古伊万里★新伊万里
劇作家・唐沢伊万里の身辺雑記です
「みんな昔は子供だった」の初回報告
冬の連ドラがぼちぼちスタートしましたね。
初回はとりあえずチェックするつもりなので、ビデオにとりためて現在少しずつ見ているところです。
まず最初に見たのは「みんな昔は子供だった」(火10時/フジ)。
舞台は、山の小さな分校。
生徒は小学校4年生の龍平のみ。先生はある事情があって東京からこっちに移住してきたアイ子先生(国仲涼子)。
2人は、大自然に囲まれながら、毎日まったりと分校ライフを楽しんでいる。
そんなある日、彼らの平和な日常が壊される出来事が起こる。
廃校の危機を迎えている分校を存続させるため、校長が都会から子供たちを体験入学させる「山村留学」を受け入れることに決めたのだ。
東京からやってきた子供たちは、小学校3〜5年の男の子3名プラス女の子2名。それぞれワケありの様子で、ついてきた親も問題を抱えていそうなタマばかり。
「こんな塾もないような山村でまともな勉強ができるのか?」とさっそく文句をつけてくる親あり。「若い女の先生は困る」とケチをつける親あり。
中でも最悪なのが、山村留学を利用して「子捨て」にきた父親。
父親が子供を置き去りにしたことに気づいた学校関係者は、子供を施設にひきわたそうとするが、アイ子はどうしてもそれを放置できず、その子に山村留学を続けさせようとする。
地味な話だし、シチュエーションとしてはオーソドックスともいえる設定ですが、初回からひきつける手腕はさすがでした。
脚本の水橋文美江は、フジのヤングシナリオ賞の最終選考に残ったことをきっかけにデビューした作家さんですが、個人的にいつも楽しみにしている人です。
構成、人間の描き方、泣かせるツボ、セリフなど、どれをとっても弱いところがなく、しっかりまとめてくる手堅さがあることに加えて、なんともいえない柔らかな叙情性のようなものが漂うのが魅力です。
ご主人の中江功氏(フジTVの演出家)と組むと、特にその叙情性がきわだちます(医療ミスに高校生が挑んでいく「太陽は沈まない」も、シリアスなテーマながら叙情性と温かさが感じられ、非常に質の高いドラマでした)。
「ビギナー」みたいな都会の職業ものを書くこともありますが、本領を発揮するのは、やはり幻の酒造りに青春をかける「夏子の酒」とか、今回の話のように田舎を舞台にしたすっきりした清潔感のあるドラマでしょう。
今回も水橋さんらしいやさしい描写がいくつもあって、ドラマづくりの勉強になる部分が多々ありました。
一番「うまいな」と印象に残ったシーンをあげてみますと…。
まず、冒頭。
龍平が九九を暗誦するシーンから物語は始まります。
龍平は、小3になるのにいまだに最後までスラスラと九九が言えません。
アイ子先生は「あなたはやればできるはず」と励まし、「どうして途中でとまっちゃうかな」と残念そうに言うのですが、龍平は黙っているだけ。
そのあと、ドラマは山村留学のエピソードになり、都会から子供たちを迎えるものの、そのうちの一人が親に捨てられた子供であることが判明します。
アイ子は、事情があって出直すために東京を出てここに来たわけですが、村の人たちは「そうは言っても一生ここに住む覚悟はないだろう。いずれはここを出ていく人」という認識を捨てられない。
そう言われるとアイ子も「そんなことない。私はここに骨を埋める覚悟だ」とは言い返せず、「村の問題に首をつっこんでえらそうに意見する資格なんて、こんな中途半端な立場の自分にはない」と多少引き気味になるわけです。
なので、捨てられた子供が車で警察へ連れていかれるときも、「なんとかしたい」という歯がゆい思いを抱きながらも、黙って見送るしかなかった。
が、その瞬間、一緒に並んで見送っていた龍平が、いきなり九九を暗誦し始めるんですよ。しかも大声で。
一度もつかえることなく、初めて最後まで九九を言い切った龍平を驚いてみつめるアイ子──。
さて、皆さんなら、ここでアイ子にどんなセリフを言わせますか?
まあ、普通にさらっと考えたら、「龍平くん。すごいじゃない。やったね。だから先生言ったでしょ。龍平くん、やればできるって」と言いながら嬉しそうに龍平に抱きつく……とか、そんな感じでしょうか。アイ子先生はいつもやさしくマイペースなので。
ところが、水橋さんの本ではそうこないんですね。
アイ子は、九九を言い終わった龍平をしばらくみつめ、次の瞬間、怒ったように「やればできるのに、なんでやらないのよ!」と叫び、そのまま車の走り去った方向に向かってダーーーーッと走っていくんです。
アイ子がきつい言葉で急に怒ったときは、無意識に想像していた反応と違ったので「え?」と思ったんですが、次に車のあとを夢中で追っていくアイ子の姿を見て納得しました。
そうか。この言葉は自分に向けて投げつけたものだったんだ、と。
やればできるはずなのに、気持ちのほんの少しの弱さからその壁をなかなか越えられなかった龍平に対するもどかしさと、同じようにいろいろな理由をつけて壁をつくっていた自分へのいらだちがリンクした瞬間、「やればできる」という自分自身が発していたキーワードで自分の呪縛を解いたわけです。
「やればできるのに、なんでやらないのよ!」という言葉は、龍平に対するものであると同時に自分への言葉であり、冒頭の九九のシーンは、二人だけの分校生活の空気感を表すための描写であるのと同時に後のシーンの伏線にもなっている。
こういうふうに、ひとつのセリフ、ひとつのエピソードを、その場の意味を伝えるためだけに使うのではなく、複数の役割を背負わせることによって、行間が生まれ、ドラマが立体的になっていくんですね。
当たり前のようだけど、書く側になるとこれがなかなか難しい。
ついつい、説明のためだけのセリフをダラダラと重ねてしまい、平面的な本になってしまうんですよ。
今後は、東京でアイ子が経験した出来事とはなんなのか…という過去への興味と、龍平と東京からきた子供たちの間でどんな問題が起こるのか…という未来への興味が、ドラマを織りなす縦糸と横糸になっていくことでしょう。
国仲涼子は、まさにイメージ通りのキャスティングで、明るい中にも一抹の「影」を感じさせるさじ加減が絶妙。
達者な子役陣にも期待大。
特に都会からきたモモという女の子を演じている伊藤沙莉は、たしか以前「14ヶ月」で、「中身は35歳だけど外見は10歳」というとんでもない難役を余裕で演じていた早熟の子役なので、今回はどんな芝居を見せてくれるのか楽しみです。
龍平役の子は、一人だけ「田舎の子」という役回りにふさわしい面構え。誰かに似てるなーと思ったんだけど、時任三郎にちょっと似てる。
父親役が時任三郎だったら笑えるけど、残念ながら全然似てない陣内孝則でした。
陣内は、ちょっと前までものすごい中年太りしていてびっくりしたんですが、今回は逆に頬とか首とか骨が浮き出るくらい痩せちゃっててさらにびっくり。
そんなに頻繁に伸縮して大丈夫なのか?
初回はとりあえずチェックするつもりなので、ビデオにとりためて現在少しずつ見ているところです。
まず最初に見たのは「みんな昔は子供だった」(火10時/フジ)。
舞台は、山の小さな分校。
生徒は小学校4年生の龍平のみ。先生はある事情があって東京からこっちに移住してきたアイ子先生(国仲涼子)。
2人は、大自然に囲まれながら、毎日まったりと分校ライフを楽しんでいる。
そんなある日、彼らの平和な日常が壊される出来事が起こる。
廃校の危機を迎えている分校を存続させるため、校長が都会から子供たちを体験入学させる「山村留学」を受け入れることに決めたのだ。
東京からやってきた子供たちは、小学校3〜5年の男の子3名プラス女の子2名。それぞれワケありの様子で、ついてきた親も問題を抱えていそうなタマばかり。
「こんな塾もないような山村でまともな勉強ができるのか?」とさっそく文句をつけてくる親あり。「若い女の先生は困る」とケチをつける親あり。
中でも最悪なのが、山村留学を利用して「子捨て」にきた父親。
父親が子供を置き去りにしたことに気づいた学校関係者は、子供を施設にひきわたそうとするが、アイ子はどうしてもそれを放置できず、その子に山村留学を続けさせようとする。
地味な話だし、シチュエーションとしてはオーソドックスともいえる設定ですが、初回からひきつける手腕はさすがでした。
脚本の水橋文美江は、フジのヤングシナリオ賞の最終選考に残ったことをきっかけにデビューした作家さんですが、個人的にいつも楽しみにしている人です。
構成、人間の描き方、泣かせるツボ、セリフなど、どれをとっても弱いところがなく、しっかりまとめてくる手堅さがあることに加えて、なんともいえない柔らかな叙情性のようなものが漂うのが魅力です。
ご主人の中江功氏(フジTVの演出家)と組むと、特にその叙情性がきわだちます(医療ミスに高校生が挑んでいく「太陽は沈まない」も、シリアスなテーマながら叙情性と温かさが感じられ、非常に質の高いドラマでした)。
「ビギナー」みたいな都会の職業ものを書くこともありますが、本領を発揮するのは、やはり幻の酒造りに青春をかける「夏子の酒」とか、今回の話のように田舎を舞台にしたすっきりした清潔感のあるドラマでしょう。
今回も水橋さんらしいやさしい描写がいくつもあって、ドラマづくりの勉強になる部分が多々ありました。
一番「うまいな」と印象に残ったシーンをあげてみますと…。
まず、冒頭。
龍平が九九を暗誦するシーンから物語は始まります。
龍平は、小3になるのにいまだに最後までスラスラと九九が言えません。
アイ子先生は「あなたはやればできるはず」と励まし、「どうして途中でとまっちゃうかな」と残念そうに言うのですが、龍平は黙っているだけ。
そのあと、ドラマは山村留学のエピソードになり、都会から子供たちを迎えるものの、そのうちの一人が親に捨てられた子供であることが判明します。
アイ子は、事情があって出直すために東京を出てここに来たわけですが、村の人たちは「そうは言っても一生ここに住む覚悟はないだろう。いずれはここを出ていく人」という認識を捨てられない。
そう言われるとアイ子も「そんなことない。私はここに骨を埋める覚悟だ」とは言い返せず、「村の問題に首をつっこんでえらそうに意見する資格なんて、こんな中途半端な立場の自分にはない」と多少引き気味になるわけです。
なので、捨てられた子供が車で警察へ連れていかれるときも、「なんとかしたい」という歯がゆい思いを抱きながらも、黙って見送るしかなかった。
が、その瞬間、一緒に並んで見送っていた龍平が、いきなり九九を暗誦し始めるんですよ。しかも大声で。
一度もつかえることなく、初めて最後まで九九を言い切った龍平を驚いてみつめるアイ子──。
さて、皆さんなら、ここでアイ子にどんなセリフを言わせますか?
まあ、普通にさらっと考えたら、「龍平くん。すごいじゃない。やったね。だから先生言ったでしょ。龍平くん、やればできるって」と言いながら嬉しそうに龍平に抱きつく……とか、そんな感じでしょうか。アイ子先生はいつもやさしくマイペースなので。
ところが、水橋さんの本ではそうこないんですね。
アイ子は、九九を言い終わった龍平をしばらくみつめ、次の瞬間、怒ったように「やればできるのに、なんでやらないのよ!」と叫び、そのまま車の走り去った方向に向かってダーーーーッと走っていくんです。
アイ子がきつい言葉で急に怒ったときは、無意識に想像していた反応と違ったので「え?」と思ったんですが、次に車のあとを夢中で追っていくアイ子の姿を見て納得しました。
そうか。この言葉は自分に向けて投げつけたものだったんだ、と。
やればできるはずなのに、気持ちのほんの少しの弱さからその壁をなかなか越えられなかった龍平に対するもどかしさと、同じようにいろいろな理由をつけて壁をつくっていた自分へのいらだちがリンクした瞬間、「やればできる」という自分自身が発していたキーワードで自分の呪縛を解いたわけです。
「やればできるのに、なんでやらないのよ!」という言葉は、龍平に対するものであると同時に自分への言葉であり、冒頭の九九のシーンは、二人だけの分校生活の空気感を表すための描写であるのと同時に後のシーンの伏線にもなっている。
こういうふうに、ひとつのセリフ、ひとつのエピソードを、その場の意味を伝えるためだけに使うのではなく、複数の役割を背負わせることによって、行間が生まれ、ドラマが立体的になっていくんですね。
当たり前のようだけど、書く側になるとこれがなかなか難しい。
ついつい、説明のためだけのセリフをダラダラと重ねてしまい、平面的な本になってしまうんですよ。
今後は、東京でアイ子が経験した出来事とはなんなのか…という過去への興味と、龍平と東京からきた子供たちの間でどんな問題が起こるのか…という未来への興味が、ドラマを織りなす縦糸と横糸になっていくことでしょう。
国仲涼子は、まさにイメージ通りのキャスティングで、明るい中にも一抹の「影」を感じさせるさじ加減が絶妙。
達者な子役陣にも期待大。
特に都会からきたモモという女の子を演じている伊藤沙莉は、たしか以前「14ヶ月」で、「中身は35歳だけど外見は10歳」というとんでもない難役を余裕で演じていた早熟の子役なので、今回はどんな芝居を見せてくれるのか楽しみです。
龍平役の子は、一人だけ「田舎の子」という役回りにふさわしい面構え。誰かに似てるなーと思ったんだけど、時任三郎にちょっと似てる。
父親役が時任三郎だったら笑えるけど、残念ながら全然似てない陣内孝則でした。
陣内は、ちょっと前までものすごい中年太りしていてびっくりしたんですが、今回は逆に頬とか首とか骨が浮き出るくらい痩せちゃっててさらにびっくり。
そんなに頻繁に伸縮して大丈夫なのか?
「みんな昔は子供だった」(DVD)
出演は国仲涼子他。
脚本は水橋文美江、永田優子。
出演は国仲涼子他。
脚本は水橋文美江、永田優子。
「みんな昔は子供だった」(原作ノベライズ版)
シナリオを小説化したもの。
シナリオを小説化したもの。
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「RE>PLAY〜一度は観たい不滅の定番」
Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!
Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!
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今後も観ようと思います
水橋さんが降板とは…
はじめまして。
たしかに連ドラ日に2本はけっこうきついですよね。
特に「救命病棟〜」は人気ドラマなので、地味な「みんな昔は〜」が煽りをくいそうで心配です。
せっかく水橋さんに興味を持っていただいたのに残念ですが、どうもこのドラマ、水橋さんは降板することになったらしいです。
理由はわかりませんが、3回目以降には名前が載っていないそうなんです。
最近は、最初から最後まで書き通す脚本家が少なくなってますけど、水橋さんは書けなくて降板するような方ではないと思うんですが…。
降板は遺憾ですが、ドラマの行く末は見守りたいと思います。
またcrishiriさんの感想も聞かせてください。