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古伊万里★新伊万里

劇作家・唐沢伊万里の身辺雑記です

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「ガマの油」の正体

 前回の旅行の話の続きをします。
 筑波といえば「ガマの油で有名。
 若い人は知らないかな。。。。
 まずは江戸時代から伝承されてきたという「ガマの油売り」の口上からお聞きください(ちなみにガマはヒキガエルのことです。念のため)。

サアーサアー、お立合ご用とお急ぎのない方はゆっくりと聞いておいで。
遠出山越え笠のうち、聞かざる時は物の黒白出方善悪がとんとわからない。
山寺の鐘がゴーンゴーンと鳴ると言いども、童児来って鐘に撞木を当てざれば、鐘が鳴るのか撞木が鳴るのか、とんとその音色がわからない。

サテお立合。
手前ここに取りいだしたるは筑波山名物ガマの油。
ガマと申してもただのガマとガマが違う。
これより北、北は筑波山のふもとは、おんばこと云う露草をくろうて育った四六のガマ。
四六五六はどこで見分ける。
前足の指が四本、後足の指が六本、合せて四六のガマ。
山中深く分け入って捕いましたるこのガマを、四面鏡ばりの箱に入れるときは、ガマはおのが姿の鏡に映るを見て驚き、タラーリタラーリと油汗を流す。
これをすきとり、柳の小枝にて三七・二十一日間、トローリトローリと煮つめましたるがこのガマの油。

このガマの油の効能は、ひびにあかぎれ、しもやけの妙薬。
まだある。大の男の七転八倒する虫歯の痛みもぴたりと止る。
まだある。出痔いぼ痔、 はしり痔、はれもの一切、そればかりか刃物の切味も止める。

(ここで刀と紙を取り出す)

取り出したるは夏なほ寒き氷の刃。

(紙を折って刃を差し込み、半分、また半分とどんどん小さくなるまで切り刻んでいく)

一枚の紙が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚、八枚が十六枚、十六枚が三十と二枚、三十二枚が六十四枚、六十四枚が一束と二十八枚。

(最後は花吹雪のように細かくなった紙を散らす)

ほれこの通り、ふっと散らせば比良の暮雪は落花の吹雪とござい。
これなる名刀も、一たびこのガマの油をつける時は、たちまち切味が止る。
おしてもひいても切れはせぬ。

(ガマの油を刃に塗って切れなくなったことを示す)

と云うてもなまくらになったのではない。
この様にきれいにふきとる時は元の切味となる。

(ここでガマの油を拭き取った刀で自分の腕を切り、血がにじみでるのを見せる。その切り傷にガマの油を塗ると血がとまる)

サーテお立合。
この様にガマの油の効能が分かったら遠慮は無用だ。
どしどし買って行きな。

 以上が、口上の内容です(括弧内の動作説明=ト書きは私が補足しました)。
 もともとは大坂の陣で徳川方に味方した筑波山大御堂の光誉上人が、ガマの油に野草成分と植物油を加えて作った練り薬を戦場での傷薬として使ったところ、非常に効果があったために評判になったというのが始まり。
 まあ、要するに効能からみるとメンソレータムかタイガーバームみたいなものだと思うのですが、それがここまで有名になったのは、その後、筑波山麓に住む永井兵助という香具師が、「ガマの油売りの口上」を考えて江戸で商売したのが大当たりをとったから。
 もちろんガマの油じたいもバカ売れしたんだと思いますが、それ以上に口上のおもしろさが評判を呼び、以後、この口上は単なる実演販売にとどまらず、舞台上のセリフで使われたりするなどひとつの「民俗娯楽芸能」として発展していきました。
 ですから、今残っている口上はエンターテインメント重視で脚色され、実際の薬の効能よりはかなり大袈裟に表現されているようです。
 「ガマの油の口上」の魅力は以下の4点に集約されるのではないでしょうか。

1)「ガマの四方を鏡で囲み、ガマが自分の姿があまりにも醜いのに驚いて流す脂汗を煮詰めて作った」というガマ虐待(?)による製造過程のユニークさ

…鏡の話はともかくとして、実際にガマにストレスを与えると耳線からある種の粘液を出すのは本当らしい。これは蟾酥(センソ)と呼ばれる毒物成分を含み、外敵に対する攻撃として用いられるようだが、麻薬コカインの数十倍の強い局所麻痺作用と、血管収縮作用、さらにステロイドと同様の抗炎症作用があることから、刀傷による痛みと出血に効果があったのではないかと言われている。また近年になって「強心興奮作用」があることもわかり、今でも中国の「六神丸」という強心薬にはこの蟾酥が使われているという。

2)「ただのガマじゃなくて四六のガマからとれる油」という稀少性の強調

…「四六のガマ」とは、前足4本で後ろ足6本のガマのこと。普通、脊椎動物は前足も後ろ足も5本なので、このガマは筑波山麓だけに生息する特別なガマなのだと言いたいらしいが、じつはガマの手足の突起は微妙な形をしているため、どのガマでも見ようによっては4×6に見えるらしい。

3)紙を切り刻むパフォーマンスの鮮やかさと実際に手を切ってみせるというショッキングな演出

…細かく切った紙吹雪はあらかじめ仕込んであるらしいが、手を切るのは本当にやるんだそうです。たしかにここまでやられたらお客も買っちゃうでしょうね。ていうか、血まで出して売れなかったら泣いちゃいますよ。

4)すべてを包括する話術の巧みさ

…刀さばきも重要だけど、最終的にものを言うのはこれでしょう。今でもこの話術を後世に伝えるために「筑波山ガマ口上保存会」なるものが結成され、ここに認定を受けると「×代目永井兵助」という称号をもらえるらしい。ちなみに今回泊まった旅館の女将はこの称号を持っているらしく、ロビーには免状も飾られていたし、売店ではCDも販売されてました。

 このように、口上の伝統は現在にいたるまで伝承されているのですが、肝心のガマの油を製造していた「蝦蟇の油本舗」という店じたいは平成10年に閉店してしまいました。
 なので、残念ながら今は「純正・ガマの油」は手に入りません。
 筑波山周辺の売店などで、観光客向けの「ガマの油もどき」は売られていますが、パッケージがそれらしいだけで、成分をみるとワセリンとかスクワランとかラノリンとかハッカ油とか、ただの保湿クリームと変わりません。まあ、話の種としてお土産に買って帰るのは悪くないと思いますが…。

 ところで、私はこの口上の文句を断片的に知ってはいたものの、通してちゃんと読んだのは今回が初めてでした。
 で、すごい誤解をしていたことに気がつきました。
 「一枚が二枚、二枚が四枚……」というくだりですが、私はてっきり「刃に油を塗るとこんなによく切れるようになりますよ」という証明をしてるのかと思ってました。
 「こんなに切れる刀が油を塗ると切れなくなります」ということを証明するためにやっているのだと知ってびっくり。無知って恐ろしい。。。

 それにしても「ガマの口上」ってあらためて見ると、ちりばめられているアイテムがなんとなくおどろおどろしいですよね。
 「ガマ虐待」もそうだし、「奇形のガマ」もそうだし、「出血パフォーマンス」も。
 決して明るくはないですよね。
 昔の見せ物小屋に漂うようなエログロナンセンスの匂いがします。
 大衆が喜ぶエッセンスがここにあるってことなのかな。
 



おみやげに買った「ガマの油」のパッケージ。



左がお土産に買った「ガマの油」。
右は旅館でもらった「ガマの油」。
成分を比べてみたけど、微妙に違う。
左のものは「ワセリン(石油成分)」
「合成着色料」「合成香料」は入っていないらしい。



旅館でもらった「ガマの油」の中身。
この薄ピンク色が「ガマの油」の特徴なんだそうだ。
実際は紫草かなにかで色を出しているらしいが、
無色透明でないところがなんとも毒々しい感じでいい。



旅館のロビーのテラスでは、紅葉を見ながら
足湯を楽しめるコーナーがあった。
浸かってるときは気持ちいいけど、
ここの温泉は意外に湯冷めが早くて保温効果はいまいち。



旅館の部屋からの眺めはまるで屏風絵のようなワイドな景色で最高でした。
何かの眺めに似てると思ったんですが、
奈良の明日香の甘橿丘から大和三山を眺めた光景になんとなく似てるかも。。。



関東平野の夕景。日が短い季節のはずなのに、
なぜか日没のスピードがゆっくりしていて、
完全に暗くなるまでに随分時間がかかりました。

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誤解

私も油を加えると切れ味が良くなるんだと思っていました。
なんて誤解。
世の中慣用句でも逆の意味になっちゃったものって結構ありますよね。
よくまちがって言われるのは「気の置けない友達」。
きっと何年かすると元と逆の意味で使われると思う。
日本語の変遷って面白いですよね。
それから、がまの油、本物がもう無いと言うのも残念な話。
この口上も消えていく運命なんでしょうか?
  • from フランソワ :
  • URL :
  • 2006/12/25 (12:45) :
  • Edit :
  • Res

ガマの油はなぜ消えたか?

やっぱり?
普通、そう思うよね。
よかったー、私だけじゃないことがわかって。
ガマの口上も正しく伝承しないと何十年か後には「この油を塗ればこの通り、一枚が二枚、二枚が四枚…」とか変化しちゃうかもね。

本物のガマの油、私はむしろ平成10年まで残っていたことにびっくりしました。
まさか本当にガマの体液(?)が使われているとは思わなかったので(単なる客寄せのネタだと思ってた)、旅館のお兄ちゃんに「ガマの油って(ほんとは)原料なにでできてるんですか?」と聞いたときに「えー、ガマの油になんか野草の何かがまじってるとか…」と自信なげに答えたのをきいて「こいつ、なんにもわかってないな」と心の中で失笑してしまいました。わかってないのはおまえだ>自分

しかし、ガマの油売ってた店、なんで閉店したんでしょうね。「ガマ虐待」に動物愛護団体から非難がきたから?(笑)
それともガマの数が激減して採算が合わなくなったのだろうか。
  • from 伊万里@管理人 :
  • 2006/12/27 (00:37) :
  • Edit :
  • Res

ほんとですか~

おはようございます。
筑波山麓合唱団の歌からたどり着きました。
ほんとにガマの油を使っていたのですか(現在は無し)、切れなくするなんて初めて知りました。
でも最初にガマの油が効くと言う事調べた人は、人体実験でもされたのでしょうね、モルモットでやった訳ではないでしょうから。

このお話は大変面白ろうございました。
有難うございました。
  • from Ezekiel :
  • 2009/04/01 (06:37) :
  • Edit :
  • Res

驚きますよね

Ezekielさん、コメントありがとうございます。

私もこの旅行で一番ショック(!)だったのが「ガマの油」の話でした。
お芝居などで口上をきいたことがあったので、完全にフィクションだと思ってたんですよね。
まさか実話だったとは。。。

たしかに昔から使われてる薬草とかってどうして効くってわかったんだろうと私も不思議に思います。
かなりあやしげな民間伝承でも、あとから調べたらちゃんと科学的根拠があったっていう話はよく聞きますものね。

しかし薬草ならまだわかるけど、動物の体液を薬に使おうとしたっていうその着眼点がユニーク。
ガマはいい迷惑だったでしょうけどね。
  • from 伊万里@管理人 :
  • 2009/04/01 (12:18) :
  • Edit :
  • Res

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プロフィール

HN:
伊万里
性別:
女性
職業:
劇作家・ライター
趣味:
旅行 骨董 庭仕事

著作



「RE>PLAY〜一度は観たい不滅の定番」

Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!

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