古伊万里★新伊万里
劇作家・唐沢伊万里の身辺雑記です
「ライト・イン・ザ・ピアッツァ」観たけど…
2005年度のトニー賞6部門を受賞したという作品で、「すごく感動的」という前評判をあちこちで聞いていたので、かなり期待して行きました。
正直に書きます。
私には期待はずれでした。
歌も(難曲なのはわかるけど)「もうちょっとしっかり歌ってよ」と思いましたし、なによりも脚本が……納得できないことだらけで気持ちがどんどんひいていきました。
舞台は、1953年のフィレンツェ。
アメリカ人の母娘が観光旅行を楽しんでいる。
娘のクララ(新妻聖子)は、現地のイタリア人の男の子ファブリツィオ(小西遼生)と出会い、2人は一目で恋に落ちる。
ファブリツィオはなんとかクララを誘おうとするが、そのたびに母のマーガレット(島田歌穂)が邪魔をする。
それでも母はクララを説得することができず、2人はファブリツィオの家へ。
ファブリツィオの両親、兄夫婦は、母娘を歓迎。クララとファブリツィオを結婚させようという話がトントン拍子に進む。
マーガレットは何回も「クララについての重大な秘密」を家族にうち明けようとするが、どうしても言い出せず、悩み、葛藤する。
とうとうクララを連れてフィレンツェを出るという強硬手段に出るマーガレットだが、クララの強い意志を感じ、彼女を手元から飛び立たせることを決意する。
簡単に言うとこんなストーリーです。
このストーリーだけではよくわからないと思うのですが、要するにクララには精神的な障害があるんですね(あまりに無邪気なので10代に見えるがじつは26歳)。
でもそれはパッと見てすぐにわかるものではなく、特にファブリツィオ一家は外国人なので、細かいニュアンスもよくわからないという設定です。
精神障害という新たな設定はあるものの、基本的な設定は映画の「旅情」を思わせます。
アメリカ人のハイミス(←死語!)とイタリア人の中年男(じつは妻子もち)がヴェネツィアで出会って恋に落ちるというもので、不器用な大人の恋って感じが見事に描き出されている秀作でした。くちなしの花など、小道具の使い方もしゃれていて、結局別れが待っていて泣けるんだけど後味が凛としてさわやかで、主人公2人の魅力の描き方も秀逸で、じつにすばらしい映画でした。
しかし、今回は設定が似ているだけに、「『旅情』よりもさらに障害が大きい設定なのに描き方は薄っぺらいな」という印象が否めませんでした。
これがあちこちで「深い」「感動的」と絶賛されるのが私にはどうしてもわかりません。
疑問その1。
クララの「障害」っていうのが結局どういう障害なのかわからない。
「12歳のとき、ポニーと遊んでいて頭を蹴られて大怪我をした」「以来、心の成長が止まってしまっている」という程度の情報しかないので、クララがどの程度「普通でない」のかがわからないんですよね。
前提としてそこがはっきりしないと、マーガレットの心配にも共感しにくい。ひらたく言うと、「本当はそれほどひどいものではないが、娘を神経質に心配するあまりに過保護になりすぎている母親の話」ととらえたらいいのか、本当に自立させるのがかなり困難な病状なのかが判断できない。できないと最後のマーガレットの決断の重さ(=無謀さ)もどう受け止めていいのかわからないし。
医者のコメントとか、ある程度客観的な視点が入っていればそれがよすがになるんだけど、終始母親の視点でしか書かれてなくて、しかも情報が断片的なので、そのへんがイライラさせられるんでずよ。
「12歳でとまってる」というのも微妙。3歳とか5歳とかならともかく、12歳ってけっこうすでに人格も固まってるし、理解力だってあるし、そういう意味では充分大人ですよね。
最初は「性的な視線に対して無防備」という意味なのかなと思ったんだけど、だとしたら「男の子に声をかけられると、次にどうなるのか想像できずにホイホイついていってしまう→その気があると判断した相手が男として迫ってくるとびっくりしてパニックになる」というような展開があるのかなと思いますよね。
でも、ラブシーンではむしろクララのほうが積極的だったりしたので、そこも「???」でした。
クララの成長を見せるためにも、たとえば「最初は何を見ても怯えていて、自分から行動しようとしない状態」だったのが、ファブリツィオと出会ってから見違えるように積極的になったとか、もっとわかりやすい変化を出してほしいのですが、見ていてあまり変化しているように見えなかったため、マーガレットが急に考えを変える根拠も希薄に感じられました。
疑問その2。
とにかく展開が遅すぎます。
そしてなによりも「ファブリツィオ一家にクララの病気のことを話さないまま結婚させてしまうマーガレット」に非常に疑問を感じました。
だってそこが一番ドラマのキモでしょう。
相手が病気のことを知ってどんな反応をするのか。
一度は諦めるかもしれない。
応援してくれる人、反対する人、それぞれの立場で葛藤が生まれ、クララもつらい思いをするかもしれない。
でもそれを乗り越えて2人が結ばれる強さを見せたとき、初めてマーガレットも「娘から卒業」でき、クララもファブリツィオも精神的に真の成長を遂げることができるのではないでしょうか。
そこを描かないなら、「障害をもつヒロイン」なんて設定を使わないでほしいです。
2幕構成なら、少なくとも1幕の終わりくらいでクララの病気のことが明るみに出てしまい、2人のピンチ!という事件をつくり、2幕で2人がどうやってそれを乗り越えていくのかを描くべきでしょう。
なのに結局最後までマーガレットが一人で悶々と悩み、迷い、観客にむかってこぼしているだけで、誰も病気に気づかずに終わってしまうというのはいかがなものでしょうか。
あげくのはての結論が「障害があるからとか本当はたいしたことじゃないのかもしれない」って……いや、たいした問題ですよ、ファブリツィオ一家にとっては。
言ったうえでの波乱を乗り越えたうえでそういうこと言うならともかく、真実を話し、クララを理解してもらおうという努力をしないままそんなこと言われても。
べつにマーガレットがうち明けなくてもいいと思うんですよ。母親としては、できれば言いたくないことだろうし、言えない気持ちはよくわかるから。
でも、ファブリツィオ一家が誰も気づかないのは不自然です。
実際、何度もクララが「え?」と思うような行動をとる場面がありましたからね(一番顕著だったのは、兄嫁がふざけてファブリツィオにキスしたとき、いきなりキレて攻撃的になった事件)。
そういうときに、家族の中で「おかしいかも」と思う人と、「いや、おかしくない」という人と反応が分かれるくらいの描写はあってもいいと思うんですが、常に全員が同じ反応で、誰も「おかしい」と思わないのが疑問。
ファブリツィオ一家の誰かが気がついて忠告するとか、マーガレットに問いただすとか、なんかそのくらいのアクションはあってもいいんじゃないですかね。
疑問その3。
ファブリツィオ一家の力関係というか、どういう一家なのかがいまひとつよく伝わってきませんでした。
そもそも、町でちょっとかわいい外国人観光客を息子がナンパして家に連れてきたからって、すぐに「結婚させましょう」なんていう親がいるか?
そういうところがなんかうそくさいというか、ひいちゃうとこなんですよ。
しかもお父さん、クララが26歳(ファブリツィオより6歳年上)ということがわかったとたん、いきなり不機嫌になって教会出ていっちゃうんですよ(式のリハーサルの途中で)。
そんなことで「許せん」なんて頑固親父っぷりを発揮するくらいなら、その前にもっと相手のことをチェックする余裕をもてよと言いたい。
逆にそのエピソードで「決してリベラルな親じゃないんだ」ということがわかるため、「じゃあなんで1回会っただけの行きずりの外国人との結婚を簡単に許すんだ」ってところが疑問になるわけです。
クララとファブリツィオのカップルに対し、ファブリツィオの両親、クララの両親、ファブリツィオの兄夫婦、と3組のカップル(夫婦)が出てきますが、3組出すからには3通りの夫婦の形を見せ、それぞれのアプローチで若い2人の結婚になにかを問いかけるようにしてほしいところですが、「兄夫婦は兄の浮気癖のために夫婦仲がうまくいってない」「クララの両親はクララのことで夫婦仲が冷えているらしい」くらいの情報しかないので、どの夫婦関係もあまりドラマ展開に生かされていないのが惜しい。
疑問その4。
クララとファブリツィオのが恋に落ちるきっかけですけど、もうちょっとなんとかなんないですかね。
ドラマだし、一目惚れっていうのはあってもいいと思うけど、風でとんでしまった帽子を拾っただけでもうラブラブになるのってちょっと能がなさすぎでは?
旅先なんだからいくらでも出会いのきっかけは作れそうなのに(観光客が困っているときに現地の人が助けてあげるなんてパターンは山ほどあるだろうに)。
ファブリツィオが毎日女の子に声かけまくっているようなキャラならそれはそれでいいけど(で、毎回同じ手をつかってるとかね)、どう見てもそういうキャラじゃない、ある意味イタリア男らしからぬ奥手キャラなんで、よけいに違和感を感じました。
また、ファブリツィオがクララのどこにそんなに夢中になるのか、そこも描いてくれないと短期間で「結婚」にまでいくのはちょっとどうだろうと思います。
たとえば、ファブリツィオは父の経営する店で見習いをしていて、厳しくしつけられていたが、自分に自信がない、もしくは「自分にはこんなことむいてないんじゃないか」と悩んでいたが、クララに出会って自信を取り戻したとか、なんでもいいんですが、2人の距離が縮まるようなエピソードがなにかほしいですね。
以上、気になった点、不満な点をあげてみました。
ミュージカルにしては等身大のお話で心理劇的要素が強い作品なので、そこが「超大作ミュージカル」に食傷気味の観客に受けたのかもしれませんが、なまじ芝居の要素が多いだけに「芝居として気になる点」が目立ってしまったのかもしれません。
それでも、終演後はスタンディングオベーションだらけだったので、皆さんの満足度は高かったんでしょうか(もっとも最近はなんでもかんでもスタンディングする傾向があってこれもどうかと思いますが)。
千秋楽だったためか、客席には業界関係者が多く、加賀まりこさんを見かけましたが、あまりお気に召さなかったようで、同行者の若い男性に「ふーん。これに感動するんだ。ピュアなんだね」とさめた口調で語っておられました(笑)。
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「RE>PLAY〜一度は観たい不滅の定番」
Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!
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