古伊万里★新伊万里
劇作家・唐沢伊万里の身辺雑記です
「ウーマン・イン・ホワイト」を観ました
仕切りなおして……「ウーマン・イン・ホワイト」です。
昨日から急にアクセスが増えてるんですけど、どうやらほとんどが「ウーマン・イン・ホワイト」で検索して来られた方のようです。
「ウーマン・イン・ホワイト」のレビューを期待して検索して前回の記事(↓)にたどりついた方、ごめんなさい。これじゃ詐欺ですよね。怒りましたよね。
今後も同様の人が増えそうな予感なので、犠牲者をこれ以上増やさないためにさっさとアップします。
……と言いつつ、私はネタバレ主義なので、以下はネタバレありありです。
オチとか、展開とか知りたくない方はここから先には踏み込まないほうが身のためです。
では、まずストーリーからご紹介しましょう。
19世紀半ばのイギリス。
貧乏な絵画教師・ウォルター(別所哲也)は、ロンドンを発ち、夢のような美しい自然が残る北部湖水地方にやってきた。
彼は、ここの大地主フェアリー家の屋敷で、絵を教えるという職を得てきたのだ。
着いて早々に、彼は謎めいた白いドレスの女と出会う。
なにかに怯えたような様子の彼女は、「秘密なの。全部秘密なの」とうわごとのように言って去っていく。
フェアリー家の当主はすでに亡くなり、莫大な資産は一人娘のローラ(神田沙也加)が相続していた。ローラには父親が異なる姉マリアン(笹本玲奈)がいて、2人は仲むつまじく暮らしている。
あとは当主の弟にあたるフレデリック(光枝明彦)が姉妹の後見人として世捨て人のような暮らしをしているのみである。
姉妹と会ったウォルターは驚く。白いドレスの女とローラがうりふたつだったのだ。
3人でスケッチをする幸せな日々が過ぎていく。
マリアンは、都会からやってきた二枚目絵画教師に心浮き立つものを感じる。
しかし、ローラもまた、彼にひかれており、ウォルターの気持ちはローラのほうにむいていることにマリアンは気づいていた。
村祭りの日、ウォルターは再び白いドレスの女と出会う。
彼女は「アン・キャスリック」と名乗り、「自分をひどい目に遭わせた男がいる。その名前はパーシヴァル・クライド卿」という言葉を残して消える。
一方、マリアンは、妹とウォルターの仲を心配し、ウォルターに「ローラには親が決めた貴族の婚約者がいる。ローラへの思いは封印してほしい」と言い渡す。
もともと結ばれる身分でないことは承知していたウォルターは、ローラを諦めようとするが、婚約者の名前を聞いてショックを受ける。
その名前は、白いドレスの女が口にした「パーシヴァル・クライド卿」だった。
ローラとパーシヴァル卿(石川禅)の婚約式の日、ウォルターはパーシヴァル卿に「アン・キャスリックに何をしたんだ」とつめよる。
パーシヴァル卿は、「アンの母親は以前フェアリー家で奉公していて、その後うちで働くようになった。アンは次第に精神を病むようになり、気の毒に思って病院に入れたのだ」と説明。
人々はパーシヴァル卿の思いやりに感服する。
祝いの席をぶちこわしにしたウォルターにマリアンは怒り、屋敷から出ていくように言う。
やがて、ローラとパーシヴァル卿の結婚式がとりおこなわれる。
「これでローラも幸せになれる」と安堵したマリアンだったが、新婚旅行から戻ってきたローラの表情には幸せのかけらも感じられなかった。
心配するマリアンに、ローラは折檻された傷跡を見せる。
「あの男がほしいのは財産だけ。愛なんてない。悪魔のような男よ」
激しいショックを受けたマリアンは、ローラに結婚を勧めたことを後悔する。
また、その裏に「ローラとウォルターの仲を引き裂こう」とした自分の嫉妬があったことに気づき、これからは自分の人生をかけてローラを守らなければならないと決意する。
パーシヴァル卿は、貴族の爵位はあるものの、内情は破産寸前で、ローラの資産が目当てなのは明らかだった。
資産を手に入れるにはローラのサインが必要だったが、ローラがどうしてもサインしようとしないため、彼はいらだっていた。
彼にはフォスコ伯爵(上條恒彦)という女好きのうさんくさいイタリア人医師の相棒がいたが、フォスコ伯爵はマリアンに興味を抱く。
ある日、マリアンは白いドレスの女=アン(山本カナコ)に出会う。
アンは「ローラに秘密を話したい。明日の同じ時間にここへ連れてきて」と言う。
翌日、マリアンはローラを連れて同じ場所を訪ねる。
双子のように自分に似ているアンに驚くローラ。
初めて出会った3人は不思議なつながりを感じ、勇気を得る。
しかし、あとをつけてきたパーシヴァル卿は、3人をひき離し、アンをロンドンの病院に送り込むと宣言。
絶望するローラだが、マリアンは「私は負けない」と自分をふるいたたせる。
マリアンは、危険を冒してパーシヴァル卿とフォスコ伯爵がぐるであることをつきとめるが、雨にあたったことが原因で3日間寝込んでしまう。
目が覚めたマリアンに告げられた知らせは「ローラが転落死した」という衝撃的なものだった。
しばらくは、失意の底に沈むマリアンだったが、「ローラの無念を晴らしたい」一心で、ロンドンまでアンを探しにいき、真実を明らかにすることを決意。
そのためにウォルターに協力を依頼しようと考える。
ロンドンに出てきたマリアンは、やっとの思いでウォルターと再会する。
ウォルターはローラを失った悲しみで生ける屍のようになっていたが、マリアンの懇願で彼女に協力する気になる。
まずはアンに会うこと。アンの居場所はフォスコ伯爵が知っているはずだ。
マリアンはフォスコ伯爵が自分に興味をもっていることを利用し、誘惑して居場所をつかみだそうとする。
マリアンの企みは途中でバレてしまったが、フォスコ伯爵はなぜか彼女を見逃す。
ようやく病院にたどりついたマリアンとウォルターは、アンに面会を申し込むが、そこにいたのはなんとアンではなくローラだった。
どうやら、アンは口封じのために殺され、代わりにローラがアンとして病院に閉じこめられたらしい。
パーシヴァル卿の卑劣さに怒りをあらたにするマリアン。
その頃、パーシヴァル卿は、財産の所有権を持つフレデリックにサインをするように迫っていた。
マリアンたちが到着したときには、すでにパーシヴァル卿は立ち去ったあとだったが、そこで彼らはフレデリックの口から「アンはローラの父親が召使いに産ませた子供。日に日にローラに似てくるのを恐れてパーシヴァル卿の屋敷に追い払われたのだ」と聞く。
書類にサインをもらったパーシヴァル卿は、駅に向かうが、鉄道事故の影響で列車がなかなか到着せず、いらだっていた。
そこへアンの亡霊が現れ、彼の罪を暴き立てようとする。
恐怖にかられて昔の罪(アンを孕ませて子供を湖に沈めたこと)を告白してしまうパーシヴァル卿。
しかし、それはアンを演じたローラだった。
自分の悪事が露見したパーシヴァル卿は、パニック状態に陥り、トンネルの中に走っていって事故死する。
すべてが解決したあと、マリアンは、あらためてウォルターにローラを託し、自分の思いは封印するのだった。
以上です。
一言でいって「古風」なお話です。
それもそのはず、この原作はヴィクトリア朝時代(19世紀半ば)に書かれた通俗小説で、当時の人の価値観や社会通念に根深く覆われているのです。
ミステリ小説といえば、イギリスのお家芸ですが、これはそのミステリ小説の元祖ともいうべき作品で、当時の人気はかなりのものだったようです。
が、当時はともかくとして、現代にこれをよみがえらせようと思ったら、それなりに「現代人の視点」がないと厳しいかなと思うんですよね。
マリアンが戦うヒロインなのはよくわかります。
現代に比べて圧倒的に弱い立場だった女性が、たった一人で妹のために勇気をふりしぼって敵に立ち向かっていく姿。それがこの作品の一番の魅力でしょう。
ただ強いのではなく、ほんとに世間知らずの無力なお嬢さんなんだなということが漂ってくる(ロンドンに着いたとたん、身ぐるみはがれちゃうとか。人をすぐに信じちゃうとか)のがまたポイントで、弱い部分が前提になっているからこそ、さらにけなげに見えるという効果があります。
でも、もうひとつ、ひいた視点でヒロインを観察する“現代との接点となるキャラ”がほしいなと思っちゃうんですよね。
この中でいうと、やっぱりフォスコ伯爵でしょうか。
フォスコ伯爵は、一応お金のためにパーシヴァル卿に協力し、犯罪にも手を染めるわけですが、ギャンブルに夢中になるパーシヴァル卿を見放したり、自分をだまそうとするマリアンを見逃したり、基本的には誰の味方でもないような微妙な位置にいます。
つまり、外国人でもある彼は、この中では時代のしがらみから一番自由な存在なわけです。
現代人としては、彼の目を通してこの作品に参加したいなという気になるんですが、惜しいのはそこまではっきりした役割を担っていないこと。
最初の登場など、明らかにエロエロ成金親父って感じの3枚目キャラになっているのがもったいない。
これはあくまでも私の希望ですが、フォスコ伯爵はあんなじいさんじゃなくて、もっと若い色敵みたいなキャラにしてほしかったです(ちょっと若すぎるけどたとえば吉野圭吾系とか)。
でね、マリアンが誘惑にいくシーンも、海千山千の彼としては最初から気づいててだまされてやってるっていう芝居がほしいですね。途中で気づくんじゃなくて。
マリアンがこんなことするキャラじゃないことは彼はとっくにわかってるわけです。
キャラじゃないのに、こんなことまでするんだという彼女の気持ちに打たれて彼は芝居につきあってやる。
もともと彼はパーシヴァル卿にそれほど肩入れしてるわけじゃないし、かなり世慣れた人ですから、あとは犯罪がバレても自分には及ばないくらいの細工はしているはず。
マリアンの芝居につきあうくらいの余裕はあっておかしくないと思います。
そのうえで、彼には、マリアンの古風さにひかれながらも「そんなに自分を殺していいの? 自分のために生きてもいいんじゃない? 妹のためだけじゃなく」という問題を投げかける存在になってほしい。
最初はフォスコ伯爵を「軽薄な外国人」と軽蔑していたマリアンも、一瞬この考えにグラッとなりそうになるんだけど、最後は「私はこういうふうにしか生きられないの」と自分の生きる道を見つける。
そんな関係を見てみたいですね。
実際、ちょっとそういうやりとりがあったんですけど、上條フォスコが最初からあまりにも田舎のエロ親父風に登場しちゃったんで、いいこと言ってもあんまりまじめに聞く気になれなかったのが残念。
エロはエロでいいんだけどー、もっと危険な香りがほしいですね。
たとえば……北村一輝とか(笑)。
それでいくとラストも私は不満です。
マリアン、ウォルターに「ローラのところへ行け」と合図する→ウォルター、「でもそれは…」と逡巡する(なぜなら彼はマリアンの気持ちを知っているから)→「いいのよ、私は」とウォルターをみつめるマリアン→「それじゃ」って感じでローラのところへ行ってしまうウォルター→ほほえんで2人を見るマリアン→幕
……って、そりゃないだろ。
ウォルター、きみってやつは…(笑)!
この作品で観客がもっとも感情移入するのは間違いなくマリアンです。
だからこそ、この行為はかなり「ひどいんじゃない?」っていう納得できない印象を残すと思います。
ここでも私はフォスコ@北村(←もう脳内では北村変換)にからんでほしいですね。
マリアン、ウォルターに「ローラのところへ行け」と合図する→ウォルター、「でもそれは…」と逡巡する(なぜなら彼はマリアンの気持ちを知っているから)→また、妹も姉の気持ちに気づいて遠慮する→マリアン、「私もこれからは自分のことを考えてみたいの。しばらくフォスコ伯爵とヴェネツィアにでも旅行しようと思うの」と明るく言う→フォスコ、喜ぶ→「ええっ、いつのまにそんなことになってたんかい!」と驚く2人だが、「そういうことなら」と納得する→2人が去ったあと、マリアンが「伯爵」ときりだそうとするとフォスコはそれを押しとどめる。「わかってますよ。シニョリータ。あなたがヴェネツィアに行くつもりなんかないってことは」→フォスコ、マリアンの生き方も評価するようなことを言って去っていく→残されたマリアン、すっきりとした表情で歩いていく
せめてこのくらいの芝居は入れてほしいな。
この時代の社会通念としてはおそらくありえないと思うけど、現代人のハートには確実にひびくと思います。定番すぎてくさいけど。
他にも気になるところはいっぱいあるんですが、なんといっても一番気になったのは
ウォルター、結局きみは何もしてないよね。。。(-_-)
ということ。
普通、ある土地に秘密があり、そこに外からの訪問者が入ってくることでドラマが起こる場合、その訪問者が謎を解いていくリーダーになるんじゃないか?
なのに、ウォルターってば、明らかに様子のおかしい女が口走ったというだけで、人の婚約式をぶちこわすような非常識な行動をとり、開き直ってその土地を早々に立ち去り、姉妹が危機に陥っているときはずっと登場せず。
ようやく後半で登場したと思ったら、解決に向けての行動はすべてマリアンがして、彼は付き添ってるだけ。唯一やったことは最後にパーシヴァル卿に暴力をふるったことだけ。
よく考えると随分な人です。
あとそこの「白い女」!
何回も登場するわりに秘密しゃべるのが遅いよ。
あんたがもったいぶらずにさっさとしゃべってればこんなことにはならなかったんだよ。
もちろん、すぐに解決してしまったらドラマにならないのはわかってるんですが、それならそれで「しゃべろうとすると邪魔が入る」とか障害を作ってほしいです。
しゃべるチャンスがいっぱいあるのに全部自分で見送ってるのがとっても気になります。
それにしても、姉妹は今までにアンに出会うチャンスはなかったんでしょうか。
新参者のウォルターはあんなに頻繁に会ってるのに、ずっとそこに住んでる姉妹が会ったことないってのも不自然。
そしてあんなに頻繁に患者を抜け出させてしまう病院の管理体制はいかがなものでしょうか?(笑)
歌はマリアンの笹本玲奈が健闘していました。
まだ22歳なのに、落ち着いたお姉さん役も堂々と板についていたし、歌も一番安定していました。
一般の認知度は低いけど、ミュージカル界ではひっぱりだこの玲奈ちゃん。今後の成長が楽しみです。
そして、神田沙也加は遠目で観ると松田聖子そっくりだった。いっそのこと、「白いドレスの女」は松田聖子がやったらどうだろう(笑)。
東京公演は青山劇場にて12月2日まで上演。
そのあと愛知県勤労会館で12月22・23日の2日間上演予定。
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「RE>PLAY〜一度は観たい不滅の定番」
Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!
Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
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