古伊万里★新伊万里
劇作家・唐沢伊万里の身辺雑記です
対面式「キッチン」
最近、観る芝居が貧乏くさいと言われているので(笑)、たまにはブルジョワな芝居にも行かないと!とシアターコクーンに「KITCHEN」を観にいってビンボーの垢を落としてきました。
舞台の中央にはかなりリアルにレストランの厨房を再現。その厨房を挟むように客席が対面式になっています(舞台を挟んで向こう側にもこちら側と同じように客席が作られている)。
蜷川演出は最近この方式が多く、「対面式か搬入口見せるかしか興味ないんか!」とひそかにつっこむ私…。
最初は暗い無人の厨房に、1人、また1人と従業員が集まってきます。人が入って初めて息をし始める「キッチン」。ランチタイムを前に賄いで腹ごしらえをする従業員たち。やがてお客が入り始め、大量のオーダーが入り、厨房はさながら戦場のような狂乱状態になる……。
とにかく、登場する役者の数がメチャクチャ多くてびっくり。最後のカーテンコールで数えたら35人いました。しかも、はっきりとキャラだちしてるのが数人であとはアンサンブルっていうわけじゃなく、群像劇っぽく作られていての35人なのでかなり多く感じました。
群像劇が悪いわけじゃないんだけど、その中でももう少しメインとなる人物を絞って掘り下げてくれないと、観客としてはちょっと観ているのがつらいです。終始大勢の人が出たり入ったりを繰り返す雑然とした空気を出したいのはわかるんだけど、それだけでは演劇として成立しないと思うし。
いろいろな国籍のコックがいて、いろいろな言語がとびかうキッチンという設定はおもしろいと思いますが、はっきり言えば設定だけっていう感じ。人種問題がちょこっと出てくるけど、それもスパイス程度で日本人にはピンときませんでした。
もちろん、演出に関しては「さすが蜷川!」と思いましたよ。
1幕の終わり、ランチタイムに入って徐々に戦場のようになっていく厨房の描写はものすごい迫力で(しかしランチタイム2000人の客っていったいどんなレストランだ?! そんな大量の客をさばくならランチメニューしか出さないようにして、いちいちヒラメとかローストチキンとかオーダーとるなよ!と思ってしまったんですが)、この迫力を出すにはこの人数が必要というのはわからなくもない。役者1人ひとりの精密な動きが織りなすアンサンブルは蜷川ならではのダイナミックさで、ここだけでも見応え充分。が、ここだけかな、みどころは(笑)。
どの人間関係も大味すぎて、ストレートプレイとしては物足りないかなー。
むしろミュージカルだったらもっと虚構性が出せたのでは?と思いました。
というのも、調理器具のガチャガチャいう音に邪魔されてセリフがききづらかったり、誰がどういう状況でしゃべっているのかわかりづらかったりすることが多くて、リアルに厨房を再現したことが仇となって肝心の中身が伝わりにくくなっている気がしたので。
ミュージカルなら、厨房のアクロバティックな動きをダンスに近い形で消化しつつ、メインの人物だけにピンをあててそれぞれの心情を歌で語らせることも可能だし、オーダーが殺到するところなんかも、ミュージカル仕立てにしたら繰り返しがエスカレートしていく感じがおもしろく作れそうな気がする。
もっともそうなるとまったくべつの作品になってしまい、作者の意図とは離れてしまうのかもしれませんが、観客の立場からするとそのほうが観てみたいなーと思いました。
成宮寛貴は、「お気に召すまま」でもそうだったけど、滑舌悪すぎ。
特に今回のように怒鳴るセリフが多いと、まったく何を言っているのかわかりません。しかもお腹から声が出ていないので、常に声がつぶれてしまっているんですよね(「お気に召すまま」のときは、女役なのに声がつぶれてしまっていて悲惨な状況でした)。
今回も対面式の向こう側の客席通路までいって芝居されるともう声が聞こえなくて、これは芝居がどうこういう以前の問題じゃないかと思いました。
杉田かおるは、なんか冷静すぎるっていうか、さっぱりしすぎで、若い男に溺れるようには見えないかな。もうちょっと崩れた魅力があってもいいのでは?と思いますが、日本人はあまり得意じゃないキャラなのかもしれません。
蜷川芝居の常連である高橋洋は唯一安心して見ていられました。
セリフも明瞭だったし、長ゼリフの聞かせ方も心得てるし、何よりも調理のマイムが滑らか。他の人は「マイムだな」とすぐにわかるんだけど、高橋だけは一瞬本当に食材を扱っているように見えたほどうまかったです。
結局、蜷川はこの作品の「演出」に興味をもったんだろうなー。そうとしか思えない。だってこれ、他の演出家がやったら絶対に失敗しそうだもの。まあ、こんなお金かけた舞台、蜷川でなきゃできないってこともあるけど。
もはや蜷川は「自分でなきゃできない演出が要求される演出難易度の高い芝居」にしか興味がないのかも……。
舞台の中央にはかなりリアルにレストランの厨房を再現。その厨房を挟むように客席が対面式になっています(舞台を挟んで向こう側にもこちら側と同じように客席が作られている)。
蜷川演出は最近この方式が多く、「対面式か搬入口見せるかしか興味ないんか!」とひそかにつっこむ私…。
最初は暗い無人の厨房に、1人、また1人と従業員が集まってきます。人が入って初めて息をし始める「キッチン」。ランチタイムを前に賄いで腹ごしらえをする従業員たち。やがてお客が入り始め、大量のオーダーが入り、厨房はさながら戦場のような狂乱状態になる……。
とにかく、登場する役者の数がメチャクチャ多くてびっくり。最後のカーテンコールで数えたら35人いました。しかも、はっきりとキャラだちしてるのが数人であとはアンサンブルっていうわけじゃなく、群像劇っぽく作られていての35人なのでかなり多く感じました。
群像劇が悪いわけじゃないんだけど、その中でももう少しメインとなる人物を絞って掘り下げてくれないと、観客としてはちょっと観ているのがつらいです。終始大勢の人が出たり入ったりを繰り返す雑然とした空気を出したいのはわかるんだけど、それだけでは演劇として成立しないと思うし。
いろいろな国籍のコックがいて、いろいろな言語がとびかうキッチンという設定はおもしろいと思いますが、はっきり言えば設定だけっていう感じ。人種問題がちょこっと出てくるけど、それもスパイス程度で日本人にはピンときませんでした。
もちろん、演出に関しては「さすが蜷川!」と思いましたよ。
1幕の終わり、ランチタイムに入って徐々に戦場のようになっていく厨房の描写はものすごい迫力で(しかしランチタイム2000人の客っていったいどんなレストランだ?! そんな大量の客をさばくならランチメニューしか出さないようにして、いちいちヒラメとかローストチキンとかオーダーとるなよ!と思ってしまったんですが)、この迫力を出すにはこの人数が必要というのはわからなくもない。役者1人ひとりの精密な動きが織りなすアンサンブルは蜷川ならではのダイナミックさで、ここだけでも見応え充分。が、ここだけかな、みどころは(笑)。
どの人間関係も大味すぎて、ストレートプレイとしては物足りないかなー。
むしろミュージカルだったらもっと虚構性が出せたのでは?と思いました。
というのも、調理器具のガチャガチャいう音に邪魔されてセリフがききづらかったり、誰がどういう状況でしゃべっているのかわかりづらかったりすることが多くて、リアルに厨房を再現したことが仇となって肝心の中身が伝わりにくくなっている気がしたので。
ミュージカルなら、厨房のアクロバティックな動きをダンスに近い形で消化しつつ、メインの人物だけにピンをあててそれぞれの心情を歌で語らせることも可能だし、オーダーが殺到するところなんかも、ミュージカル仕立てにしたら繰り返しがエスカレートしていく感じがおもしろく作れそうな気がする。
もっともそうなるとまったくべつの作品になってしまい、作者の意図とは離れてしまうのかもしれませんが、観客の立場からするとそのほうが観てみたいなーと思いました。
成宮寛貴は、「お気に召すまま」でもそうだったけど、滑舌悪すぎ。
特に今回のように怒鳴るセリフが多いと、まったく何を言っているのかわかりません。しかもお腹から声が出ていないので、常に声がつぶれてしまっているんですよね(「お気に召すまま」のときは、女役なのに声がつぶれてしまっていて悲惨な状況でした)。
今回も対面式の向こう側の客席通路までいって芝居されるともう声が聞こえなくて、これは芝居がどうこういう以前の問題じゃないかと思いました。
杉田かおるは、なんか冷静すぎるっていうか、さっぱりしすぎで、若い男に溺れるようには見えないかな。もうちょっと崩れた魅力があってもいいのでは?と思いますが、日本人はあまり得意じゃないキャラなのかもしれません。
蜷川芝居の常連である高橋洋は唯一安心して見ていられました。
セリフも明瞭だったし、長ゼリフの聞かせ方も心得てるし、何よりも調理のマイムが滑らか。他の人は「マイムだな」とすぐにわかるんだけど、高橋だけは一瞬本当に食材を扱っているように見えたほどうまかったです。
結局、蜷川はこの作品の「演出」に興味をもったんだろうなー。そうとしか思えない。だってこれ、他の演出家がやったら絶対に失敗しそうだもの。まあ、こんなお金かけた舞台、蜷川でなきゃできないってこともあるけど。
もはや蜷川は「自分でなきゃできない演出が要求される演出難易度の高い芝居」にしか興味がないのかも……。
「キッチン」(DVD)
2005年の公演を収録したDVD。
演出は蜷川幸雄。
出演は成宮寛貴、杉田かおる、高橋洋他。
2005年の公演を収録したDVD。
演出は蜷川幸雄。
出演は成宮寛貴、杉田かおる、高橋洋他。
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「RE>PLAY〜一度は観たい不滅の定番」
Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!
Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!
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ミュージカルになってますよ
「キッチン」私も5日に見てきたんですが、ホントお金かかってますよね(笑)。
ちなみに、このキッチン、たしか2000年にミュージカルとして上演されてましたよ。
あいにく私は未見なんですが、97アンジョルラス役の森田浩貴さんも出演していて、そこのHPにキャストなどが載ってますよ。
もしよかったら
http://www33.ocn.ne.jp/~vox_humana/Kitchen.html
ちなみにピーターは畠中洋、モニクは鈴木ほのかです。
TV放映もあったようなので、友人がビデオ撮ってるかも。
もし入手したら、ご覧になりますか?
やっぱりあったんだ!
ミュージカルになるとさらにお金かかるでしょうね(笑)。
情報、ありがとうございます。
今、教えていただいたページに行ってまいりましたが、役名が全部載っていて嬉しかったです。
じつはネットで「キッチン」を検索しても全部の役名まで載ってるページが全然みつからなくて不満だったんです(プログラム買えば載ってるんだろうけど、それだけのために買うのはもったいないので)。お陰様でこれをもとに細かい役まで照合できそうです。
ところで、両方ご覧になったレミゼ貧乏さんの感想は?
そっちが気になります。
成宮くん、まだ初日だから
でも、今、友人に、TV放映されたビデオを頼んでいるので、見たら、比較感想をカキコしにきますね。
過日ストレートで見た感想は、やはり、imariさんと同じで、人種問題的なものは、日本人としては理解しづらく、それが支柱となって話が進んでいくので、残念ながら深いところまで分かり合える感じの題材ではなかったです。
でも、何かに(現状にかな)イラついて破綻してしまう過程は、興味深いものがありました。
自分の居場所はここじゃない症候群の人々を、うまく描いてあるとは思います。
ラストで、オーナーが、「仕事を与え、報酬を与え、それ以上、何が欲しいんだ。これでいいじゃないか!何が不満なんだ」的なセリフを言ったと思うのですが、これは、結構、ツボでした。
見ている人ほとんどが「それだけじゃないんだ!」と思ったんじゃないかな。
でも、じゃぁ、”何”が必要なんだ?と、あらためて、我が思考を反芻してしまい、おかげで、眉間にシワができました(笑)。
余談ですが、私が見たのは初日だったのですが、成宮くんが既に、「自分で自分を誉めてあげたい」状態で涙を流していたのがちょっと違和感でした。
ここまでくるのには、大変だったのはわかるけどねぇ…。
まだ、初日だぞぉ…(^^;;;)
なにか救いがほしかった気が
あらためて。ビデオを見た感想をお待ちしています。
私は人種問題もそんなにガッツリ描かれているようには思えなかったんですよね。むしろ「こういうことはくどくど説明しなくても皆わかってるよね」という前提で書かれているようで、そういう意味ではサラッと流されてたような印象を受けました。
何よりもゴチャゴチャしててセリフが聞き取りにくいので、そんな微妙なニュアンスまでくみ取りにくいっていうのが致命的。
さらに言うと、イラついてる人ばっかりというのも観ていてちょっと疲れました。
だからこそクールなユダヤ人パティシエのポール(高橋洋)が目立って見えたんだと思います。
「仕事と報酬、それ以上何がほしいんだ!」という問いかけも、一見決めゼリフのようだけど、レミゼ貧乏さんおっしゃるように「じゃあ何が必要なんだ」という答えが提示されるわけじゃないので、正直「そこで終わるのはずるい」と思いました。
個人的な見解としては、経営者はそれだけ与えれば充分だと思いますけどね(笑)。それ以上のものは自分で捜すものだし、人それぞれ違うでしょうから。
という身も蓋もない感想をもってしまうとあのラストも冷めた気持ちで観てしまうことになります。
難しいとは思うけどなにかひとつ救いがほしかったなと思いました。
>成宮くんが既に、「自分で自分を誉めてあげたい」状態で
>涙を流していた
きっとホッとしたんでしょうね。
ホッとするなよ!というつっこみもわかりますが(笑)。