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古伊万里★新伊万里

劇作家・唐沢伊万里の身辺雑記です

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心に残った“ベストプレイ5”(2008年度)

 今年も残すところあと1日となりました。
 というわけで、恒例の「心に残った“ベストプレイ5”」を発表したいと思います。

 イベント続きで忙しかった昨年に続き、今年も観劇本数は少なめでした(特に前半は)。もっとも今年は忙しいというより、精神的に疲弊していて観劇する元気がなかったというほうが正確なんですが…。
 数えてみたら年間観劇数は44本でした。これはくしくも昨年と同じ数になります。自分にとっては60本くらいがベストの本数かなと思っているので、やっぱりこれだとちょっと少なめかなー。
 それではさっそく印象に残った5本をあげてみましょう(観劇順)。

 「罠」(R.トマ)
   《池袋/サンシャイン劇場》
 「赤シャツ」(マキノノゾミ)
   《新宿/紀伊國屋ホール》
 「空の定義」(青木豪)
   《六本木/俳優座劇場》
 「ラヴ・レターズ」(A.R.ガーニー)
   《京橋/ルテアトル銀座》
 「愛と青春の宝塚」(大石静)
   《新宿/新宿コマ劇場》

 44本をざーっと見渡してみると、今年は比較的「大はずれ」は少なかったような気がします。ないとは決して言いませんが…。
 ただ、観終わったあとはそこそこ「おもしろい」と感じた作品は多くても、時間が経つと薄れてしまうというか、いや、薄れてもいいんだけど、「印象に残った」までいかないというか、ひらたく言うと選ぶ決め手に欠ける作品が多かったのは事実です。

 「罠」の作者トマは、フランスの作家で、いわゆるサスペンス・推理もののジャンルでの大御所です。
 今年は「罠」と「フレディ」という2本のトマ作品を観たのですが、圧倒的に「罠」のほうが完成度高かったです。
 ミステリなので中身には触れませんが、すごくよくできた話で、だまされる醍醐味を存分に味わえます。この手のジャンルでは教科書的作品といってもいいでしょう。
 ただし、役者の出来にはばらつきがあり、もうちょっと頑張ってほしかった人もいました。かみかみ率が異様に高かったのも残念。

 「赤シャツ」は、マキノノゾミが、その昔青年座のために書き下ろした作品。
 「フユヒコ」「MOTHER」と合わせて3部作として連続上演されていましたが、私は「赤シャツ」が一番よかった。
 「フユヒコ」は寺田寅彦、「MOTHER」は与謝野鉄幹・晶子夫妻……と、いずれも実在の人物がモデルですが、「赤シャツ」は「坊ちゃん」の中の脇役を主役に据えるという、いわば漱石の作品を換骨奪胎して作り上げたもの。これが書かれた当時はまだこの言葉はメジャーではなかったと思いますが、今はやりの「スピンオフ(外伝)」です。
 元ネタがあるんだから楽だろうと思われる人もいるかもしれませんが、それは逆です。自分で作ったものの外伝を作るのならともかく、他人の作品、それもムチャクチャ著名な文豪の代表作に手をつけるんですから、これは相当な覚悟が必要です。元ネタが有名であればあるほどそれにひきずられてしまう危険は大きいですし、実際、既存の有名作品を下敷きにするのは非常に難しいのです。
 でも、この「赤シャツ」では、“赤シャツ”と呼ばれた作中の男に対する作者の思い入れや愛情がビンビンに伝わってきたので、その一点ですべてを乗り越えられたように思います。
 原作は“坊ちゃん”と呼ばれた男の一人称で書かれているので、作中の人物はもれなく、ちょっとKYな“坊ちゃんフィルタ”を通して描かれていますが、そのフィルタをとりはずしてくれるのがこの「赤シャツ」です。
 原作のストーリーをなぞりながら、原作とはまったく違う部分が描かれるこの作品には“坊ちゃん”が1回も登場しません。“坊ちゃん”のむこうみずな行動のために迷惑をかけられまくっている周囲の人々が、「“坊ちゃん先生”にも困ったものだ」とこぼすときに話題の中に登場するのみ。
 言ってみれば、これは“坊ちゃん”が知らないところで進行している裏ストーリーなのです。
 たしかに現代人の目から見たら“赤シャツ”が一番共感しやすいと思うし、“坊ちゃん”とか現実にいたらチョー迷惑かも……と思いました。
 他にも“マドンナ”が邪なストーカーだったり、“赤シャツ”が“うらなり”を敬愛してたり、などなど、楽しめる要素が満載。そして最後には“坊ちゃん”にズタボロにボコられた“赤シャツ”にほのかな幸せが待っていて……とラストもいい感じでした。
 マキノ作品は形を作ろう作ろうとする傾向があって、後半はグダグダに流れるケースが多いのですが、「赤シャツ」は「気持ち」がしっかり描けていた結果、「形」もきれいにまとまったという良い例だと思いました。

 「空の定義」は、ちょっと前半テンポ遅いなと思うところもなくはなかったんだけど、そしてやや頭で作られてる感じがあったことも否めないんだけど、終盤はぐいぐいひきつけたし、伏線もきれいに拾われていたし、言いたいことも伝わってきたし、よくできた作品だと思いました。
 今、「現代」の「日本」で生きる「等身大」の人々のリアルなドラマをオリジナルで作るのって非常に難しいです。
 時代を変えたり、SFっぽくしたり、非日常的な事件(殺人とか病気とか)を入れ込まないとドラマが作れないような傾向にある中、「今生きている普通の人たち」に起きるドラマを正面からしっかり描いている点に好感をもちました。

 「ラヴ・レターズ」はリーディングなのでちょっと例外っぽいんですが、多分これが今年一番ひきつけられた作品なのであげてみました。
 詳細はホームページに書いたレビューをご覧ください。

 最後の「愛と青春の宝塚」は、以前お正月のTVドラマで放送された作品を、同じ作者(大石静)が舞台化したもので、戦時中のタカラジェンヌの青春群像を描いた作品。
 大石静は現在TVメインで活躍していますが、元々は永井愛とともに二兎社を主宰していた作家だけあって、舞台のツボも心得ています。
 両方観たけど、舞台のほうが断然いい。
 まあ、出演者がまったく違うんでいちがいに比較はできないけど…。
 ものすごくベタな展開だし、涙腺攻撃をこれでもかとしてくるあざとさも満載ですが、久々に「商業演劇」らしい舞台を観た気分になりました。いい意味で小劇場っぽい小細工がないのもよかった。これだけ大きな劇場でやるなら、やっぱりここまで直球でやってほしいなと思いましたね。
 そしてなによりも出演者を宝塚OGで固めた効果は大きかった。
 正直、TVで同じ役をやった女優たちは見るにしのびなかったです。申し訳ないけど。
 頑張ってるのはわかるんだけど、宝塚スターは一朝一夕にできあがるものではないので、いくらそれらしく作っても違和感だけが募っていき、似て非なるものを見せられている気持ち悪さがどうしても拭えなくて。
 芸の部分でもそうなんですが、それだけではありません。
 宝塚の生徒というのは集団になったときにものすごいエネルギーとオーラを発散して、それが見る人の心を打つんですが、そのパッションがTV版ではまったく感じられなかった。「いかに華やかに見せるか」「いかにスターらしくふるまえるか(歌えるか、踊れるか)」という「形」だけで精一杯って感じで。
 舞台版では、みんなそんなものはとっくに身に付いているので無理しなくてもクリアできてたし、むしろ純粋で真摯なエネルギーだけがストレートに前面におしだされていて、そこに泣きました。ある意味泥くさいエネルギーなんですが、何千人という規模の大きい空間を埋めるためのキャリアを積んでいる彼女たちならではの仕事だと思いました。
 ただ、意外に華やかな部分は少ない(戦時中の話なので)ので、ヴィジュアル面での見せ場はもうひとつ物足りない感じはしました。

 以上です。
 ちなみに、毎回高水準のオリジナルを出してくる三谷幸喜の新作「グッドナイト スリイプタイト」は、期待通り楽しめたんですが、よくも悪くも期待以上ではなかったです。
 やっぱり2人芝居ってのは難しいですね。今回は上演時間2時間といつもより短めでしたが、それでも最後の方は長く感じられました。結末がわかっているものだし、その過程にもすごいサスペンスや秘密があるわけじゃなく、語られるのは最初から最後まで2人の個人的な問題だけなので、時間の行き来が頻繁にあるという趣向はあるものの、少しずつだれてくるのは否めませんでした。個人的には「コンフィダント・絆」や「恐れを知らない川上音二郎一座」のほうが三谷らしいエネルギーが感じられて好きだったなー。
 とはいえ、他の作家が同じような話を書いたらもっと退屈するとは思うので、そのへんはさすが三谷という感じですが…。
 あと戸田さんの役が決まってきちゃって、既視感があるのが損してるなあと。もっといろいろできる人なのにもったいない。
 ……てなわけで今回三谷作品は入れませんでした。

 来年も心躍る舞台に出会えますように!
 皆様も良いお年をお迎え下さい。

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プロフィール

HN:
伊万里
性別:
女性
職業:
劇作家・ライター
趣味:
旅行 骨董 庭仕事

著作



「RE>PLAY〜一度は観たい不滅の定番」

Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!

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