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古伊万里★新伊万里

劇作家・唐沢伊万里の身辺雑記です

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ドキュメンタリーとドラマの相性

 今日は、ものすごーく久しぶりに電車に乗って外出しましたが、呼吸機能の低下は予想以上でした。
 家から駅まで歩いただけで息があがってしまい、地下鉄の階段では心臓が破れそうに……。やはり軽いとはいえ、喘息の影響は侮れませんね。
 変な話、呼吸機能が低下すると、食べるのも疲れるんですよ。
 食欲はあるんですけど、勢いがつかないっていうか、途中で息が切れたりして休み休み食べるので時間がかかる(←ま、これはちょっと大げさですが)。
 息もつかずにものすごいスピードでガツガツ食べ物をたいらげる人を見ると、つくづく「食べるのにも体力いるよな」と実感します。

 それはさておき。
 夜にウーマンズ・ビートドラマスペシャル「溺れる人」(日本TV)を見ました。
 「第3回ウーマンズ・ビート大賞」を受賞したドキュメンタリー作品をドラマ化したもので、アルコール依存症の苦しみから立ち直ろうとする女性を篠原涼子が演じています。

 まず、びっくりしたのは、篠原涼子を溺愛する母親役の栗原小巻の演技。
 栗原小巻自体が見かけるのが久しぶりで驚いたのですが、そのおそろしく新劇チックなあざとい芝居っぷりに呆然。
 最近は舞台出身の役者さんでもTVでは自然な演技をするのが普通なので、ここまで大げさな演技にはなかなかお目にかかれません。
 明らかに一人だけ浮いていましたが、本人は「皆。パッションが低いわよ。ちゃんと私についてきてよ!」とかイライラしていたのかも。

 まあ、それはいいんですけど、「アルコール依存症」。こわいです。
 こわいとしかいいようがないです。
 私自身はほとんどお酒は飲めないので、正直他人事として見ていられたのですが、「お酒はわりと好き」という自覚のある人は、きっとこれ見たらこわくて途中で消しちゃうんじゃないでしょうか。
 アルコール依存になるきっかけは本当に些細なことで、「飲むのが好き」と「アルコール依存」の境目は非常に曖昧なので、自分が「アルコール依存症」だと自覚するまでがまず大変らしいです。
 そりゃあ誰だってギリギリまで認めたくないですからね、自分が依存症だなんて。
 しかも、アルコール依存になる人にはプライドが高く、「完全か無か」どちらかしか選択肢がない完璧主義の人が多いとか。
 なので、いったん「自分はダメな最低な人間だ」という認識に入ってしまうと、すべてが悪循環になってしまうのだそうです。

 このドラマの主人公は女性ですが、見ていて「これ、男だったらもっとずっと大変だろうな」と思いました。
 もちろん、飲酒への欲望と戦う姿は壮絶だし、「飲むためならなんでもする」というところまで追いつめられたら男も女もないとは思うんですが、それでもなんだかんだいって女という「性」にはギリギリのところで「自分の体を守ろうとする防衛本能」が宿っているように思えるのです。
 見ているあいだじゅう、「この妻が夫で、助けようとする夫が妻だったら」とシチュエーションを置き換えて想像してみたんですが、もし男が依存症だったら、自分が依存症だと認めて病院へ行くまでがもっと大変だと思うし、助けようとする家族に対する拒絶ももっと激しいと思うんですよ。
 男は、元来、立ち直るエネルギーよりも破滅へ向かうエネルギーのほうが強いのかもしれません。それに対して、女は「100%の自己否定=破滅」を受け入れきれないなにかが先天的に備わっているような気がします。
 だから、悲惨な内容にもかかわらず、不思議とやりきれない気分にはなりませんでした。本人がどんなに「弱さ」を露呈し、「もうダメ」と体中で訴えても、本人の意思や性格とは無関係に体の奥底からわきあがってくる「立ち直りたい」という生への根元的な執着がひしひしと伝わってきたので。

 というようなことを感じつつ、実際に一番強烈に感じたのはじつは「アルコール依存症」とは全然べつのことでした。
 今回のドラマは、ドキュメンタリーの受賞作品をプロのシナリオライターが「ドラマにした」わけですが、見ていて「これはものすごくやりにくい仕事だろうな」と思ったのです。
 もちろん、原作者はドラマに関しては素人なわけだし、ドラマ化にあたってあれこれ口を出したとは思えません。
 「プロの方にお任せします。自由にドラマにしてください」と、素直にドラマ化を楽しみにしていたと思います。
 でも、脚色者の立場になって考えてみると、やっぱり本人の書いたドキュメンタリーをドラマ化するのは作者に対する遠慮が出てかなりやりにくいと思うんですよ。
 作者本人だけじゃなく、作者の家族への配慮はもっとあるでしょうし。

 もしこれが「アルコール依存症の主婦を主人公にしたドラマを作ろう」という出発点から始まった企画だったら、取材で得たいろいろな体験談をミックスして自由にフィクションをくわえることができたと思います。
 「やっぱこの主婦にはなんかトラウマがほしいよね。母親の抑圧が原因で自己否定が強くなるっていう設定にしようか。息苦しい抑圧を感じさせるために母親はこういうキャラにしよう。とすると父親はこういう設定がいいかな」などなど、ドラマをおもしろくするためのフィクションを自由にふくらませることができたでしょう。
 でも今回は固定のモデルによる固定したエピソードなわけですから。
 実際作者のご両親も実在してドラマができあがるのを楽しみに待っているわけですから。
 そりゃあ書くほうだって気を使うし、緊張もしますよね。
 「これはドラマだから」と言っても書かれたほうはいい気しないと思うし。
 「じゃあなに。私の育て方が悪かったってこと?」とかムッとしちゃうかもしれない。
 ムッとしちゃうくらいならいいけど、下手すると傷つけることにもなるし。
 そういうこと考えると、ゼロからフィクションを書くときに比べて何倍も描写に「手加減」が入ってしまうことはしかたのないことで、書き手の葛藤は察して余りあるところですが、見るほうとしてはやはり「ドラマとしてはつっこみが足りないな」という不消化感が残ってしまうのです。
 私がドキュメンタリーのドラマ化にあまり期待しないのは以上のような理由からです。

 実際に起こった事実だけが持つ「力」というものはもちろんあると思いますが、ドラマだけがもつ「力」というものもあり、両者は意外に相性が悪いのです。
 なので、ドキュメンタリーはドキュメンタリーで、ドラマはドラマとして見たいというのが本音なのですが、最近はドキュメンタリー風のドラマやドラマ風のドキュメンタリーが増えてきており、どっちの「力」も感じさせないパターンが目立っています。
 これってどっちにとってもやばい状況なんじゃないでしょうか?



「溺れる人」(本)
カネボウ・スペシャル21「第3回Woman’sBeat大賞」受賞作。
大賞受賞作以外にも4編を収録。

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この記事へのコメント

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たしかに実話はくせもの

実話をもとにしたストーリーって、難しいですよね。
映画「あなたに降る夢」も実話を元にしたというのがウリです。
小銭を持ち合わせていなかった警官が、チップが払えないので宝くじを渡す。もし当たったら当選金額の半分を払う、と約束して。ところがその宝くじが当たって・・・。
という話です。
実話では警官の妻もとても良い人で、「そういう約束なんだからきちんと払いなさい」と快くウェイトレスに払ったそうです。
でも映画では、妻は思いっきり悪役です。
あまりにも人物像が違うので、映画公開時、抗議が殺到したそうです。
映画としておもしろくするには事実をあれこれいじらなくちゃいけないし、でも当事者たちの気持ちというものもあるし・・・。
“実話をもとにした”って、クセモノですね。

ところで、ハンドルネームというのを持ち合わせいないので、急遽つくってみました。これでわかってもらえるかしら・・・。
  • from まめだぬき :
  • 2006/08/12 (22:18) :
  • Edit :
  • Res

依存症、興味あります

>まめだぬきさん

私は、すぐに判りましたよ〜。
その前に、まめだぬきさんに私が誰か判らないかも知れない(^^;

しまった、「溺れる人」見逃してしまいました。
元来、テレビ好きな人間のクセに、最近はテレビも新聞のラテ欄も見ていませんでした。

依存症そのものに興味があって、最近「家族依存症」(斉藤学・著)という本を読みました。
依存症になる人は家族からの影響も大きく、家族のカウンセリングもするんだそうです。
例えば、期待が大きすぎるとか、家族からの愛情を希薄に感じているとかがあり、家族の考え方から変える治療を行うそうです。

共依存をテーマにした、先月18日までシャンテでやっていた映画も見たかったのですが、見られませんでした。
ご覧になられた方、いらっしゃいますか?
  • from 笠間焼き :
  • 2006/08/12 (22:22) :
  • Edit :
  • Res

もし実話を講評会にかけたら

>まめだぬきさん

はじめまして。いらっしゃいませ。
まめだぬきさんは……はい。わかりました。
しかし、「まめだぬき」ですぐわかりましたっていうのも、なんかアレなんで(笑)。「なんでわかったのよ!キー!」とか怒られたらどうしよう…とか。
一応、このあいだから「コメント書き込みたいんだけど、ハンドルネームが思い浮かばなくてなかなか書き込めないの」と言っていたのをきいてたので……それがヒントになったということで。

実話を元にした映画の話、典型的な例ですね。
きっと実話通りの話をオリジナルのような顔をして書いていって講評会にかけたら、「これのどこに葛藤があるんですか?」「人間が薄っぺら」「きれいごとすぎて感情移入できない」「これじゃドラマにならない」「主人公はどこで変化するんですか?」などなど、総バッシングされること間違いなしでしょう。
あげくのはてに「こんないい人ばっかりってリアリティーないよね」とか言われそう。
書くほうも、「本当にあったことなんだから絶対にリアルなはず」と思いこんじゃうんだけど、その過信が逆にドラマとして違和感を生じさせたりする。
やっぱりドラマと現実は似て非なるものだからいいんですよね。

>笠間焼きさん

「溺れる人」もまさにそれですよ。
主人公は母親の過剰な期待に応えられなかった自分を心の奥で否定し続けていた…というのが大きな原因として描かれています。
失敗しても「あれは運が悪かったのよ。あなたは本当はすごくできる子なのよ」と言い続けられ、なかなか楽にさせてもらえないことが主人公を苦しめていたらしい。
「ほめて育てる」というのも、やり方次第によっては人を追いつめるんですね。
  • from 伊万里@管理人 :
  • 2006/08/12 (22:26) :
  • Edit :
  • Res

講評会、目に浮かびます

「溺れる人」ですが、去年の夏ごろでしょうか、新聞に連載されいたのを何度か読みました。読んでいて痛々しかったのでテレビドラマはあえて避けたのですが、やっぱり見てみても良かったかなぁ。原作と脚色の違いについてなど、いろいろ参考になったかもしれませんね。

実話であることとリアリティーがあることとは似て非なるものというご意見、同感です。
たしかに、そのまま講評会に出したら「登場人物がいい人ばかりでつまらないんだよ」「これじゃドラマにならないだろう」と叩きのめされそう! 思わず先生の口調やしぐさまで想像できてしまい、ちょっとわらえました。いや、笑い事じゃないんだけど。

>「ほめて育てる」というのも、やり方次第によっては人を追いつめるんですね。

ギクッ!
我が家は今、まさに「ほめて育てる」のまっさいちゅうです。
息子が何か一つ新しい芸を覚えるごとに祭りのように大げさに誉めそやし、この子は天才だわ!!と本気で感心しています。(典型的な親バカ夫婦です)
うちの子を追いつめてしまわないよう気をつけなくては。
  • from まめだぬき :
  • 2006/08/12 (22:28) :
  • Edit :
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今さらですが訂正です

今さらですが、お詫びと訂正です。
前のコメントに「まめだぬきさん、わかりました」と自信たっぷりに書いた私ですが、全然わかってませんでした(笑)。
本物のまめだぬきさんと、まめだぬきさんにされてしまった偽まめだぬきさん(←いや、本人名乗ってるわけじゃないから偽と違う!)から同時に「あなたは間違っている」との指摘メールをいただきました。ひー。
ここに謹んで訂正します。
と、同時に、「硬派な劇作家集団誕生?!」に出てくる「まめだぬきさん」もじつはまめだぬきさんではなかったことが判明したため、ハンドルネームを変更します。
お騒がせしました〜。
  • from 伊万里@管理人 :
  • 2006/08/12 (22:30) :
  • Edit :
  • Res

ほめかたによりけりなのでは?

>まめだぬきさん

今度はちゃんと誰だかわかって書いてますからね!
「溺れる人」の中のシーンで、1歳になる子供を巡り、おばあちゃん(主人公の母親)が「この子は運動神経がいい。スイミングを始めてみたら?」みたいなことを言い、おとうさんが「まだ早すぎますよ」と言うと、険しい表情で「手遅れになるよりいいでしょッ」とはねつけるところがありました。
こえ〜。手遅れってなんだよ。
泳げるかどうかに手遅れなんてあるのか?
それともオリンピックにでも出すつもり?

「ほめて育てる」こと自体は全然悪くないと思うんですよ。
子供が何かできるようになるたびに親が喜ぶのは当たり前のことだし。そのときの子供はまだプレッシャーなんて感じないだろうし。
あと、本人がひそかに自信持ってる部分についてほめるのは大切だと思います。
問題は、本人が能力の限界や才能のなさを充分痛感しているのに、その現実から目を背けて無理やりほめたり「やればできるはず」と言い張ることです。
できないものはできないんだし!
「ああ、あんた、これできないのね」と言われて楽になることってのもありますからね。
それでも片方で自信のあることをほめてもらえれば「私にはコレがあるから大丈夫」と本人は強く生きていけるのです。
まあ、わかっていても期待してしまうのが親なんですけどね。
  • from 伊万里@管理人 :
  • 2006/08/12 (22:32) :
  • Edit :
  • Res

混乱させてすみません

こちらこそ、混乱を招いてしまいすみませんでした。 <管理人様&偽まめだぬきことヤギさま
なぜか私は不本意な呼び名しかいただけず、「まめだぬき」の他には「悪魔1号」しか候補がなかったのです。(一応エンジェルというのもあったはずなんですが、ヤギさんに実績で負けました)

笠間焼きさま、きっとプラネタリウムに関連のある方かな、と推測しております。違ったらごめんなさい。
  • from まめだぬき :
  • 2006/08/12 (22:34) :
  • Edit :
  • Res

偽まめだぬきです

はじめまして、偽まめだぬきことヤギです(笑)。
「まめだぬき」という言葉から、なぜ私を連想されたのかと思うと少々複雑な思いがあります…(^_^;)。
あ、本物のまめだぬきさんは、とてもかわいらしい方で、ニックネームとずいぶんギャップのある人です。

実在の人物をモデルに作品を書くのは、事実の部分も含めて配慮が必要になってきますよね。
柳美里の「石に泳ぐ魚」の訴訟などみていると、書き手側の気持ちも、書かれた側の気持ちもわかる気がして、その兼ね合いの難しさにいつもため息がでます。
ここまでならいいだろうという物差しも、各々で違いますしね。
  • from ヤギ :
  • 2006/08/12 (22:36) :
  • Edit :
  • Res

言い訳

>ヤギさん

いらっしゃいませ。
先だっては失礼しました。
いや、決して「まめだぬき」で連想したわけでは…(笑)。
言い訳がましいですが、「近いうち書き込むから」と予告があったので、「わかるでしょ?」と書いてあったのを見てもう頭からそうだと思いこんでしまったんです。
これから書き込む皆さんも、ヒントは気持ち多めにお願いします。

私は一度ノンフィクションっぽいものを書いたことがあるんですが、ノンフィクションとなるともっと気を遣う部分が多くて、ストレスたまっちゃって1回で「とても耐えられない」とギブアップしました。
それに比べれば小説やドラマはずっと自由だと思いますが、事実のインパクトの誘惑に負けて細かい部分をそのまま使ったりするとしっぺがえしがくるんですよね。
逆にドラマに事実を盛り込むなら、元ネタが判然としないくらい加工する力がないと難しいかも。
それなら訴えられることもないし。
もちろん、ドキュメンタリーのドラマ化となると元ネタがはっきりしてるのでまたべつの問題になりますが。
  • from 伊万里@管理人 :
  • 2006/08/12 (22:38) :
  • Edit :
  • Res

当たりです

>まめだぬきさん

大当たり〜。
私の正体は予想された通りです。
逆に「プラネタリウム」で「?」と思われる方の方が多いのでは(笑)

まめだぬきさんを判別したのは、HNと文体と「映画」からです。
B4の勉強会で、あるテーマに沿った文章を書き、その文章を書いた人の名前を伏せて筆者と別の人が読むということをやった事があるのですが、誰が書いたかって分かるものなんですよね。
個人個人の特徴、くせが出ていて、一人でほくそえんでいたりしました。
多分、私の書く文章も、私個人が出ているのだと思います。

そういえば、そろそろバースディだね。
一升餅とか背負わせるの?(まるっきり私信だ…)

>ヤギさん

お久しぶりです。
自主勉強会に参加されるのって、実は意外でした。一匹狼のイメージがあったもので。
ここのヤギさんの書込みを読むまで、ずっと別の方をイメージしていました。
この一年間でストックが貯まりましたか?

  • from 笠間焼き :
  • 2006/08/12 (22:40) :
  • Edit :
  • Res

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プロフィール

HN:
伊万里
性別:
女性
職業:
劇作家・ライター
趣味:
旅行 骨董 庭仕事

著作



「RE>PLAY〜一度は観たい不滅の定番」

Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!

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