古伊万里★新伊万里
劇作家・唐沢伊万里の身辺雑記です
オリエント急行、流れ流れて東の果てへ…
また間があいてしまいました。
箱根で訪れた2つ目の施設は、昨年の3月にオープンした「箱根ラリック美術館」です。
ラリックもアール・デコも大大大好きなので、箱根にラリックのコレクションがあるときいてここは絶対に行くぞと心に決めていました。
ラリックは、アール・ヌーヴォー期からアール・デコ期にかけて活躍したフランスのデザイナー(1860〜1945)。繊細なガラス工芸品を作るアーティストとして有名ですが、最初は宝飾デザイナーでした。と同時に建築デザインも幅広く手がけています。
アール・ヌーヴォーの申し子といえばガレやミュシャ。ジャポニズムの影響があったり、どことなく退廃的なムードを漂わせた作品が思い浮かびます。
一方、アール・デコは機能的かつ合理的なデザインで、幾何学模様をうまく使い、もっとメタリックな感じです。
ラリックがおもしろいのは、活躍時期が両方にまたがっていること。ガレみたいなものを作っているときもあるし、「これぞアール・デコ!」っていう作品を作っているときもあって、非常に幅が広いのです。
この美術館では、おもに宝飾デザインを手がけたアクセサリーが展示の中心になっています。私は今までどちらかというとガラス工芸品を鑑賞する機会が多かったので、なかなか興味深かったです。
どれも本当にため息が出るほどの繊細さであるばかりでなく、ファンタジーというんでしょうか、別世界に連れていってくれるような吸引力があって、さすがはカリスマデザイナーだなとうっとりしました。
が、この美術館、それで終わってないところが本当にすごいところ。
一番の目玉はこの他にあるんです。
なにかというと、
なんとあの
オリエント急行
に乗ることができるんです。
オリエント急行といえば、すぐに思い出されるのがアガサ・クリスティーの名作「オリエント急行の殺人」(または「オリエント急行殺人事件」)。
そう。ヨーロッパを横断するあの豪華国際寝台列車です。
以下、オリエント急行の歴史を簡単にご説明しますと…。
オリエント急行が最初に運転されたのは1883年のこと。走行区間はパリ⇔コンスタンチノープル(今のイスタンブール)。
内装・食事・サービス、どれをとっても超一流で、さながら「走る高級ホテル」。当時の社交界にとってオリエント急行は憧れの存在でした。
その後、走行区間が増えたり、走行時間が短縮されたりといろいろあってどんどん発展してきますが、第2次世界大戦でほとんどの車両を失い、1960年代以降は普通の列車と変わらない位置づけとなり、1977年にはついに廃止されることに。
しかし、歴史あるオリエント急行がなくなってしまうことを惜しむ声は多く、1980年代半ばには国際夜行特急として復活します(現在はパリ⇔ウィーンを運行)。
ただ、これが本当の意味でのオリエント急行の復活と言えるのかどうかというとちょっと微妙。というのも、世界中の人々にとって、オリエント急行はあくまでも「豪華な車両で優雅な旅を楽しむ列車」であり、ただ移動すればいいというわけではないからです。復活したオリエント急行は車両も新しくなり、当時の面影はほとんどありません。
そこで出てきたのが「古き良きオリエント急行を復元して走らせよう」という動きです。
中でも一番早く動きを見せたのはスイスの旅行会社インターフルーク社です。
1976年、オークションに売りに出された戦前の古い車両を買いとった同社は、昔のままのオリエント急行を復元し、「ノスタルジー・イスタンブール・オリエント急行」(NIOE)として運行を開始しました。
これはチャーター運行が基本で、お呼びがかかればそこへ運んでいって走らせるという「出前方式」をとっていました。日本でも、1988年にフジテレビが開局30周年記念イベントとしてオリエント急行を運ばせて国内で走らせたことがあります(当時の苦労話や裏話についてはこのページの「オリエント急行ストーリー」に詳しく載っています)。
しかし、豪華列車の維持には莫大なお金がかかるらしく、その後インターフルーク社は経営難に陥り、多くの車両を売りに出す羽目になりました。
そう。そのうちのひとつを買い取ったのが、ここ箱根ラリック美術館というわけです。
「ラリック」と「オリエント急行」になんの関係が?と思われる方もいるかもしれませんが、前述したように幅広い仕事を手がけていたラリックは、オリエント急行の内装も行っていたのです。
箱根ラリック美術館にあるのはサロンカーと呼ばれるお茶するための車両で、ラリックによるガラスパネルを見ることができます。
それもただ中に入って見るのではなく、実際にサロンカーの客席に座り、お茶とお菓子をいただきながらの鑑賞です。
内部見学には別料金(2,100円)が必要で、10:00〜16:00の毎正時から45分間が見学時間になります。
正直、最初は「2,100円は高い!」と思いましたが、本物のオリエント急行に乗れるチャンスなんてなかなかあるものじゃないですし、何よりもこのときに出たコーヒーとお菓子がなかなかおいしい。あんまりおいしかったので、コーヒー豆はあとで買って帰ったほどです。
コーヒーはポットにゆうに3杯半は入ってましたね。「こんなにいらねえからもっと安くしろ」という人もいるかもしれませんが、さすがにオリエント急行の車両の中でそんなビンボくさいことを考えるのはいかがなものかって感じなので、ありがたく3杯半飲んでお腹がガバガバになりました(その行為がすでにビンボくさいっつーの)。
ちなみに、この日は他に乗客(?)はいなくて、貸切状態。途中、係の人が内部の説明にきましたが、あとはまったりと過ごしました。
走ってない列車の車両に乗ってるのって、考えようによっては非常に間抜けではありますが、かといってわざとらしく音楽とか流れてきてももっと寒い気がするので、そこは想像力で「私は貴族。ここはパリ」とか思いこみ、コーヒーを流し込むしかないのでしょう。
ただ、窓の外の景色がちょっとねぇ……ちょうど美術館の裏門の方向にあたるんですが、豆腐屋だったかクリーニング屋だったかなんだか忘れたけど、すごく現実に戻ってしまうような光景が視界に入ってきてかなり興ざめでした。樹木を生い茂らせて視界を防ぐとか、なんらかの対応を望みます。
そてにしても、驚くのは、この美術館のオーナーが「個人」だということ。
つまり、ラリックのコレクションもオリエント急行も私財で購入したということです。
いったいどんな金持ちなんだ。日本人にも富豪っているんですね。
車両の中に入る前に、「オリエント急行をどうやってここまで運んできたか」という軽いドキュメンタリーのような映像を見せてもらったんですが、横浜の港から入り、巨大なトレーラーに乗せられて箱根の急坂をのぼっていくオリエント急行の姿に圧倒されました。
もちろん、こんな大きいもの、建物に簡単に出し入れできませんから、まず「美術館建設予定地」の片隅に車両を設置し、それから車両を格納するための建物を外側に作ったそうです。
いや、もう考えられないスケールですわ。順番からいうと「オリエント急行買っちゃったから、保管場所作ろう」っていうノリで美術館作った感じ。さらに、「保管場所作ったついでにたまっちゃったラリックコレクションも飾っておくか」って感じか。おそらく、このオーナーにとっては、この美術館は趣味のための倉庫なんでしょう。
皆さんも箱根にお越しの際はぜひオリエント急行で「アガサ・クリスティごっこ」をしていってください。



箱根で訪れた2つ目の施設は、昨年の3月にオープンした「箱根ラリック美術館」です。
ラリックもアール・デコも大大大好きなので、箱根にラリックのコレクションがあるときいてここは絶対に行くぞと心に決めていました。
ラリックは、アール・ヌーヴォー期からアール・デコ期にかけて活躍したフランスのデザイナー(1860〜1945)。繊細なガラス工芸品を作るアーティストとして有名ですが、最初は宝飾デザイナーでした。と同時に建築デザインも幅広く手がけています。
アール・ヌーヴォーの申し子といえばガレやミュシャ。ジャポニズムの影響があったり、どことなく退廃的なムードを漂わせた作品が思い浮かびます。
一方、アール・デコは機能的かつ合理的なデザインで、幾何学模様をうまく使い、もっとメタリックな感じです。
ラリックがおもしろいのは、活躍時期が両方にまたがっていること。ガレみたいなものを作っているときもあるし、「これぞアール・デコ!」っていう作品を作っているときもあって、非常に幅が広いのです。
この美術館では、おもに宝飾デザインを手がけたアクセサリーが展示の中心になっています。私は今までどちらかというとガラス工芸品を鑑賞する機会が多かったので、なかなか興味深かったです。
どれも本当にため息が出るほどの繊細さであるばかりでなく、ファンタジーというんでしょうか、別世界に連れていってくれるような吸引力があって、さすがはカリスマデザイナーだなとうっとりしました。
が、この美術館、それで終わってないところが本当にすごいところ。
一番の目玉はこの他にあるんです。
なにかというと、
なんとあの
オリエント急行
に乗ることができるんです。
オリエント急行といえば、すぐに思い出されるのがアガサ・クリスティーの名作「オリエント急行の殺人」(または「オリエント急行殺人事件」)。
そう。ヨーロッパを横断するあの豪華国際寝台列車です。
以下、オリエント急行の歴史を簡単にご説明しますと…。
オリエント急行が最初に運転されたのは1883年のこと。走行区間はパリ⇔コンスタンチノープル(今のイスタンブール)。
内装・食事・サービス、どれをとっても超一流で、さながら「走る高級ホテル」。当時の社交界にとってオリエント急行は憧れの存在でした。
その後、走行区間が増えたり、走行時間が短縮されたりといろいろあってどんどん発展してきますが、第2次世界大戦でほとんどの車両を失い、1960年代以降は普通の列車と変わらない位置づけとなり、1977年にはついに廃止されることに。
しかし、歴史あるオリエント急行がなくなってしまうことを惜しむ声は多く、1980年代半ばには国際夜行特急として復活します(現在はパリ⇔ウィーンを運行)。
ただ、これが本当の意味でのオリエント急行の復活と言えるのかどうかというとちょっと微妙。というのも、世界中の人々にとって、オリエント急行はあくまでも「豪華な車両で優雅な旅を楽しむ列車」であり、ただ移動すればいいというわけではないからです。復活したオリエント急行は車両も新しくなり、当時の面影はほとんどありません。
そこで出てきたのが「古き良きオリエント急行を復元して走らせよう」という動きです。
中でも一番早く動きを見せたのはスイスの旅行会社インターフルーク社です。
1976年、オークションに売りに出された戦前の古い車両を買いとった同社は、昔のままのオリエント急行を復元し、「ノスタルジー・イスタンブール・オリエント急行」(NIOE)として運行を開始しました。
これはチャーター運行が基本で、お呼びがかかればそこへ運んでいって走らせるという「出前方式」をとっていました。日本でも、1988年にフジテレビが開局30周年記念イベントとしてオリエント急行を運ばせて国内で走らせたことがあります(当時の苦労話や裏話についてはこのページの「オリエント急行ストーリー」に詳しく載っています)。
しかし、豪華列車の維持には莫大なお金がかかるらしく、その後インターフルーク社は経営難に陥り、多くの車両を売りに出す羽目になりました。
そう。そのうちのひとつを買い取ったのが、ここ箱根ラリック美術館というわけです。
「ラリック」と「オリエント急行」になんの関係が?と思われる方もいるかもしれませんが、前述したように幅広い仕事を手がけていたラリックは、オリエント急行の内装も行っていたのです。
箱根ラリック美術館にあるのはサロンカーと呼ばれるお茶するための車両で、ラリックによるガラスパネルを見ることができます。
それもただ中に入って見るのではなく、実際にサロンカーの客席に座り、お茶とお菓子をいただきながらの鑑賞です。
内部見学には別料金(2,100円)が必要で、10:00〜16:00の毎正時から45分間が見学時間になります。
正直、最初は「2,100円は高い!」と思いましたが、本物のオリエント急行に乗れるチャンスなんてなかなかあるものじゃないですし、何よりもこのときに出たコーヒーとお菓子がなかなかおいしい。あんまりおいしかったので、コーヒー豆はあとで買って帰ったほどです。
コーヒーはポットにゆうに3杯半は入ってましたね。「こんなにいらねえからもっと安くしろ」という人もいるかもしれませんが、さすがにオリエント急行の車両の中でそんなビンボくさいことを考えるのはいかがなものかって感じなので、ありがたく3杯半飲んでお腹がガバガバになりました(その行為がすでにビンボくさいっつーの)。
ちなみに、この日は他に乗客(?)はいなくて、貸切状態。途中、係の人が内部の説明にきましたが、あとはまったりと過ごしました。
走ってない列車の車両に乗ってるのって、考えようによっては非常に間抜けではありますが、かといってわざとらしく音楽とか流れてきてももっと寒い気がするので、そこは想像力で「私は貴族。ここはパリ」とか思いこみ、コーヒーを流し込むしかないのでしょう。
ただ、窓の外の景色がちょっとねぇ……ちょうど美術館の裏門の方向にあたるんですが、豆腐屋だったかクリーニング屋だったかなんだか忘れたけど、すごく現実に戻ってしまうような光景が視界に入ってきてかなり興ざめでした。樹木を生い茂らせて視界を防ぐとか、なんらかの対応を望みます。
そてにしても、驚くのは、この美術館のオーナーが「個人」だということ。
つまり、ラリックのコレクションもオリエント急行も私財で購入したということです。
いったいどんな金持ちなんだ。日本人にも富豪っているんですね。
車両の中に入る前に、「オリエント急行をどうやってここまで運んできたか」という軽いドキュメンタリーのような映像を見せてもらったんですが、横浜の港から入り、巨大なトレーラーに乗せられて箱根の急坂をのぼっていくオリエント急行の姿に圧倒されました。
もちろん、こんな大きいもの、建物に簡単に出し入れできませんから、まず「美術館建設予定地」の片隅に車両を設置し、それから車両を格納するための建物を外側に作ったそうです。
いや、もう考えられないスケールですわ。順番からいうと「オリエント急行買っちゃったから、保管場所作ろう」っていうノリで美術館作った感じ。さらに、「保管場所作ったついでにたまっちゃったラリックコレクションも飾っておくか」って感じか。おそらく、このオーナーにとっては、この美術館は趣味のための倉庫なんでしょう。
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「RE>PLAY〜一度は観たい不滅の定番」
Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!
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この記事へのコメント
気になっていたスポットです
オリエンタル急行のことも知っていました。別料金で2100円じゃパスかな〜と思っていたのですが、なかなかよさそうですね。でも窓から豆腐屋が見えるのか(笑)。
珈琲三杯半分ってすごいですね。紅茶じゃないのに。一度にそんなに飲んだら胃が大変なことになりそう…。
たしかにちょっと敷居が高いかも
次回はぜひ行ってみてくださいよ。
私は時間ギリだったんでミュージアムショップは割愛したんですが、なんだか品揃え豊富そうで気になりました。
2100円はパス……そうですよね。私も入る前は二の足踏みました。しかもその他に入場料払ってるわけだし。
どうせ金持ちなんだから1000円くらいにおさえとけばもっと人入るのにね。せっかく苦労して運んだんだから1人でも多くの人に見学してもらったほうがいいじゃん。
コーヒー…仰るとおり、さすがに胃がおかしくなりました。いくらおいしくても。。。
購入者が気になる
しかし、個人で購入するとは・・・。
その個人の一代記も見てみたい気がする。
いいドキュメンタリーになるかもねぇ。
脚本のネタにならないかしら。
帝劇で舞台化希望
買った人はどんな人なんでしょうね。山持ってるとか聞いたきがしたけど。
「オリエント急行に魅せられた男」とかいうタイトルで舞台化はどうでしょう。
ラストは帝劇にオリエント急行が出現するの。もちろん盆まわし&スモークつきね(笑)。