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古伊万里★新伊万里

劇作家・唐沢伊万里の身辺雑記です

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冬ドラチェック(1)

 冬ドラが始まってはや3分の1が経過しました。
 周囲では「今期は不作」とのブーイングも多いですが、一応年の始めだし、さらっと印象を書いておこうかと思います。

「天地人」(NHK/日曜8時〜)

「篤姫」人気の余波を受けてか、高視聴率を維持しているという「天地人」。
ちょっと前に武田信玄方の大河を散々見ていただけに、また時代を引き戻されて今度は上杉謙信方の話を見せられてもちょっと気持ちがついていけない部分もあるんですが、まあ今のところ前作の「ホームドラマ大河」を踏襲している感じですね。
とにかく子役がかわいすぎて、5歳の子を母親から引き離す話から始めるだけでもう反則です
喜平次が雪の中、与六を迎えに行って初めて心を打ち明けるシーンはほほえましくてよかったんだけど、次の瞬間、子役があっけなく北村一輝と妻夫木聡になってたのにびっくりでした。
もっと子役時代の2人がだんだん結びついていくまでのエピソード(寺を出て謙信のもとで教育を受けるあたり)が見たかったよ。
妻夫木はともかく、子役がいきなり北村一輝とか東幹久とかトウがたちまくってる役者に変わるのが、一気に汚れてしまったみたいで違和感ありまくりでした(笑)。
しかも北村一輝が「奥手の殿」って……ケンカ売ってる??
高島礼子の息子が北村一輝ってのもいかがなものかですね。
でも阿部ちゃんと高島礼子の姉弟ショットは、「結婚できない男」のコンビを彷彿とさせて嬉しい。
そういや阿部ちゃん、また未婚の役だね。今度は「結婚できない武将」か…。

「ヴォイス」(フジ/月曜9時〜)

医者ものは数々あれど、法医学というのはおもしろい切り口だなと思います。
死者を相手にしているように見えるけど、死者もちょっと前までは生きていた人間だったわけで、医学の知識を使って死者の人生(思い)を再現しようとする試みはおもしろいです。
死んだら終わりではなく、死んだ後にも「救い」があるんだというのがこのドラマのメッセージ。
「こんなの警察の仕事にまで踏み込んでるじゃん」「一介の学生にこんなに簡単に真相がわかるわけない」などの批判も聞きますが、「医者もの」にも「刑事もの」にも飽きている私には、そのちょうど中間にあるこのドラマのほうがむしろ興味深いです。
変死体というと、すぐに「殺人事件?」「犯人は?」「殺しの手口は?」という発想にいってしまいがちだけど、ここには「悪意」が介在する変死体は登場しません(今のところ)。そこが新鮮ですね。「死因を知ることで生き残った者が死者の思いやりに触れ、救われる」という展開も、ベタだけどカタルシスがあります。
ただ、心配なのは、まだ3回だからいいけど、これから先もずっと同じ1話完結パターンでいくのかなということ。NHKとかで、5回くらいのドラマだったらいいけど、さすがに3ヶ月続く連ドラではもたないのでは?
法医学業界の問題点とか、研究室内での深刻な葛藤とか、そういう外圧っぽいネタも入れ込まないと飽きてくるかも。
あとは登場人物のキャラがわりと薄いので、そこを濃いめに作るとか。時任三郎とか、もったいない扱いですよね。
まったり進む連ドラは扱いが難しいな…。

「メイちゃんの執事」(フジ/火曜9時〜)

「イケパラ」や「花男」路線を狙ったのだと思いますが、基本的な疑問として「こんなの執事じゃねえよ」というのがありまして。
執事ってもっと事務職みたいなイメージがあるんで、なんかイメージが違うんですよね。
「付き人」?「召使い」?……まあよくいって「ナイト(騎士)」かな。
どっちかっていうとホストみたいに見えちゃうのが安っぽい。
多分、執事が感情を表しすぎるというか、人間くさいのが生々しくてよくないのではないかと。執事らがもっとアンドロイドみたいで、プライベートの顔をいっさい見せないくらいのほうが絵空事っぽくて楽しめる気がする。
安いといえば、超お嬢様学校というわりに生徒もみんな安っぽい。
意地悪の仕方とかも70年代の少女漫画みたいでベタすぎ。
浮世離れしたお嬢様ならもっとわけわからない言動を見せて庶民のメイを翻弄してほしいです。

「トライアングル」(フジ/火曜10時〜)

推理もののわりにはなぜかあまり緊迫感を感じないのはなぜなんだろう。
江口洋介がいつもニヤニヤしてるせいか。
可もなく不可もなし。

「神の雫」(日本TV/火曜10時〜)

いかにも漫画原作っぽいテイスト……。
「芸術に生きる父を憎悪する息子」「しかし血は争えない」「グルメ対決」……どこかで見たようなモチーフの連続。

「キイナ」(日本TV/水曜10時〜)

菅野、久々の不思議ちゃん系で登場。
落ちの持って行き方は「ヴォイス」に近いものがあるんだけど、こっちのほうが無理矢理感あり。
超常現象も科学で解明できれば「なーんだ」って話で、その種明かしを毎回やられてもドラマとしてはどうなんだろう。バラエティ番組の再現ドラマで充分って気がします。

「ありふれた奇跡」(フジ/木曜10時〜)

久々の山田太一連ドラ。今期一番の楽しみだったし、始まってからもやっぱりこれが一番楽しみです。
これははまる人と拒否反応起こす人とにはっきり二分されそう。
掲示板見てると、「セリフが古くさい」「現代人はあんなしゃべり方しない」という非難が目立つのですが、あれは古くさいんじゃなくて山田くさいんです。
山田太一は20年前からああいうセリフでしたが、当時でも作為的なセリフ術は異彩を放ってました。つまり当時でも新しいわけじゃなかった。
私にとって、古くさいというのはこのあいだまで連ドラ書いてた某大御所みたいなセリフです。

山田太一が「語尾にいたるまでセリフを一字一句変えるな」とうるさかったのは有名な話。
「変えるな」とうるさい作家は他にもいっぱいいるけど、「たしかにこれ1カ所でも変えたら世界観全部崩れるよな」と思うくらい作りこまれてるのは山田太一だけ。
他の作家で山田太一ほどこだわりをもってセリフを書いてる人はいないでしょう。
正直、今回はやりすぎだと思わないでもなかったけど、もう慣れてきました。
久しぶりに飲んだ漢方みたい。「こんなにくさかったけ。<間>あー、たしかにこんな味だったね。ごくごく」って感じ。

今回、初回の放送を見たとき、あらためて「山田太一のセリフの不自然さ」を痛感しました。
なぜなら、しゃべってる役者が明らかにしゃべりにくそうにしゃべってたんで。
執拗に短い言葉を重ねていったり、急に言葉がとんだり、語順が乱れたり、省略がききすぎたり……といった不自然さ満載なのが山田節の特徴。
「普段の会話ってこういう乱れがあるよね」という部分を整理せずにわざとそのまま残している。
でももちろん現実の会話そのまま再現してるわけではなく、それっぽく見せながら実際はこんな言い方しないという架空のしゃべり方を再構築していってるわけです。

一方、一般のシナリオライターが書いたドラマのセリフはもっとナチュラルでしゃべりやすいです。言い換えれば役者の生理、視聴者の生理に合わせて書かれている感じで、意味もわかりやすい。
でもそれが進みすぎるとセリフに込められた作家の生理(言ってみればこれが作家性というもの)は後退し、限りなく役者の地に近い役になってしまう。
「この人、どの役をやっても同じだね」と言われる人は、たいていこのパターンです。
でも山田節の違和感は役者に容易な同化を許しません。

たとえば新劇などでは、作家の書いた言葉は絶対で、役者が自分のしゃべりやすいように言葉を変えるなんてもってのほか、それは能力のない証拠と思われます。
違和感があるのは当たり前で、そこから稽古を重ねて役のしゃべり方を自然に見えるような形に練り上げていくのが役者の力量であり、仕事であるというのが舞台役者の矜持です(小劇場業界はまたべつですが)。
でもそれは稽古期間が長いからできることで、稽古期間などほとんどないスケジュールで撮っているテレビドラマ業界では異質な考えに違いありません。

そういう意味では山田太一のセリフは舞台っぽいのかもしれないし(実際、舞台も何本か書いてますしね)、だからこそ初回のセリフがみんな不自然に聞こえたのではないでしょうか。
なんだか若手からベテランまで、もれなくセリフにふりまわされてる印象を受けました。
その中で、唯一自然に山田ワールドの住人になりきっていたのが風間杜夫。彼は舞台出身であるばかりでなく、山田太一の舞台も経験済なので免疫があるのかもしれません。

山田ドラマの妙味はコミュニケーションの綱引き。
家族であろうが、初対面であろうが、思っている事を思いのままにぶつけあうコミュニケーションなんてありえません。
誰だって、相手の反応を読みながら、押したり引いたり、気をひいたり、まわりくどい表現をしたり、見当違いなこと言ったりして、距離を縮めたり伸ばしたりしてるわけです。
その駆け引きが、本人は大まじめでも、外からみるとくすっとさせられたり、ほろっとさせられたりする。
その繰り返しのはてに、気がつくと「役者」ではなく「役の人物」の体温を感じて親近感をおぼえるようになる。
そこまでいったらもう山田ドラマはやめられません。
話の展開がどうとか、動機がどうとか、そんなものはすべておまけみたいなもんです。

本来はこういうのが連ドラの王道だと思うんだけど、そんなドラマを書いてくれるシナリオライターはなかなかいなくなりました。
山田太一、今回が連ドラ最後とかいう話ですが、むしろ連ドラを書いてほしいんだけどなー、私は。

 一番書きたかった「ありふれた奇跡」について書いたらあとはどうでもよくなってきましたが、とりあえずここまでで半分。残り半分はまた次回ということで…。

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江戸時代のファーストフード

 あけましておめでとうございます。
 本年もよろしくお願いいたします。
 皆さんはどんなお正月をお過ごしでしたか?
 初詣で神社に参拝された方も多いと思いますが、神社つながりということで、初投稿は昨年10月に旅行した伊勢について書くことにします。

 前にもちょっとお話しましたが、伊勢には過去2回行ったことがあるんですけど、1回目はどしゃぶりで印象希薄、2回目は急病で途中帰宅したため伊勢に寄ることができず。どうにもこうにも伊勢には縁が薄い私でした。
 その分、お伊勢さんへの思いはどんどん高まり、「今度こそさわやかな秋晴れの中でお伊勢参りを!」と期待がふくらんだのですが、残念ながら今回も天候はいまいちでした。
 でも雨にあたったのは内宮の早朝参拝時だけだったし、あとは曇りといっても晴れに近い薄曇りで、旅行で歩き回るには悪くない気候でした。

 まずは旅行初日。
 名古屋経由で、近鉄の伊勢市駅に到着したのが12時10分。
 いきなりランチタイムです。
 伊勢名物といえば「伊勢うどん」!
 太めの麺に真っ黒の出汁をからめて食べるんですが、この出汁の量が異様に少ないのが特徴。
 一説によると、お伊勢参りの参道で参拝客に出されたいわばファーストフードなので、汁を残されるとあと洗うのが大変なんで……っていうのが理由らしい。身も蓋もない理由や〜!
 伊勢うどんで有名な店は伊勢市にはいくつかありますが、今回は、時間の関係上、駅から一番近い「山口屋」に入りました。

 メニューの順番を見ると、「いせうどん」「うすくちうどん」「そば」「きしめん」とあります。
 どうやら「うすくちうどん」というのがいわゆる一般的なうどんのことらしい。ローカルフードのほうが全国区フードよりも上にきているところに気概を感じます。
 と、そこまではわかったのですが、わからないのはその次の「そば」です。
 最初に「いせそば」、次に「うすそば」とあります。
 ってことは、「そば」にもローカルと全国区があるのか?
 ていうか、「いせそば」ってなに?!
 太めのそばに異様に量の少ないそばつゆがからまってるのか?!
 これも参拝客用に開発されたファーストフードなのか?
 すごく気になります。
 まさか「きしめん」も……?とメニューをおそるおそる確認しましたが、「いせきしめん」と「うすきしめん」なるものはなく、こちらは普通に「きしめん」オンリーでした。


 というわけで、私が今回注文したのはこちら。
 「伊勢うどん」「てこね寿司」「さめのたれ」という伊勢名物3品がセットになった1日限定20食の「郷土食膳」。


 「さめのたれ」はさめの肉を天日干しにしたもの。
 「たれ」というのは「たれに浸ける」の「たれ」ではなく、干すときに垂れ下がっているさまからそう呼ばれているそうです。
 さめの肉を食べる地域は珍しいですが、伊勢では神様のお供え物としてポピュラーな食べ物なので、地元の人も普通に食べているとのこと。
 お味は……えーと、これは干し鱈の味ですね。酒の肴って感じ。ひとかけらしか出てこなかったのでその程度の感想しか言えませんが。

 「てこね寿司」は、志摩の漁師がよく食べている郷土料理。醤油と砂糖をベースにしたタレにカツオを漬け込み、酢飯の上に並べて海苔やしそやしょうがを薬味としてふりかけたもの。
 前にも食べたことがあって、それは普通においしかったんだけど、ここのは……うーん、うどん屋で出してるものだからといえばそれまでなんだけどちょっと……いまいち。
 カツオも料理屋で出るもののように新鮮とはいいがたく、たれの味は甘すぎるし、酢飯ももっと酢が効いてないと味がしまらない。中途半端なヅケ丼って感じでした。

 そして看板料理の「伊勢うどん」!
 見た目は……はっきり言ってかなりまずそう。
 こういう食べ物なんだ。普通のうどんとは別物なんだ。という予備知識がいくらあっても、やっぱり「のびきったうどん」と「吸いきってしまった出汁」にしか見えず。。。
 しかし一口食べてみたら……
 という展開を期待したのですが、やっぱり普通にまずかった。
 もちろん、伊勢うどんがおいしい!あれが好き!という人もいるのでしょうが、私の味覚ではNGでした。
 出汁は真っ黒な見た目ほど味が濃いわけではなく、普通にカツオだしがきいててくせのない味でした(もともとはたまり醤油をかけただけだったらしいですが、それから出汁を加えるようになって味もどんどん改良されたようです)。
 が、私が気持ち悪かったのは「味」よりも「温度」でした。
 「ぬるい」んですよ。
 まあ参道で手早く食べられるファーストフードですから、熱々じゃ食べるの時間かかるし、冷たく冷やしきるのも手間がかかるし、その結果いきついた温度が「ぬるい」というのは理屈ではわかるんですよ。
 でも飲食店に入ってわざわざ注文していきなりぬるいもの食べさせられるのはやっぱり抵抗があります。

 そして世界一太いのではないかというあの「麺」!
 芯は固いのにまわりはブニョブニョという不思議な食感で、これはツルツルシコシコプリプリの麺ではあのドロッとしたたれがドップリからまないという理由でいきついた形なのだと思います。
 でもやっぱり……これは……私の中では「うどん」というより「すいとん」の味です。
 そして麺もやっぱり……ぬるかった……。
 
 「名物にうまいものなし」と言いますが、伊勢うどんに関しては法則通りでした。
 今回はうどんの話だけで終わってしまいましたが、続きはまた次回。
 伊勢うどんを食べたことがある人、ぜひ感想をきかせてくださいませ。

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心に残った“ベストプレイ5”(2008年度)

 今年も残すところあと1日となりました。
 というわけで、恒例の「心に残った“ベストプレイ5”」を発表したいと思います。

 イベント続きで忙しかった昨年に続き、今年も観劇本数は少なめでした(特に前半は)。もっとも今年は忙しいというより、精神的に疲弊していて観劇する元気がなかったというほうが正確なんですが…。
 数えてみたら年間観劇数は44本でした。これはくしくも昨年と同じ数になります。自分にとっては60本くらいがベストの本数かなと思っているので、やっぱりこれだとちょっと少なめかなー。
 それではさっそく印象に残った5本をあげてみましょう(観劇順)。

 「罠」(R.トマ)
   《池袋/サンシャイン劇場》
 「赤シャツ」(マキノノゾミ)
   《新宿/紀伊國屋ホール》
 「空の定義」(青木豪)
   《六本木/俳優座劇場》
 「ラヴ・レターズ」(A.R.ガーニー)
   《京橋/ルテアトル銀座》
 「愛と青春の宝塚」(大石静)
   《新宿/新宿コマ劇場》

 44本をざーっと見渡してみると、今年は比較的「大はずれ」は少なかったような気がします。ないとは決して言いませんが…。
 ただ、観終わったあとはそこそこ「おもしろい」と感じた作品は多くても、時間が経つと薄れてしまうというか、いや、薄れてもいいんだけど、「印象に残った」までいかないというか、ひらたく言うと選ぶ決め手に欠ける作品が多かったのは事実です。

 「罠」の作者トマは、フランスの作家で、いわゆるサスペンス・推理もののジャンルでの大御所です。
 今年は「罠」と「フレディ」という2本のトマ作品を観たのですが、圧倒的に「罠」のほうが完成度高かったです。
 ミステリなので中身には触れませんが、すごくよくできた話で、だまされる醍醐味を存分に味わえます。この手のジャンルでは教科書的作品といってもいいでしょう。
 ただし、役者の出来にはばらつきがあり、もうちょっと頑張ってほしかった人もいました。かみかみ率が異様に高かったのも残念。

 「赤シャツ」は、マキノノゾミが、その昔青年座のために書き下ろした作品。
 「フユヒコ」「MOTHER」と合わせて3部作として連続上演されていましたが、私は「赤シャツ」が一番よかった。
 「フユヒコ」は寺田寅彦、「MOTHER」は与謝野鉄幹・晶子夫妻……と、いずれも実在の人物がモデルですが、「赤シャツ」は「坊ちゃん」の中の脇役を主役に据えるという、いわば漱石の作品を換骨奪胎して作り上げたもの。これが書かれた当時はまだこの言葉はメジャーではなかったと思いますが、今はやりの「スピンオフ(外伝)」です。
 元ネタがあるんだから楽だろうと思われる人もいるかもしれませんが、それは逆です。自分で作ったものの外伝を作るのならともかく、他人の作品、それもムチャクチャ著名な文豪の代表作に手をつけるんですから、これは相当な覚悟が必要です。元ネタが有名であればあるほどそれにひきずられてしまう危険は大きいですし、実際、既存の有名作品を下敷きにするのは非常に難しいのです。
 でも、この「赤シャツ」では、“赤シャツ”と呼ばれた作中の男に対する作者の思い入れや愛情がビンビンに伝わってきたので、その一点ですべてを乗り越えられたように思います。
 原作は“坊ちゃん”と呼ばれた男の一人称で書かれているので、作中の人物はもれなく、ちょっとKYな“坊ちゃんフィルタ”を通して描かれていますが、そのフィルタをとりはずしてくれるのがこの「赤シャツ」です。
 原作のストーリーをなぞりながら、原作とはまったく違う部分が描かれるこの作品には“坊ちゃん”が1回も登場しません。“坊ちゃん”のむこうみずな行動のために迷惑をかけられまくっている周囲の人々が、「“坊ちゃん先生”にも困ったものだ」とこぼすときに話題の中に登場するのみ。
 言ってみれば、これは“坊ちゃん”が知らないところで進行している裏ストーリーなのです。
 たしかに現代人の目から見たら“赤シャツ”が一番共感しやすいと思うし、“坊ちゃん”とか現実にいたらチョー迷惑かも……と思いました。
 他にも“マドンナ”が邪なストーカーだったり、“赤シャツ”が“うらなり”を敬愛してたり、などなど、楽しめる要素が満載。そして最後には“坊ちゃん”にズタボロにボコられた“赤シャツ”にほのかな幸せが待っていて……とラストもいい感じでした。
 マキノ作品は形を作ろう作ろうとする傾向があって、後半はグダグダに流れるケースが多いのですが、「赤シャツ」は「気持ち」がしっかり描けていた結果、「形」もきれいにまとまったという良い例だと思いました。

 「空の定義」は、ちょっと前半テンポ遅いなと思うところもなくはなかったんだけど、そしてやや頭で作られてる感じがあったことも否めないんだけど、終盤はぐいぐいひきつけたし、伏線もきれいに拾われていたし、言いたいことも伝わってきたし、よくできた作品だと思いました。
 今、「現代」の「日本」で生きる「等身大」の人々のリアルなドラマをオリジナルで作るのって非常に難しいです。
 時代を変えたり、SFっぽくしたり、非日常的な事件(殺人とか病気とか)を入れ込まないとドラマが作れないような傾向にある中、「今生きている普通の人たち」に起きるドラマを正面からしっかり描いている点に好感をもちました。

 「ラヴ・レターズ」はリーディングなのでちょっと例外っぽいんですが、多分これが今年一番ひきつけられた作品なのであげてみました。
 詳細はホームページに書いたレビューをご覧ください。

 最後の「愛と青春の宝塚」は、以前お正月のTVドラマで放送された作品を、同じ作者(大石静)が舞台化したもので、戦時中のタカラジェンヌの青春群像を描いた作品。
 大石静は現在TVメインで活躍していますが、元々は永井愛とともに二兎社を主宰していた作家だけあって、舞台のツボも心得ています。
 両方観たけど、舞台のほうが断然いい。
 まあ、出演者がまったく違うんでいちがいに比較はできないけど…。
 ものすごくベタな展開だし、涙腺攻撃をこれでもかとしてくるあざとさも満載ですが、久々に「商業演劇」らしい舞台を観た気分になりました。いい意味で小劇場っぽい小細工がないのもよかった。これだけ大きな劇場でやるなら、やっぱりここまで直球でやってほしいなと思いましたね。
 そしてなによりも出演者を宝塚OGで固めた効果は大きかった。
 正直、TVで同じ役をやった女優たちは見るにしのびなかったです。申し訳ないけど。
 頑張ってるのはわかるんだけど、宝塚スターは一朝一夕にできあがるものではないので、いくらそれらしく作っても違和感だけが募っていき、似て非なるものを見せられている気持ち悪さがどうしても拭えなくて。
 芸の部分でもそうなんですが、それだけではありません。
 宝塚の生徒というのは集団になったときにものすごいエネルギーとオーラを発散して、それが見る人の心を打つんですが、そのパッションがTV版ではまったく感じられなかった。「いかに華やかに見せるか」「いかにスターらしくふるまえるか(歌えるか、踊れるか)」という「形」だけで精一杯って感じで。
 舞台版では、みんなそんなものはとっくに身に付いているので無理しなくてもクリアできてたし、むしろ純粋で真摯なエネルギーだけがストレートに前面におしだされていて、そこに泣きました。ある意味泥くさいエネルギーなんですが、何千人という規模の大きい空間を埋めるためのキャリアを積んでいる彼女たちならではの仕事だと思いました。
 ただ、意外に華やかな部分は少ない(戦時中の話なので)ので、ヴィジュアル面での見せ場はもうひとつ物足りない感じはしました。

 以上です。
 ちなみに、毎回高水準のオリジナルを出してくる三谷幸喜の新作「グッドナイト スリイプタイト」は、期待通り楽しめたんですが、よくも悪くも期待以上ではなかったです。
 やっぱり2人芝居ってのは難しいですね。今回は上演時間2時間といつもより短めでしたが、それでも最後の方は長く感じられました。結末がわかっているものだし、その過程にもすごいサスペンスや秘密があるわけじゃなく、語られるのは最初から最後まで2人の個人的な問題だけなので、時間の行き来が頻繁にあるという趣向はあるものの、少しずつだれてくるのは否めませんでした。個人的には「コンフィダント・絆」や「恐れを知らない川上音二郎一座」のほうが三谷らしいエネルギーが感じられて好きだったなー。
 とはいえ、他の作家が同じような話を書いたらもっと退屈するとは思うので、そのへんはさすが三谷という感じですが…。
 あと戸田さんの役が決まってきちゃって、既視感があるのが損してるなあと。もっといろいろできる人なのにもったいない。
 ……てなわけで今回三谷作品は入れませんでした。

 来年も心躍る舞台に出会えますように!
 皆様も良いお年をお迎え下さい。

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プロフィール

HN:
伊万里
性別:
女性
職業:
劇作家・ライター
趣味:
旅行 骨董 庭仕事

著作



「RE>PLAY〜一度は観たい不滅の定番」

Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!

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