古伊万里★新伊万里
劇作家・唐沢伊万里の身辺雑記です
呼吸機能検査の醍醐味
最近、喘息の傾向が見られるので、思い切って呼吸器内科に行ってきました(いつも近所の医者にその場しのぎの薬をもらってお茶を濁していたのですが)。
で、検査の中に「呼吸機能検査」というものがあったんですが…。
この検査は20年近く前にもやったことがあるのですが、数ある病院の検査の中で最もユニークな検査のひとつと言えるでしょう。
何が変わってるって、一番おもしろいのは、これが
努力が反映される検査
だということです。
たとえば血液検査やCT検査は、本人が頑張ったからといって結果がよくなるものではないですよね。
もちろん、普段の食生活に気をつけて数値が上がらないようにするとか、そのくらいの努力は影響しないこともないですけど、その場で頑張ってなんとかなるっていうたぐいのものじゃない。
私の知る限り、その場で頑張って結果をよくすることができる検査は「視力検査」と「呼吸機能検査」ぐらいです。
「視力検査」は「文字を判読する」という努力を放棄したらそこまでで、「はっきりは見えないけど、なんとなく『い』のような気がするのでとりあえず言ってみよう」といった「ダメもと精神」の積み重ねで意外といい線までいけてしまうことがあります(まあ、視力の場合、検査の結果だけ良くても意味ないんですけど)。
「呼吸機能検査」も「ここまで」と思ったらそれまでで、「ここまで」と思ったところからどのくらい頑張れるかが勝負。そういう自分の「根性」や、「自分で自分を誉めたい頑張り」が数字にダイレクトに反映されるところが、「受け身一方」の他の検査とは大きく一線を画すところです。
「呼吸機能検査」ですることは、「息を吸う」「息を吐く」「息をとめる」の3つだけ。これに「勢いよく吐く」とか「長く吐ききる」とか「普通の呼吸から合図とともに一気に吸う」とかバリエーションが加わり、肺や気管支などのいろいろな機能がわかるようになっているんですが、この中で最も重要なのが「吐く」動作。
限界まで「吐く」というのは非常にエネルギーのいる行為なので、自分で自分の限界をはっきりと認識することができません。そのため、検査技師は横で「吐き続ける」被験者を激しく励まし、記録に挑戦する意欲を煽り続けます。
約20年前の検査で初めてこれを見たとき、私は検査技師のあまりのボルテージの高さに「励まされる」というよりも「怯えて」しまいました。
だって「吐く」直前までは冷静な調子で声をかけているのに、吐き始めたとたん、スイッチが入ったように人格が豹変し、
「はい。吐いて、吐いて、吐いて、吐いて、吐いてぇぇ〜〜!! そうそう。まだいける、まだいける。そうそう。もうちょっと。頑張って、頑張って。もう少し。吐いて、吐いて、吐いて<以下リピート>」
と、耳元で叫び続けるんですよ(ある意味、これだけのセリフを一気に叫ぶのも肺活量いるよなー)。
で、吐き終わると「はい。けっこうです」ってまた普通に戻るの(笑)。
最初は、単にこの検査技師が「励まし系キャラ」なのかと思ってたけど、そうじゃなくて、これは「呼吸機能検査」のマニュアルにちゃんとあるらしいんです(観察したところ、どの検査技師もエキサイトしていたので)。
仕事とはいえ、毎回こんな髪をふりみだし、足を踏みならして叫び続けなきゃならないなんて疲れそうー。これで他の検査技師と同じ扱いなんてお気の毒…。それとも「励まし手当」とか特別についてるんだろうか。
というわけで、今回久しぶりの「呼吸機能検査」で、「まだあの方式で行われているのだろうか…」と期待がふくらんだのですが……健在でした(笑)。
20年前に比べるとややおとなしくなった気がしないでもないですけど、やっぱり廊下に声が漏れてくるくらいの勢いで叫んでいました。
が、今回ちょっとムッとしたのは、コンピュータです。
20年前もたしかすでにコンピュータで計測していた記憶はあるんですが、当然のことながら今はさらにコンピュータの性能はアップし、小賢しくなっています。
それで、何を根拠に主張するのか知りませんが、人が精一杯やった結果に対し、コンピュータが「こんなもんだろう」とか「まだ努力が足りない」とか判定をくだすんですよね。
いや、もちろんそんな言葉が具体的にモニタに表示されるわけではないんですが、どうやらいろいろな要素から計算して「こいつならこのくらいは出るはず」という「予測値」を出すみたいなんですよ。
で、検査技師もそれを見て「もうちょっと頑張れそうだからもう一度やってみましょうか」とか判断するようなんです。
また、コンピュータのお墨付きが出ると、モニタに「努力良好」とか表示されて、検査技師もそれをみて「頑張りましたね。とてもいい調子ですよ」みたいなほめ言葉をくれるんですわ。
これが嬉しいことは嬉しいんだけどなんとなく釈然としない感じで…。
たしかに頑張れば記録を伸ばせるというスポーツ的な要素があるところが「呼吸機能検査」のやりがいのあるところだったし、検査技師の応援(?)で頑張れる自分も好きだったけど、予測値まで計算されちゃうと、なんか自分の限界をあらかじめ知らされるみたいでやる気なくなるんですよねー。応援されてその気になって記録が伸びるっていうアナログなところがおもしろかったのになー。
コンピュータに「努力良好」とか言われてもねー、「あんた、私が今どのくらい頑張ったかなんてどうしてわかるんだよ」とわけもなく因縁つけたくなります。
ああ、これでまたひとつ「古き良き時代の検査」が消えていく……。
って、昔のほうがよかった検査なんて「呼吸機能検査」だけか。
で、検査の中に「呼吸機能検査」というものがあったんですが…。
この検査は20年近く前にもやったことがあるのですが、数ある病院の検査の中で最もユニークな検査のひとつと言えるでしょう。
何が変わってるって、一番おもしろいのは、これが
努力が反映される検査
だということです。
たとえば血液検査やCT検査は、本人が頑張ったからといって結果がよくなるものではないですよね。
もちろん、普段の食生活に気をつけて数値が上がらないようにするとか、そのくらいの努力は影響しないこともないですけど、その場で頑張ってなんとかなるっていうたぐいのものじゃない。
私の知る限り、その場で頑張って結果をよくすることができる検査は「視力検査」と「呼吸機能検査」ぐらいです。
「視力検査」は「文字を判読する」という努力を放棄したらそこまでで、「はっきりは見えないけど、なんとなく『い』のような気がするのでとりあえず言ってみよう」といった「ダメもと精神」の積み重ねで意外といい線までいけてしまうことがあります(まあ、視力の場合、検査の結果だけ良くても意味ないんですけど)。
「呼吸機能検査」も「ここまで」と思ったらそれまでで、「ここまで」と思ったところからどのくらい頑張れるかが勝負。そういう自分の「根性」や、「自分で自分を誉めたい頑張り」が数字にダイレクトに反映されるところが、「受け身一方」の他の検査とは大きく一線を画すところです。
「呼吸機能検査」ですることは、「息を吸う」「息を吐く」「息をとめる」の3つだけ。これに「勢いよく吐く」とか「長く吐ききる」とか「普通の呼吸から合図とともに一気に吸う」とかバリエーションが加わり、肺や気管支などのいろいろな機能がわかるようになっているんですが、この中で最も重要なのが「吐く」動作。
限界まで「吐く」というのは非常にエネルギーのいる行為なので、自分で自分の限界をはっきりと認識することができません。そのため、検査技師は横で「吐き続ける」被験者を激しく励まし、記録に挑戦する意欲を煽り続けます。
約20年前の検査で初めてこれを見たとき、私は検査技師のあまりのボルテージの高さに「励まされる」というよりも「怯えて」しまいました。
だって「吐く」直前までは冷静な調子で声をかけているのに、吐き始めたとたん、スイッチが入ったように人格が豹変し、
「はい。吐いて、吐いて、吐いて、吐いて、吐いてぇぇ〜〜!! そうそう。まだいける、まだいける。そうそう。もうちょっと。頑張って、頑張って。もう少し。吐いて、吐いて、吐いて<以下リピート>」
と、耳元で叫び続けるんですよ(ある意味、これだけのセリフを一気に叫ぶのも肺活量いるよなー)。
で、吐き終わると「はい。けっこうです」ってまた普通に戻るの(笑)。
最初は、単にこの検査技師が「励まし系キャラ」なのかと思ってたけど、そうじゃなくて、これは「呼吸機能検査」のマニュアルにちゃんとあるらしいんです(観察したところ、どの検査技師もエキサイトしていたので)。
仕事とはいえ、毎回こんな髪をふりみだし、足を踏みならして叫び続けなきゃならないなんて疲れそうー。これで他の検査技師と同じ扱いなんてお気の毒…。それとも「励まし手当」とか特別についてるんだろうか。
というわけで、今回久しぶりの「呼吸機能検査」で、「まだあの方式で行われているのだろうか…」と期待がふくらんだのですが……健在でした(笑)。
20年前に比べるとややおとなしくなった気がしないでもないですけど、やっぱり廊下に声が漏れてくるくらいの勢いで叫んでいました。
が、今回ちょっとムッとしたのは、コンピュータです。
20年前もたしかすでにコンピュータで計測していた記憶はあるんですが、当然のことながら今はさらにコンピュータの性能はアップし、小賢しくなっています。
それで、何を根拠に主張するのか知りませんが、人が精一杯やった結果に対し、コンピュータが「こんなもんだろう」とか「まだ努力が足りない」とか判定をくだすんですよね。
いや、もちろんそんな言葉が具体的にモニタに表示されるわけではないんですが、どうやらいろいろな要素から計算して「こいつならこのくらいは出るはず」という「予測値」を出すみたいなんですよ。
で、検査技師もそれを見て「もうちょっと頑張れそうだからもう一度やってみましょうか」とか判断するようなんです。
また、コンピュータのお墨付きが出ると、モニタに「努力良好」とか表示されて、検査技師もそれをみて「頑張りましたね。とてもいい調子ですよ」みたいなほめ言葉をくれるんですわ。
これが嬉しいことは嬉しいんだけどなんとなく釈然としない感じで…。
たしかに頑張れば記録を伸ばせるというスポーツ的な要素があるところが「呼吸機能検査」のやりがいのあるところだったし、検査技師の応援(?)で頑張れる自分も好きだったけど、予測値まで計算されちゃうと、なんか自分の限界をあらかじめ知らされるみたいでやる気なくなるんですよねー。応援されてその気になって記録が伸びるっていうアナログなところがおもしろかったのになー。
コンピュータに「努力良好」とか言われてもねー、「あんた、私が今どのくらい頑張ったかなんてどうしてわかるんだよ」とわけもなく因縁つけたくなります。
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「RE>PLAY〜一度は観たい不滅の定番」
Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!
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この記事へのコメント
ナイス描写
略奪愛のなっちゃん?! も,想像のたくましさに圧倒されましたが,呼吸機能検査の描写にも感心しました。さすが,脚本家さんです。見事ですね。
これからもよろしくお願いします。
想像…というか妄想です
想像…ていうか、ほとんど妄想ですが、こんなたわいのない妄想にいつもおつきあいいただき、ありがとうございます。
こちらこそ、これからもよろしくお願いします。
「crishiri」というHNは「利尻」からきているのですね…。