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古伊万里★新伊万里

劇作家・唐沢伊万里の身辺雑記です

カテゴリー「その他」の記事一覧

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送って、そして迎える

 梅雨のさなかの7月11日、弟夫婦に女の子が生まれました。
 昨年、弟の結婚で義妹ができ、さらに今年は姪ができて、ここへきて一気に家族構成が変動していることに驚いています。
 まあ、私が生まれたときの祖母の年齢が今の私の年齢だったことを考えれば、この年までまったく変動しなかったほうがどうかと思うんですが。
 父も、喜寿を迎える年になって初孫ができるとは夢にも思わなかったようで、今まで「子供」に全然縁がなかった我が家にとって「赤ちゃん登場」は未知の世界でした。

 女の子だということはもう随分前からわかっていたのですが、なぜか診断がつく前から私には女の子だというイメージしかありませんでした。
 女の子だったらいいなーとか、そういう好みの問題ではなく、女の子であることはすでに決まっているという確信があったのです。

 こういうとオカルトっぽいですが、まだ胎児の時代から、夢の中にも何度か登場したし、自分の名前のメッセージも送られてきました。
 漢字一文字なんですが、それも「女の子だったらこの名前がいいかなー」という好みではなく、最初からその文字がバーンと焼き付けられたというか…。
 普段、字を読んでいるときも、その漢字が目に入るとドキッとするんですよ。
 まあ、結局名前は弟が考えてつけたので、その名前は日の目をみることはなかったんですが、すごくはっきりしたイメージだったのでいまだにちょっと気になっています。

 それだけならまだ一笑に付されるレベルの話だと思いますが、不思議な話はそのあとも続きます。
 火曜日から陣痛が始まった義妹は、水曜日の早朝に病院に入りました。
 朝8時半の時点で弟から「現在、子宮口4センチ。初産だし、順調にいって夕方頃になりそう」というメールがあったので、「今日は11時から1時までヘルパーさんが来るから、ヘルパーさんが帰ったらお昼食べてー、それから病院にかけつけるかな」とのんびり考えていました。
 ところが、そこからの展開が予想外に早く、10時前には「もう破水した。昼過ぎには生まれるみたい」という続報が。
 あわてて事業所に電話したらたまたまその日に来るヘルパーさんが出てくれて、事情を話したら「じゃあ開始時間を早めて今からすぐに行きますよ」と言ってくれました。

 ヘルパーさんがうちに着いたのはそれから30分後。
 お風呂入って掃除して布団干して洗濯して終わるのが12時半。
 すぐにかけつければ間に合うかな。
 …と思いきや、さらに展開が早まり、11時に「さっき分娩室に入った」という弟からのメールが…。
 ぎゃー、間に合わねーよーーー!!!!
 と動揺する私にヘルパーさんが「あとは私やっておくから行っていいわよ」と言ってくれて(本当は利用者不在で作業したらいけないんだけど父も残ってるしまあいいかってことで)、とりあえずお風呂だけ介助してもらって髪の毛乾かして着替えて家を出て、タクシーに飛び乗りました。

 で、病院に到着したのが11時45分。
 さすがにまだ生まれてないだろうと思ったら、5分ほど前に生まれたときいてびっくり。
 しかし、もろもろ含めて結果的に生まれた直後に立ち会えたというのも奇跡的なタイミングではありました。

 生まれたばかりの赤ちゃんを生で見るのはもちろん初めての経験。
 月並みだけど、第一印象は「なんて……小さい……」でした。
 まるで精巧なミニチュア細工のよう。
 泣き声もかぼそく、弱々しく、世の中にこれほど壊れそうなものがあるのかという驚き。

 が、同時に、生まれたての新生児にはたしかに侵しがたい神聖なオーラがありました。
 普段はさらさらと流れていく時間が、ここでだけは息をとめて立ち止まっていくような…。

 不意に「この感覚、なにかに似てる。べつの場面で経験したことがある」と思いました。
 で、思い出しました。
 それは3年前に経験した母の臨終の場面でした。

 弱って声を発する力もすでになくなった母の姿と、まだ泣き声が声にならない赤ちゃんの姿がかぶりました。
 あのときも時間がとまったようなはりつめた静寂に包まれていて、そこにいる人は誰も立ち入れない「結界」のようなものを感じました。
 違った意味で、臨終の床の母にも侵しがたいオーラがありました。
 もしかしたら、赤ちゃんも人の手に抱かれ、なじむようになるとこのオーラは消えてしまうのかもしれません。

 人は一人で生まれ、一人で死んでいきます。
 その両方の場面に続けて立ち会い、あらためて思いました。
 最初の瞬間と最後の瞬間だけは誰も共有できないんだ。
 まわりの人はその場に立ち会い、証人になることしかできない。
 この世に生まれてくる命を寿ぎ、この世から消えていく命に敬意をはらう。
 シンプルだけど最終的にそれしかできることがないのだ。
 誕生と死の間は複雑でいろいろなものの影響を受けるけど、最初と最後は本当に、本当にシンプルなんだよね。

 それにしてもこんな時間に生まれるなんて珍しい赤ちゃんだなー。
 赤ちゃんってだいたい明け方に生まれるよね。
 11時半っていきなり朝寝坊きわまりないな。
 ……とそこでまたはたと気づきました。
 あれ??
 このセリフ、どこかで聞いたことがある。
 …そうだ。私だ。
 私もこのくらいの時間に生まれて母から何度もそう言われたんだった。
 
 姪が生まれた時間は……11時38分か。
 え……なんか私もかなり近い気が……。
 気になってあとで自分の母子手帳を調べてみました。

 思わず声をあげそうになりました。



 やっぱり私にメッセージくれてたの、気のせいじゃなかったよね。
 ちなみに、誕生日こそ違いますが、私も生まれた曜日は水曜日でした。

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新しい家族へのバースデープレゼント

 弟が結婚することになりました。
 家族が増えるのは、弟が生まれて以来(!)の経験です。
 減る寂しさがどんなにつらいかを実感しているだけに、思いがけずプレゼントをいただいた気分です。
 特に、母を失ったことで「女の家族」がいなくなった私としては、同性の家族が増えるのは本当に嬉しい。

 2人が入籍したのは、彼女の誕生日の9日前のこと。
 家族になって初めて迎える誕生日なので、なにか記念になるプレゼントを贈りたいなと考えていたのですが、そのときふと頭に浮かんだのが、以前友人のみかんちゃんから公演祝いにとプレゼントされたアクセサリーでした。

 彼女の友人が作ったという天然石のロングネックレスは、とても素敵でなおかつ使い勝手がよく、以来愛用していたのですが、義妹のためにこの方にアクセサリーを作っていただいたら喜んでもらえるのではないか。
 そう考え、さっそくみかんちゃんに頼んで、その方を紹介してもらいました。

 彼女のお名前は杉谷倫子さん。
 メールで連絡をとり、事情を話したところ、喜んで作ってくださるとのこと。
 何回かイメージを伝えるやりとりをした結果、こんなアクセサリーが完成しました。



 義妹は牡羊座。牡羊座の守護星は火星なので、火に関係する赤い色が運気を押し上げてくれると聞き、「赤い石」を基調にしたマルチカラーのミディアムネックレスを作ってもらいました。
 使われている石は、ルビー、ローズクォーツ、モルガナイト、淡水パール、アメジスト、水晶。
 手作りなので、一粒一粒の大きさやカッティングが異なっていて、まるで「石が奏でるハーモニー」が聴こえて来るようです。

 やりとりをしているうちに自分の分も欲しくなり、「同じようなタイプで色違いのネックレスをもうひとつ作ってほしい」と追加オーダー。
 それがこれです。



 私は乙女座で誕生石がサファイアなので、こちらはブルー系でまとめてもらいました。
 使われている石は、サファイア、アクアマリン、カヤナイト、アメジスト、水晶です。

 どちらもすごく素敵な仕上がりで大満足でした。
 義妹のネックレスは若々しく華やいだ感じだし、私のネックレスはエレガント&クールな感じ。
 宝石にはまったく興味がなく、アクセサリーもほとんど持っていないのですが、天然石がこんなにきれいだなんて初めて知りました。

 このネックレスの他に、誕生日石(月ではなく日なので毎日違う)であるホワイトトパーズをペンダントトップにあしらったネックレスも作りました。
 チェーンがハート型になっているのがかわいいです。



 じつは、私、義妹の誕生日を一日遅い日だと勘違いしていて、その日だと誕生日石が「ラウンドパール」なので、最初はそっちで頼んでいたのですが、途中で間違いに気づき、あわててホワイトトパーズに変更。
 内容が変わったうえ、納期も一日早くなってしまい、杉谷さんにはすっかりご迷惑をおかけしてしまいましたm(_ _)m

 なにぶん、まだ知り合ったばかりなので、義妹のアクセサリーの趣味もよくわからず、気に入ってもらえるかどうか心配だったのですが、お陰さまでとても喜んでくれてホッとしました。
 杉谷さんも、会ったことのない人のためにオリジナルのアクセサリーを作るのは難しかったと思うのですが、「たしかに難しいけれど、贈り主と贈られた人と両方に喜んでもらえると、こちらの喜びも二倍になるので…」と言っていただき、杉谷さんにお願いしてよかったなとあらためて思いました。

 おりしも、ついこの間、溝の口で展示会がおこなわれると伺い、みかんちゃんもまじえて3人で行ってきたんですが、杉谷さんの作ったアクセサリーをつけた人たちが大勢いらしてて(私たちももちろんつけていきました)、新作がとぶように売れていました。
 どのアクセサリーも主張しすぎないのに細部までセンスの良さがゆきとどいていて、見ていると次々にほしくなってしまいます。

 展示されているのはサンプルで、気に入ったものの番号を言うとスタッフの方たちが注文シートに記入してくれるのですが、「これも」「やっぱりあれも」「あ、それもいいね〜」とやばいくらいどんどん点数が増えていき(笑)、二枚目に突入しそうになったので理性でストップしました。

 義妹も「お義姉さん、どうしましょう。これもいい〜!!」と連呼してすっかり興奮状態。
 支払いは郵送後なので、合計いくらになったのか今もよくわかってません(^_^;)
 普段、アクセサリーなんてまず買うことないんだけどなー。

 おもしろかったのは、「これいいね」とアクセサリーを手に取る「好み」のようなものが明らかに年代で分かれること。
 私と同級生のみかんちゃんが手を伸ばすものはなんとなく似てるんですが、義妹が手にとるものはやっぱり「若いな〜」という感じのもの。
 当然といえば当然なんですが、昔母と買い物に行ったときにことごとく好みが違って「なんでそんな地味くさいのを選ぶの!」と怒られたことを思いだしました。

 若いときに選ぶのは「シンプルなもの」「華奢なもの」「あまり目立ちすぎないもの」が多いのですが、年をとればとるほどその逆の方向にいくんですよね。
 私も若いときは「なんでオバサンってみんなジャラジャラした大げさなアクセサリーが好きなんだろう」と理解できなかったんだけど、気がつけば義妹の選ぶアクセサリーを見て「若い人にはいいけど、ちょっと控えめすぎて寂しいかな」と感じてたりする(笑)。

 やっぱり自然に自分に似合うものを選ぶようになるんですよね、アクセサリーって。
 年とともに過剰な装飾を求めるようになるのは、まあ「容色に自信がなくなっていくから」というのもあるけど、それ以外でもなにかしら「アクセサリーで埋めたい(補いたい)もの」が出てくるからなんだろうな。
 若いときは自分のマイナスを意識しないから、アクセサリーにそんな役割を求めないけど、年をとるとマイナスとのつきあい方のひとつとしてアクセサリーを選ぶようになるのかもしれません。

 正直、若い子のつけるアクセサリーはもう自分には似合わないと思うけど、でもさすがに母世代の気に入るアクセサリーもちょっと違うなと思う自分がいて、そういう意味では杉谷さんの作るアクセサリーってアラフィフ(around50)世代にちょうどしっくりくるデザインなんですよね。
 アクセサリーを買っていた方々の年代もわりとそのへんが多くて、さらに杉谷さんのアクセサリーをつけると皆さん輝いて見えるのが印象的でした。

 展示会の会場はマンションの一室だったのですが、自然の残る避暑地のようなエリアで、帰りのランチやお茶にいたるまで、豊かな気分で一日を過ごすことができました。




 新しいアクセサリーが届く日が今から待ち遠しいです。
 杉谷さんのアクセサリーに興味のある方は、こちらのサイトをご覧ください。
 すてきなアクセサリーの画像がいっぱい見られますよ〜。

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「震災前」と「震災後」

 気がつけばなんと半年間もブログを放置していました。
 理由は2つあります。

 ひとつは、10月から「より更新が簡単な」ツイッターを始めたため。
 始めてみたらほとんどそちらで用が足りてしまい、ブログのほうはもともと長文中心で進めてきただけに、「これはわざわざブログで書くほどのことでもないかな。つぶやけばいいか」と思うことが多くなり、徐々に足が遠のいてしまいました。

 以前の私なら長文をものともせずに書きまくっていたと思いますが、今は正直タイピングがだんだんつらくなってきています。
 左手麻痺が進んで、2年前くらいから右手だけでタイピングしているのですが、その右手も最近は長時間打ってると重く感じるようになり、タイプミスも増えてきて、頭の中で思ったことを文字にするまでのタイムラグにストレスを感じるようになってきました。
 その結果、「書けば長文になってしまう」ことが予想されるブログは敷居が高くなってきています。

 それに加え、状況的に10月から今まで余裕がなかったこと。
 10月〜12月は「目の手術」「その後の目の回復がなかなか進まなかったこと」「母の一周忌」「オーディオドラマライブ公演」と続いてまったく落ちつかず、年が明けてからはその疲れが噴き出して、体調がパッとしない日々が続いていました。

 そこへきて今回の「震災」です。

 3月11日に経験した「揺れ」は、今まで経験した中でもっとも深刻なものでしたが、それでも家の中がメチャクチャになったわけでもないし、ライフラインがやられたわけでもないし、品不足ながらも通常の生活が営めていますし、幸いなことに毎日勤めに出なければならない身の上でもありません。

 本当にありがたいことです。
 この今の境遇に感謝して、自分にできること(節電、買いだめに走らない、不急の外出はしない)を精一杯しようと思っています。

 ただ……。
 頭で理解していることと、体が感じていることは違います。
 震災発生後1週間余り、毎日毎日悲惨な映像と不安を煽られる情報ばかりシャワーのように浴び続けるストレスは想像以上のものでした。
 「自分は恵まれているのだ」「避難所の人たちの苦難を考えなければ」「なにかできることをしなければ」
 そう思えば思うほど苦しくなり、体が動かなくなります。

 この1週間、私はただ食べて寝ることしかできませんでした(確定申告の書類作成はしたけど)。
 なにかしようとツイッターやブログを見回る。
 そこには(デマやパニックももちろんありますが)、被災者を支援しようという人たちの「なんとかしなくちゃ」という熱い思いが溢れています。
 最初は感動しました。
 私にもなにかできないかと膨大な情報を消化しようとしましたが、それだけの気力体力が私にはありませんでした。
 途中までいくと体からスルスルと力が抜けてしまい、起きているのもつらくなり、昼間から寝込んでしまうというていたらく。
 夜もちゃんと寝ているのに、昼間も寝ないともたないんです。
 「不眠不休で働いている現地の人がいるんだからこんなことでは…」と思ったそばからもう寝ているのです。
 起きているときも何もする気力がなくて、寝ているのとたいして変わらない。
 すべてが億劫。ささいな日常的行動でもすごくエネルギーを使う。
 まるで電池がきれているような感じです。

 はじめのうちは「こんなんじゃいけない」「どうしたんだ>自分」と罪悪感と焦燥感を感じましたが、そのうちに「もうしょうがない」「今は体の欲求に従い、何も考えず寝れるだけ寝よう」と開き直るようになりました。
 昨日あたりから少しずつ持ち直してきたため、普通の生活に近づいてきたんですが、そんな折、ふとこんな記事が目にとまりました。

 AC大量CMに苦情殺到…脅迫電話も
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110318-00000001-dal-ent

 たしかにあの同じ内容の繰り返しには私もピリピリきていました。
 抗議電話ときいて「そりゃあれだけしつこく流されたら文句いいたくなる人もいるだろう」とも思いました。
 でも記事をよく読むと、抗議の内容は「(同じ内容ばかり流して)しつこい」という量の問題だけではなくて、「内容がそぐわない」という怒りもあるらしい。
 そこで「?」となりました。
 そんなに神経逆なでされるような内容あったっけ???
 と思ってあらためて記事の続きを読んだら、どうも脳卒中の予防CMと、仁科亜季子母娘が「子宮がん・乳がんの検診」を訴えるCMのことらしい。
 「こんな大変な時にがん検診なんか行けるか」というのが抗議の内容だそうです。

 もちろん、このCMが作られたのは震災前です。
 震災に遭って生きるか死ぬかという人たちに向けて作ったものではありません。
 ちょっと考えれば誰でもわかることです。
 べつに被災者に「がん検診行け」って言ってるわけじゃないんだから、それって単なる「言いがかりじゃ…」とACに同情しました。

 でも被災している人たちにはそんな理屈は通じないのです。
 頭ではなく、体が「不快だ」と反応してしまっているのですから。
 では、なぜこのCMに反感を感じてしまうのでしょうか。
 おちゃらけたお笑い番組に「こんな大変なときになんだ!」と腹を立てるのならいざしらず、このCMが勘に触るとは、ACも想定外だったのではないでしょうか。

 子宮がんにかかった仁科さんじたいは「不幸」だったかもしれませんが、このCMはそれを乗り越えた仁科さんが「まだ不幸を知らない人たち」に向けて「自分の経験」を役立ててほしいと「検診」を勧めるというスタンスになっています。
 平常時ならば、がんを他人事と思っている人たちが「自分より先に不幸を体験し、それを乗り越えた仁科さん」の言葉を素直に受け入れたかもしれません(あるいはスルーすることも)。

 でも、今被災した人たちは、まさに未曾有の不幸のど真ん中に直面していて、「乗り越えられるかどうか」もさだかではないのです。
 「私も乗り越えたから皆さんも乗り越えてね」的なメッセージは、たとえ意図とは違っても「自分の不幸と同列に語られた」ような上から目線に感じられ、なおかつ気力も失いかけているときに「不幸から目を背けてはダメ」と言われるのは倒れているところにむち打たれるような気分になるのかもしれません。

 かく言う私も、ACの広告には、「怒り」までは感じないものの、かすかな違和感はおぼえていました。
 言ってることはもっともだし、まじめだし、立派なことだし、常識的に考えて「不謹慎」でもなんでもないんだけど、どこか現実感がないというか、よその国の人がしゃべってるような距離感を感じたのです。
 いっそのこと、うんとバカバカしいCMのほうが異次元で救いがあるのかもしれません。
 なまじ真面目に「危機管理」について語っちゃってるから神経に触るのかもしれない。

 つい1週間前までは普通だったことが、今は聞き流せなくなるーー。
 大きな不幸が人におよぼす精神構造の瓦解は、ありったけの想像力を駆使しても埋めるのが困難だと感じました。

 似たようなことを『美しい隣人』というドラマの最終回で思いました。
 これが放送されたのは震災からわずか4日目のことでした。
 24時間流れ続ける震災報道にダメージを受け、そろそろドラマ(フィクション)を見たいと思った人は少なからずいたことでしょう。
 しかし、皮肉なことにこのドラマの結末には、さらに震災のことを考えずにはいられない暗示が含まれていました。

 ドラマは、2人の5歳の子供が、同時期の同エリアで行方不明になるという事件から始まります。
 半狂乱で探しまわる2人の母親。
 一人の母親・絵里子(檀れい)の息子は無事保護されますが、もう一人の母親・沙希(仲間由紀恵)の息子は池で溺死という悲惨な結果に。
 2人の母親に面識はありませんが、 沙希はTVを通して「よかった」と泣き崩れる絵里子の姿を見てしまいます。

 1年後、沙希は絵里子の隣に引っ越してきて、感じのいい隣人を装いながらじわじわと彼女の周囲の人間関係を破壊していき、家も夫も子供も彼女から奪おうとします。
 途中から沙希の自分に向けられる憎悪に気がつく絵里子ですが、なぜ自分がそこまで憎まれるのかさっぱりわからない。
 結局、「よかった」の一言が暴走のスイッチになったことを最後に知るのですが、結末に曖昧な描写が多かったこともあって、ネット上では放送後から現在にいたるまでかなり激しい論争が繰り広げられています。

 死んだかもしれないと思った我が子が生きていたとわかった瞬間、「よかった」と言って泣き崩れる母親を誰が責められるでしょうか。
 常識的には絵里子に落ち度はないでしょう。
 その言葉だけで「なんて無神経な女」「うちの息子は助かったあの子の代わりに死んだんだわ」「あの女の幸せの上に私の不幸がある。だからあの女が不幸になれば私は幸せになれる」と考えてしまう沙希の発想は普通ではありません。

 ただ、ドラマとしては「絵里子はよくいるタイプの幸せで善良な主婦。沙希は外からはわかりにくいがある種の精神異常者。絵里子の不幸は事故に遭ったようなもので、彼女はなにも悪くない。普通の一言が見当違いの逆恨みの種になることがあるので皆さんも気をつけましょうね。A〜C〜♪」ということを伝えたかったわけではないでしょう。
 狂気に陥った沙希と、常識的な絵里子。
 2人は相容れない存在なのか。というとそうでもなかったりする。
 むしろ、一歩間違えれば立場が入れ替わるかもしれないという危うい親和性さえ漂うドラマでした。

 ネット上では、意外なほど「アンチ絵里子」が多かったりして、沙希に気持ちを寄せる意見が目立ったのが興味深かったです。
 最終回が震災前に放送されていたら反応が違っていたのかどうか、それはわかりません。
 でも「アンチ絵里子」と「アンチAC」はなんとなく似ているように感じるのです。
 深い孤独を抱える「不幸」に対し、みんなが少しずつ敏感になってきているのかもしれないですね。
 

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プロフィール

HN:
伊万里
性別:
女性
職業:
劇作家・ライター
趣味:
旅行 骨董 庭仕事

著作



「RE>PLAY〜一度は観たい不滅の定番」

Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!

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