古伊万里★新伊万里
劇作家・唐沢伊万里の身辺雑記です
春ドラチェック(1)
- 2009/05/14 (Thu)
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快適な庭仕事が楽しめたのもつかの間、あっという間に屋外作業には暑すぎる気候になってしまいました。
うちの花壇の中心には、「ミントブッシュ」というミントの匂いがする常緑低木が鎮座しているのですが、今年の春は花がよくつきました。
ちなみに上の写真は4月のピーク時に撮ったもので、今はもう花期は終わってしまい、さっぱりと刈り込まれています。
植えたのはちょうど1年前ですが、そのときの画像がこれ。
こんなに大きくなったんだ!とあらためてびっくりです。
ミントブッシュに限らず、どの植物も最初はちっちゃくて花壇はスカスカだったんですが、今ではすっかり密集状態。時々は思い切って散髪(?)してやらないといけないんですが、刈り込むのって素人にはなかなか難しいですね。
こちらは前回お花をアップしたソラマメ。
実がつきました!
ソラマメってなんでソラマメっていうのかご存知ですか?
最初はこのように天に向かってさやがつくので「ソラマメ」。中の豆が徐々に太って、さやが重くなってくるにつれて下へ垂れていき、完全に下がったら「収穫どき」なんだそうです。
この写真はまだ上向きですが、今はもっと大きく太ってほぼ下がってます。そろそろ収穫かな。
さて、ここからが本題。
恒例の新ドラマチェックです。
気がつけばもうすでに1ヶ月。今さらやってもどうかと思わなくもないんですが、せっかくなのでやってみます。
今期、私が一番楽しんでるのは「白い春」(フジ/火曜10時〜)です。
基本シリアス+人情ベタ系なんだけど、「結婚できない男」チームが作ってるだけあって、随所にいい感じでペーソス入ってます。
大人げないいやがらせが日本一似合う男、阿部ちゃん(笑)。
今回は、恋人のために殺人を犯して9年間服役した元ヤクザという役どころ。
出所したての阿部ちゃんが、遠藤憲一(パン屋。すごくいい人の設定)にいやがらせするのに、毎朝町の中にある重いもの(バス停やらお地蔵様)をひきずってきてパン屋の扉の前に置くというエピソードには爆笑しました。
で、その都度エンケンが律儀にそれを元の場所に返しにいくんだけど、ひきずるのが重くて、ゴロゴロ回転させたところ「あ、こっちのが楽」と気がついて、お地蔵様を回転させながら「すいません…すいません…」って何度も謝ってるのにまた爆笑。
どっかに「阿部ちゃん、一文無しで空腹で倒れそうなはずなのに、パン屋より早起きして、あんな体力使って地味ないやがらせするなんて…」と書かれてたけど、私も同じこと思った。
警戒心むきだしのおっかない元ヤクザという設定ですが、エネルギーのつかいどころが変というか、どっか抜けてる。だから子供にもつけいれられるというのがおかしい。
阿部ちゃんの娘を演じるのが大橋のぞみちゃん。
阿部ちゃんが服役してすぐに生まれた子なので、お互い親子だとは知らないのですが、屈託なくなつかれて戸惑いを隠せない阿部ちゃん。
最初は「ぽにょ、演技できんの?」と不安でしたが、予想通りかなりたどたどしかったです。でも慣れてくると、変に達者すぎる子役よりも、無垢な感じが出ていていいように思えてきました。
今後は、「恋人の病気治療のために命をかけてつくった800万はどこへ消えたのか?」あたりを謎として残しつつ、吉高演じる若い女が横糸でからみ、ぽにょを巡って阿部ちゃんとパン屋が男同士の人情をガッツリ見せていくという展開になりそう。
思いがけない展開があるようなタイプのドラマではないけれど、作中人物の魅力をしっかり描くことによって視聴者をひきつける手腕は「結婚できない男」に続いて健在。
阿部ちゃんの役どころも「結婚できない男」とはまったく違うようでどこかテイストが似ています。
空腹にじっと耐えているところに、ぽにょから「はい。食べる?」とパンを差し出され、苦い顔をする阿部ちゃんを見て、「『あなたがどうしてもというなら』と言って受け取るんじゃないか」と思ったのは私だけではないはず(笑)。
眼光するどくバナナを貪り食う阿部ちゃん(どう見ても目張り入れてる…)、炊き出しの列に並ぶ頭一つ飛び出ている阿部ちゃん、子供に向かって「明日もパンもってこい。親には言うなよ」とすごむ阿部ちゃん、小学生を脅してチビらせる阿部ちゃん、おいしすぎる絵柄連発でたまりません。
次に楽しんでるのは「名探偵の掟」(テレビ朝日/金曜深夜〜)です。
賛否あるようですが、私は予想以上に楽しんでます。
ジャンルとしては、「トリック」とか、「33分探偵」とか、その流れを汲むタイプの深夜ドラマですが、私はこの2つより好きです。
センスという点では「トリック」に軍配が上がるのかもしれないし、バカバカしさという点では「33分探偵」のほうが徹底してるのかもしれませんが、この2作にはない「名探偵の掟」のおもしろさは、作者のアイロニーが目一杯にじみでている点でしょう。
ご存知の通り、この作品は、今では超売れっ子の東野圭吾が、何をやっても売れなかった時期に、半ば「やけくそ」になって書いたというもの。
いわば、推理ものに毎度現れる「お約束」を、売れない推理作家が自虐的におちゃらかしてみせたのがこの作品誕生のきっかけというわけ。
言っちゃあなんですけど、これは売れてない作家でなきゃやろうと思わないでしょう。さらに言えばほんとにその作家が売れないまま終わったらその作品も世に出ることはないわけだから、「売れなくて→売れた」作家にしかできない仕事だったと言えるでしょう。そこがおもしろいんですよ。
私は推理ドラマ好きでもなんでもないけれど、そんな私でも、このドラマを見ているとあらためて「そういえばこういうパターンあるある。見たことある」という既視感に襲われてニヤリとしてしまいます。
それは「こんなの都合よすぎるよ」とか「この人が気づかないのってありえないでしょ」などつっこんではいけないものばかりで、それこそが「推理ドラマの掟」(作る側ではなく見てる側の)なわけですが、このドラマではその掟に縛られるのが登場人物自身というところがミソ。
普通、登場人物の感情は作者の手の中に握られていて、作者が作り出す物語進行に沿って役割を果たしていくわけですが、それがいきすぎると登場人物はトリックを説明するための単なる「駒」になってしまい、読者の興味も人物よりも謎解きにシフトしていってしまいます。
ここに出てくる主要登場人物3名(名探偵・間抜けな警部・その部下の若い女刑事)は、そんな自分たちの「駒」としての役割をはっきりと自覚していて、かなり状況に無理があっても、自分的には不本意であっても、作者の意図通り動こうと努力するのですが、そんな努力をあざ笑うかのように事態が「お約束」とは違う方向に動いていく。
自分たちに課せられた掟と、思うようにならない物語展開の間で板挟みになる彼らの姿は、シチュエーションコメディとして立派に成立しています。
3人以外の登場人物は、自分たちが「物語の登場人物」であり、作者(=神)に与えられた役割を生きていることを知らない。
でも3人は自分たちが「登場人物の掟」から逃れられないことを知っており、作者(=神)が自分たちに何を求めているのか知っている。
この2つの異なる視点が混在しているところが一番おもしろい。
登場人物であって登場人物の枠を越えている3人が、自分の役割について愚痴を言い合うシーンは、まさに推理作家への逆襲であり、東野圭吾は登場人物の口を借りて古今東西の売れてる推理作家に復讐(というと言葉きついので「揶揄」でもいい)したかったのかなと思ったりして。
同時に登場人物に対する作者の愛情も見えたりして、それが見ていて楽しいのかもしれません。
名探偵の松田翔太は、さすがのオーラだし、香椎由宇は今まで見た中で一番生き生きしていてツッコミキャラがお似合い。ビジュアル的にも松田とは相性がいい。
木村祐一は、演技と呼べるレベルではないんだけど、それが「役割をまっとうするために決められたセリフを必死に言う」というシチュエーションにマッチしていてかえって好印象。
思い通りにいかないとすぐにすねて「僕、もう帰っていいですか」とわがままをいう名探偵、それをあの手この手でなだめて主役としての自覚を促そうとする警部、それを冷ややかにみつめ、しばしば掟に反する行動をとろうとする女刑事。
この図式もすっかり定着してきて、キャラのバランスにも隙がない。
深夜に見るドラマとしてはなかなかいい線いってると思います。
この2本の他はそれほど熱心に見てないんですが、一応他のドラマにも軽く触れておきます。
まったくノーマークだったんだけど前田司郎が脚本ときいてびっくらこいて見ることにした「漂流ネットカフェ」(TBS/水曜深夜〜)。
前田司郎といっても一般の人にはほとんど知名度がないと思いますが、彼は五反田団という超マイナーな劇団の主宰者で、おそらくはTVとは真逆の世界で生きている人です。
私は前田さんの作品を観たことはないんですが、とにかくすさまじく「わけわかんない」シュールな話を書くことで有名らしいです。
以前、シアタートークで前田さんがお話するのを聞いたんですが、「演劇なんて努力して人に受けるもの書いたって動員できる数はたかだかしれてるし、それで儲かるわけではない。だったら100人未満の人が気に入ればOKという話を書いたっていいじゃないか」とすがすがしいほど「マイナーで悪いか!」という気分全開で開き直ってました(笑)。まあ、そう言われればたしかにその通りなんですけどね〜。
その前田さんが深夜とはいえTVを書く!
たしか「より多くの人を満足させる作品を書けと言われて、それがお金になる仕事ならもちろんそういうものを書きますよ」とも言っていたので、「前田司郎、公約通り万人受けするもの見せてくれるんだろうな!」という野次馬的根性で見始めました。
まあ、オリジナルじゃないので100%前田ワールドではないでしょうが、そうはいってもフツーの脚色で終わるような人ではないでしょう。と思ってたら、聞くところによると原作に忠実なのは初回だけで、2回目以降はまったく変えてしまってるとのこと。
タイトルからわかる通り、話の内容は「漂流教室」のパロディみたいな感じ。
「漂流教室」は残されたのが高校生中心で、ほぼ全員が顔見知りだったのに対し、こちらはネットカフェにたまたま居合わせた他人同士というところがポイント。
異世界に漂流となると、まず食べ物と水の奪い合いが起こり、弱者がふみにじられる(代表的なものとしては女性がレイプされるなど)という展開が容易に想像できますが、正直そういうシビアな展開は「漂流教室」でおなかいっぱいで、あんまり見たくないなーと思ってたら、こちらの「漂流ネットカフェ」はきわめてまったり平和に進んでいくので、前田司郎もそういう展開にはしたくなかったんでしょうか。
食べ物が限られてるわりには、皆さんそれほど危機感持ってないようだし、一応近くの川に水汲みくらいは行ってるけれど、あとはリゾートに来たように思い思いにくつろいでいる。
そのうちに、どうやらこの異世界はある人物が頭の中で想像した世界(夢)で、彼らはその中に迷い込んでしまったらしいことが明らかになってくる。
つまり、彼らは気がついたら物語の中の登場人物になっていたって感じかな。
だからその人物(創造者)が必要だと思えば、適当なタイミングで食べ物もみつかるようになってる。
でもその人物が死んだら彼らもみんな消えてしまうというわけ。
こういう設定ってすごく演劇くさい気がする。思えば「名探偵の掟」も「気がついたら物語の登場人物になっていた」という設定なので、もしかすると構造の系統としては同じなのかもしれません。
毎回30分で終わってしまうからしょうがないのかもしれないけど、なんか展開が遅く感じられるのが今のところやや不満。
1回目はこういう話、2回目はこういう話っていう目玉がないっていうか、少しずつ進んではいるんだろうけど、いつ見ても話が進んでるように見えないのが連ドラとしては厳しいかな。
モデルのKIKIとかいう女の子が、あまりにも超絶に素人くさい演技で、そのインパクトが今のところ一番強い。あの顔を見てると朝ドラのヒロイン(多部未華子)を思い出す。
「アイシテル」(日本TV/水曜10時〜)は、小学生が小学生を殺すというショッキングな事件を巡って、それぞれの家族の苦悩を描くという重苦しいドラマ。
原作を読んでないのでドラマだけの印象ですが、なんだか薄っぺらいなという印象。まじめに取り組もうとしているのはわかるんですが、あまりにも繰り出されるセリフがどれもこれもストレートすぎるというか、表相的というか、説明的すぎて、いくら熱演されても「作り物」っぽいんですよね。
もちろん、こんなに特異な状況に陥った人の気持ちなんて他人はそうそう想像できるものではないと思いますよ。思うけど、そこを想像力で凌駕するのが作家でしょう。今のところ、一般人が思いつくようなセリフしか出てきてないなというのが正直な感想。
ていうか、みんなしゃべりすぎだよね。5歳の子供を殺された母親があんなにわかりやすい整理された言葉を発するかな、とか思っちゃうんですよ(落ち着いてきた頃ならともかく、事件の直後に)。
言葉にならない思いだけがたまっていって、一見奇妙に思えるような言動をしてしまうとか、いくらでも表現方法はあると思うんですが。
ちょっと厳しい評価かもしれませんが、ここまで難しい題材に取り組むのなら、通り一遍ではなく、そこまでのレベルで引き込んでくれるものを見せてほしいです。
まだまだあるけど、全部書いてるといつまでたってもアップできないので今回はとりあえずここまで!
うちの花壇の中心には、「ミントブッシュ」というミントの匂いがする常緑低木が鎮座しているのですが、今年の春は花がよくつきました。
ちなみに上の写真は4月のピーク時に撮ったもので、今はもう花期は終わってしまい、さっぱりと刈り込まれています。
植えたのはちょうど1年前ですが、そのときの画像がこれ。
こんなに大きくなったんだ!とあらためてびっくりです。
ミントブッシュに限らず、どの植物も最初はちっちゃくて花壇はスカスカだったんですが、今ではすっかり密集状態。時々は思い切って散髪(?)してやらないといけないんですが、刈り込むのって素人にはなかなか難しいですね。
こちらは前回お花をアップしたソラマメ。
実がつきました!
ソラマメってなんでソラマメっていうのかご存知ですか?
最初はこのように天に向かってさやがつくので「ソラマメ」。中の豆が徐々に太って、さやが重くなってくるにつれて下へ垂れていき、完全に下がったら「収穫どき」なんだそうです。
この写真はまだ上向きですが、今はもっと大きく太ってほぼ下がってます。そろそろ収穫かな。
さて、ここからが本題。
恒例の新ドラマチェックです。
気がつけばもうすでに1ヶ月。今さらやってもどうかと思わなくもないんですが、せっかくなのでやってみます。
今期、私が一番楽しんでるのは「白い春」(フジ/火曜10時〜)です。
基本シリアス+人情ベタ系なんだけど、「結婚できない男」チームが作ってるだけあって、随所にいい感じでペーソス入ってます。
大人げないいやがらせが日本一似合う男、阿部ちゃん(笑)。
今回は、恋人のために殺人を犯して9年間服役した元ヤクザという役どころ。
出所したての阿部ちゃんが、遠藤憲一(パン屋。すごくいい人の設定)にいやがらせするのに、毎朝町の中にある重いもの(バス停やらお地蔵様)をひきずってきてパン屋の扉の前に置くというエピソードには爆笑しました。
で、その都度エンケンが律儀にそれを元の場所に返しにいくんだけど、ひきずるのが重くて、ゴロゴロ回転させたところ「あ、こっちのが楽」と気がついて、お地蔵様を回転させながら「すいません…すいません…」って何度も謝ってるのにまた爆笑。
どっかに「阿部ちゃん、一文無しで空腹で倒れそうなはずなのに、パン屋より早起きして、あんな体力使って地味ないやがらせするなんて…」と書かれてたけど、私も同じこと思った。
警戒心むきだしのおっかない元ヤクザという設定ですが、エネルギーのつかいどころが変というか、どっか抜けてる。だから子供にもつけいれられるというのがおかしい。
阿部ちゃんの娘を演じるのが大橋のぞみちゃん。
阿部ちゃんが服役してすぐに生まれた子なので、お互い親子だとは知らないのですが、屈託なくなつかれて戸惑いを隠せない阿部ちゃん。
最初は「ぽにょ、演技できんの?」と不安でしたが、予想通りかなりたどたどしかったです。でも慣れてくると、変に達者すぎる子役よりも、無垢な感じが出ていていいように思えてきました。
今後は、「恋人の病気治療のために命をかけてつくった800万はどこへ消えたのか?」あたりを謎として残しつつ、吉高演じる若い女が横糸でからみ、ぽにょを巡って阿部ちゃんとパン屋が男同士の人情をガッツリ見せていくという展開になりそう。
思いがけない展開があるようなタイプのドラマではないけれど、作中人物の魅力をしっかり描くことによって視聴者をひきつける手腕は「結婚できない男」に続いて健在。
阿部ちゃんの役どころも「結婚できない男」とはまったく違うようでどこかテイストが似ています。
空腹にじっと耐えているところに、ぽにょから「はい。食べる?」とパンを差し出され、苦い顔をする阿部ちゃんを見て、「『あなたがどうしてもというなら』と言って受け取るんじゃないか」と思ったのは私だけではないはず(笑)。
眼光するどくバナナを貪り食う阿部ちゃん(どう見ても目張り入れてる…)、炊き出しの列に並ぶ頭一つ飛び出ている阿部ちゃん、子供に向かって「明日もパンもってこい。親には言うなよ」とすごむ阿部ちゃん、小学生を脅してチビらせる阿部ちゃん、おいしすぎる絵柄連発でたまりません。
次に楽しんでるのは「名探偵の掟」(テレビ朝日/金曜深夜〜)です。
賛否あるようですが、私は予想以上に楽しんでます。
ジャンルとしては、「トリック」とか、「33分探偵」とか、その流れを汲むタイプの深夜ドラマですが、私はこの2つより好きです。
センスという点では「トリック」に軍配が上がるのかもしれないし、バカバカしさという点では「33分探偵」のほうが徹底してるのかもしれませんが、この2作にはない「名探偵の掟」のおもしろさは、作者のアイロニーが目一杯にじみでている点でしょう。
ご存知の通り、この作品は、今では超売れっ子の東野圭吾が、何をやっても売れなかった時期に、半ば「やけくそ」になって書いたというもの。
いわば、推理ものに毎度現れる「お約束」を、売れない推理作家が自虐的におちゃらかしてみせたのがこの作品誕生のきっかけというわけ。
言っちゃあなんですけど、これは売れてない作家でなきゃやろうと思わないでしょう。さらに言えばほんとにその作家が売れないまま終わったらその作品も世に出ることはないわけだから、「売れなくて→売れた」作家にしかできない仕事だったと言えるでしょう。そこがおもしろいんですよ。
私は推理ドラマ好きでもなんでもないけれど、そんな私でも、このドラマを見ているとあらためて「そういえばこういうパターンあるある。見たことある」という既視感に襲われてニヤリとしてしまいます。
それは「こんなの都合よすぎるよ」とか「この人が気づかないのってありえないでしょ」などつっこんではいけないものばかりで、それこそが「推理ドラマの掟」(作る側ではなく見てる側の)なわけですが、このドラマではその掟に縛られるのが登場人物自身というところがミソ。
普通、登場人物の感情は作者の手の中に握られていて、作者が作り出す物語進行に沿って役割を果たしていくわけですが、それがいきすぎると登場人物はトリックを説明するための単なる「駒」になってしまい、読者の興味も人物よりも謎解きにシフトしていってしまいます。
ここに出てくる主要登場人物3名(名探偵・間抜けな警部・その部下の若い女刑事)は、そんな自分たちの「駒」としての役割をはっきりと自覚していて、かなり状況に無理があっても、自分的には不本意であっても、作者の意図通り動こうと努力するのですが、そんな努力をあざ笑うかのように事態が「お約束」とは違う方向に動いていく。
自分たちに課せられた掟と、思うようにならない物語展開の間で板挟みになる彼らの姿は、シチュエーションコメディとして立派に成立しています。
3人以外の登場人物は、自分たちが「物語の登場人物」であり、作者(=神)に与えられた役割を生きていることを知らない。
でも3人は自分たちが「登場人物の掟」から逃れられないことを知っており、作者(=神)が自分たちに何を求めているのか知っている。
この2つの異なる視点が混在しているところが一番おもしろい。
登場人物であって登場人物の枠を越えている3人が、自分の役割について愚痴を言い合うシーンは、まさに推理作家への逆襲であり、東野圭吾は登場人物の口を借りて古今東西の売れてる推理作家に復讐(というと言葉きついので「揶揄」でもいい)したかったのかなと思ったりして。
同時に登場人物に対する作者の愛情も見えたりして、それが見ていて楽しいのかもしれません。
名探偵の松田翔太は、さすがのオーラだし、香椎由宇は今まで見た中で一番生き生きしていてツッコミキャラがお似合い。ビジュアル的にも松田とは相性がいい。
木村祐一は、演技と呼べるレベルではないんだけど、それが「役割をまっとうするために決められたセリフを必死に言う」というシチュエーションにマッチしていてかえって好印象。
思い通りにいかないとすぐにすねて「僕、もう帰っていいですか」とわがままをいう名探偵、それをあの手この手でなだめて主役としての自覚を促そうとする警部、それを冷ややかにみつめ、しばしば掟に反する行動をとろうとする女刑事。
この図式もすっかり定着してきて、キャラのバランスにも隙がない。
深夜に見るドラマとしてはなかなかいい線いってると思います。
この2本の他はそれほど熱心に見てないんですが、一応他のドラマにも軽く触れておきます。
まったくノーマークだったんだけど前田司郎が脚本ときいてびっくらこいて見ることにした「漂流ネットカフェ」(TBS/水曜深夜〜)。
前田司郎といっても一般の人にはほとんど知名度がないと思いますが、彼は五反田団という超マイナーな劇団の主宰者で、おそらくはTVとは真逆の世界で生きている人です。
私は前田さんの作品を観たことはないんですが、とにかくすさまじく「わけわかんない」シュールな話を書くことで有名らしいです。
以前、シアタートークで前田さんがお話するのを聞いたんですが、「演劇なんて努力して人に受けるもの書いたって動員できる数はたかだかしれてるし、それで儲かるわけではない。だったら100人未満の人が気に入ればOKという話を書いたっていいじゃないか」とすがすがしいほど「マイナーで悪いか!」という気分全開で開き直ってました(笑)。まあ、そう言われればたしかにその通りなんですけどね〜。
その前田さんが深夜とはいえTVを書く!
たしか「より多くの人を満足させる作品を書けと言われて、それがお金になる仕事ならもちろんそういうものを書きますよ」とも言っていたので、「前田司郎、公約通り万人受けするもの見せてくれるんだろうな!」という野次馬的根性で見始めました。
まあ、オリジナルじゃないので100%前田ワールドではないでしょうが、そうはいってもフツーの脚色で終わるような人ではないでしょう。と思ってたら、聞くところによると原作に忠実なのは初回だけで、2回目以降はまったく変えてしまってるとのこと。
タイトルからわかる通り、話の内容は「漂流教室」のパロディみたいな感じ。
「漂流教室」は残されたのが高校生中心で、ほぼ全員が顔見知りだったのに対し、こちらはネットカフェにたまたま居合わせた他人同士というところがポイント。
異世界に漂流となると、まず食べ物と水の奪い合いが起こり、弱者がふみにじられる(代表的なものとしては女性がレイプされるなど)という展開が容易に想像できますが、正直そういうシビアな展開は「漂流教室」でおなかいっぱいで、あんまり見たくないなーと思ってたら、こちらの「漂流ネットカフェ」はきわめてまったり平和に進んでいくので、前田司郎もそういう展開にはしたくなかったんでしょうか。
食べ物が限られてるわりには、皆さんそれほど危機感持ってないようだし、一応近くの川に水汲みくらいは行ってるけれど、あとはリゾートに来たように思い思いにくつろいでいる。
そのうちに、どうやらこの異世界はある人物が頭の中で想像した世界(夢)で、彼らはその中に迷い込んでしまったらしいことが明らかになってくる。
つまり、彼らは気がついたら物語の中の登場人物になっていたって感じかな。
だからその人物(創造者)が必要だと思えば、適当なタイミングで食べ物もみつかるようになってる。
でもその人物が死んだら彼らもみんな消えてしまうというわけ。
こういう設定ってすごく演劇くさい気がする。思えば「名探偵の掟」も「気がついたら物語の登場人物になっていた」という設定なので、もしかすると構造の系統としては同じなのかもしれません。
毎回30分で終わってしまうからしょうがないのかもしれないけど、なんか展開が遅く感じられるのが今のところやや不満。
1回目はこういう話、2回目はこういう話っていう目玉がないっていうか、少しずつ進んではいるんだろうけど、いつ見ても話が進んでるように見えないのが連ドラとしては厳しいかな。
モデルのKIKIとかいう女の子が、あまりにも超絶に素人くさい演技で、そのインパクトが今のところ一番強い。あの顔を見てると朝ドラのヒロイン(多部未華子)を思い出す。
「アイシテル」(日本TV/水曜10時〜)は、小学生が小学生を殺すというショッキングな事件を巡って、それぞれの家族の苦悩を描くという重苦しいドラマ。
原作を読んでないのでドラマだけの印象ですが、なんだか薄っぺらいなという印象。まじめに取り組もうとしているのはわかるんですが、あまりにも繰り出されるセリフがどれもこれもストレートすぎるというか、表相的というか、説明的すぎて、いくら熱演されても「作り物」っぽいんですよね。
もちろん、こんなに特異な状況に陥った人の気持ちなんて他人はそうそう想像できるものではないと思いますよ。思うけど、そこを想像力で凌駕するのが作家でしょう。今のところ、一般人が思いつくようなセリフしか出てきてないなというのが正直な感想。
ていうか、みんなしゃべりすぎだよね。5歳の子供を殺された母親があんなにわかりやすい整理された言葉を発するかな、とか思っちゃうんですよ(落ち着いてきた頃ならともかく、事件の直後に)。
言葉にならない思いだけがたまっていって、一見奇妙に思えるような言動をしてしまうとか、いくらでも表現方法はあると思うんですが。
ちょっと厳しい評価かもしれませんが、ここまで難しい題材に取り組むのなら、通り一遍ではなく、そこまでのレベルで引き込んでくれるものを見せてほしいです。
まだまだあるけど、全部書いてるといつまでたってもアップできないので今回はとりあえずここまで!
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「RE>PLAY〜一度は観たい不滅の定番」
Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!
Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!
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