないよ〜」って感じでクラを口にくわえたままあせってものすごいスピードで譜面をめくりまくっていた(笑)。この人、ソロもいまいちの出来だったんでエキストラかもしれないなー。

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プロフィール

HN:
伊万里
性別:
女性
職業:
劇作家・ライター
趣味:
旅行 骨董 庭仕事

著作



「RE>PLAY〜一度は観たい不滅の定番」

Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!

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