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古伊万里★新伊万里

劇作家・唐沢伊万里の身辺雑記です

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「アラブ・イスラエル・クックブック」を観ました


 ちょっと不思議なタイトルにひかれて「アラブ・イスラエル・クックブック」というお芝居を観てきました(11/3〜12●新宿THEATER/TOPS)。
 上演劇団は古城十忍が主宰する一跡二跳。ここはたいていは古城さんのオリジナルをやっているんですが、今回は結成20年で初めて「翻訳戯曲」に挑戦したとのこと。

 翻訳戯曲といえばアメリカやイギリスを中心とした欧米の作品が浮かんできますが、この作品は珍しい中東のお話です。
 といっても、作家のロビン・ソーンズはイギリス人。
 テロリズムをテーマにした作品を書いていたロビンさんに「アラブ・イスラエル紛争が続く地域に暮らしている市井の人々の姿を題材にした作品を書いてほしい」とアラブ人とユダヤ人2人組の演出家からオーダーがあったのが2003年のこと。
 その直後にイラク戦争が勃発しましたが、ロビンさんは「イスラエルを訪問するのに安全な時期などない」と言って現地入りし、取材旅行を続け、そこで出会った42人のアラブ人&ユダヤ人へのインタビューをもとにしてこの作品をつくりあげたそうです。 

 日常生活の中に突然起こる自爆テロの恐怖。一見、なごやかにレストランで食事を楽しんでいるようにみえるが、内心は人が出入りするたびに「あの乳母車の中には本当に赤ん坊が入ってるの?」「あの太った男は本当に太ってるの?」と疑心暗鬼になってビクビクしている人々。食料品を買いに行くのも、仕事に出かけるのも「死」と隣り合わせという危うい日々。
 「それでも私は日常生活を続けていく。レストランに行って食事をする。こわくてたまらないけど、もし行かなくなったらそれはテロリストを勝利させることになるから。私たちにできることはいつもと同じ日常生活を勇気をもって続けていくことなの」
 と最後の場面近くで語るユダヤ人女性の言葉がこの作品を貫くテーマです。

 「日常生活を送る」というのは、じつは「人間が正気を保つために最も効果的な作業」です。
 「死」と常に直面させられている状況下で「正気を保つ」ためには、「慣れ親しんだ日常」を淡々と積み重ねていくことが一番。というかそれしかない。
 「日常を積み重ねる」という意味をそんなに深く考えない(考えたとしても「退屈」とか「単調」とか「抜け出したい」とかネガティブな意味にまわりがちな)人間にとって、この重さはなかなか実感できにくいことかもしれません。

 でも、これに似た感覚はなんとなくわからなくはないです。
 私にとってもっとも「非日常」だったのは病気だったときですが、自分の身体が危機的状況に陥ったとき、その恐怖と苦痛から一番確実に自分の精神を救ってくれたのは「書くこと」でした。
 「書く」といっても、感情を記すのではなく、数字中心の日記のような淡々とした記録です。日常の繰り返しとか習慣をできるだけ律儀に継続させるのです。「今はそれどころじゃないよ!」というときほど、そういうことに気持ちを集中させるのです。
 そうすると不思議なことに気持ちがしっかりしてくるというか、「どう考えてももうダメ」というパニック状態を客観的に眺められるようになるんですね。
 べつに突然「前向きになれる」とか「パワーがみなぎってくる」というわけではないんですが、客観的になれるというだけで、じつはもう八割方その状況を克服しているも同然なのです。

 話を戻します。
 それで、この作品の中では、「正気を保つための日常的な行動」として、「食事」が大きな象徴になっています(シェフの帽子を銃弾が貫通しているというチラシの絵はそういう意味だと思います)。
 登場する42人の人物(ギリシャ正教徒のアラブ人学生、アメリカからイスラエルに移住してきたユダヤ人の未亡人、ユダヤ人のゲイカップル、など)は、インタビューに答えながら自分たちの日常生活(何を勉強しているか、どんな仕事をしているか、どんな交友関係をもっているか、そして何を食べているか)について淡々と語っていきますが、中でも食べ物についてはかなり詳細に語られます。語られるだけではなく、舞台上で実際に料理もされます。
 THEATER/TOPSはかなり小さい劇場なので、料理の匂いはアッという間に客席にまで充満します(よく消防法の許可がおりたなー)。その匂いがなんともいえずエキゾチックでスパイシーで、なんというか明らかに「日本じゃない匂い」なんです。
 演劇が映像と大きく違うところ。それは「観る」のではなく「ダイレクトに体験する」ことだと私は思っていますが、たしかに嗅覚に訴えるというのは映像にはできない斬新な試みです。
 こういう「インタビューシーン」をつないで見せるドキュメンタリー調の演劇ってじつはあんまり好きじゃないんですが(客席に向かって語るシーンばかりで、役者同士のからみが見られないため、単調になりがちなんですよね)、今回は料理を作るという趣向が臨場感を盛り上げ、話に統一感をもたせていたと思います。

 幕間の休憩時間には、実際にフムスと呼ばれるユダヤ人が頻繁に食するというおつまみ(ひよこ豆とゴマペーストと塩水をすりつぶしてペースト状にし、クラッカーの上にのせたもの)が客席に配られ、まるで物産展の試食状態でした(笑)。
 味は……豆というかツナみたいな味でした。ゴマペーストのためかけっこうコクがあり、オニオンっぽい味もしました。

 料理をするシーンは何回か出てくるんですが、一番時間をかけて作られたのは「クサ・マハシ・ウ・ワラク・ダワーリー」という伝統的なアラブ料理です。
 日本語に訳すと「ズッキーニの詰め物とブドウの葉の詰め物チキン添え」
 アラブ人の司祭の妻を演じる長山藍子が、開演と同時に登場して作り始め、最後はできあがったその料理をお皿に盛りわけ、インタビュアー(つまり客席)に向かって「どうぞ」と差し出すところですべての芝居が終わります。
 もちろん、延々とその料理風景をメインに見せているわけではなく、舞台上には2つのキッチンがあって、いろいろな人が登場するたびにそのキッチンはアラブ人のキッチンになったりユダヤ人のキッチンになったり、レストランのキッチンになったりするわけですが、べつの人の話が舞台上で進行している間も、その詰め物料理は舞台の片隅で常に調理が進められていました。まあ、最後の1時間は煮込んでるだけなんだけど。
 レシピもプログラムに載っていました。

1)牛ヒレ肉のミンチと米、スパイス、塩、マーガリン
  をまぜて詰め物の中身を作る。
2)ズッキーニの実をりんごの芯抜きでくりぬき、詰め物
  を詰めていく。
3)軽く茹でたブドウの葉に詰め物をのせて包む。
4)大きな鍋の底にトマトのスライスを敷き詰める。
5)ブドウの葉の詰め物→ズッキーニの詰め物→ブドウの
  葉の詰め物→レモンジュースに漬け込んだチキン→ト
  マトのスライス→残ったブドウの葉という順で重ねて
  いき、最後に耐熱皿で重石をする。
6)耐熱皿に届くところまで水を注ぎ、あとは45分ほど
  煮込む。

 できればこれも味見してみたかったけど、それは無理でした(笑)。
 食べたければ自分で作るしかなさそうです。
 しかしブドウの葉って……食べられるのかな。
 代用するとしたら何がいいんだろう??

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この記事へのコメント

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おもしろそう

かなり斬新な劇のようですね。
舞台上で実際調理するとは考え付きませんね。
せっかくだから、出来上がったら食べさせて欲しいかも。
インリンの料理だったら、舞台として怖いもの見たさで行ってみたい。
きっとそれだと消防の許可出ないかも(火事の危険があるから)
  • from フランソワ :
  • URL :
  • 2006/11/06 (18:34) :
  • Edit :
  • Res

言い忘れ

ぶどうの葉って、結構アラブ料理では一般的らしい。
テレビで前にやっていた。
日本ではなかなか手に入りにくいらしい。
  • from フランソワ :
  • URL :
  • 2006/11/06 (18:36) :
  • Edit :
  • Res

ぶどうの葉

舞台上で実際に料理するという演出は他の作品でもなくはないみたいですよ。
ただ、「料理する」という行為と、「民族の歴史が刻まれた匂い」が演出としてテーマに結びつく効果となっている点がすごいなと思いました。

ぶどうの葉はどうやら食べられるみたいです。桜餅の葉っぱみたいなものか。
本文で紹介した料理は、非常に手間がかかる難しい料理だそうで、ご飯と葉っぱの柔らかさのバランスがちょうどよくないとおいしくないらしいです。
  • from 伊万里@管理人 :
  • 2006/11/06 (22:43) :
  • Edit :
  • Res

ブドウの葉

桜餅じゃなくてかしわ餅の間違い?
柏の葉に近いかもね。
テレビでは、かなり大きかったです。
  • from フランソワ :
  • URL :
  • 2006/11/07 (13:24) :
  • Edit :
  • Res

柏餅と桜餅

柏餅の葉っぱは食べる人いないよね?
桜餅の葉っぱは、一応中のお餅と一緒に食べられるようになってるけど、「えー、こんなのおいしくないからいらない」ってはいじゃう人もいるでしょ?
そういう意味で桜餅の葉っぱみたいな位置づけなのかなと思ったんですが。
「柏餅の葉っぱおいしいじゃん」「私、あれ大好き」とか言われたらどうしよう。。。ドキドキ
  • from 伊万里@管理人 :
  • 2006/11/07 (18:53) :
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そういう意味か

柏の葉は食べる人はいない~。
でも食べたら美味しいかも?んなわけないじゃない!!
だって毛が生えてるし…。
形の事言っているのかと思っちゃった。
テレビで見ただけだから、硬さとかは分からないけど、柔らかい若い葉っぱを選んでいた気がする。
  • from フランソワ :
  • URL :
  • 2006/11/09 (12:36) :
  • Edit :
  • Res

無題

お久しぶりです。
ぶどうの葉、トルコ料理で良く使われます。
「ドルマ」といって、ピラウ(ピラフのこと)
を包んで食べるのが一般的。
ぶどうの葉は、瓶詰めでインターネットで
手に入りますよ。
食感としては、まさしく桜餅の葉のような
感じです。味はちょっと違うけど。

むかーしトルコ料理にはまったことが
あって、作ったことあります。
  • from はぎのつき :
  • 2006/11/10 (21:43) :
  • Edit :
  • Res

食べた〜い

ブドウの葉っぱにこんなにコメントが集中するとは思いませんでした(笑)。
中東の料理だから、トルコやエジプトあたりは同じ食文化圏でしょうね。
ちょっと調べてみたら、山梨のブドウ園では新芽の状態を摘んで天ぷらにして食べるそうですよ。フランソワさんが見たのはその映像かもね。
大きく(?)なると酸味が増してくるらしい。まあ、でもその酸味を好む人もいるんでしょうね。当然、ブドウの風味もするそうです。
それにしてもトルコ料理にはまるとは渋いですね>萩乃月さん
今度、手料理ごちそうして〜ん。
  • from 伊万里@管理人 :
  • 2006/11/10 (23:44) :
  • Edit :
  • Res

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プロフィール

HN:
伊万里
性別:
女性
職業:
劇作家・ライター
趣味:
旅行 骨董 庭仕事

著作



「RE>PLAY〜一度は観たい不滅の定番」

Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!

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