古伊万里★新伊万里
劇作家・唐沢伊万里の身辺雑記です
森光子@進化中
最近、全日空でチェックインも搭乗券もなしで飛行機に乗れてしまう「SKiP」というシステムが話題になっていますが、そのCMをご覧になりましたか?
伊東美咲が「無理、無理」と携帯でしゃべりながら手にもったカードをヒラヒラさせているうちに機内にたどりついてしまい、「乗れちゃった」と我に返るやつ……のほうではなく、「森光子編」です。
マネージャーとしゃべりながら無意識にカードをかざして次々にゲートを通過してしまう森光子。
「だって私もう86よ。いくらなんでも無理でしょう、小学生の役は」
ここですでに芝居好きの人は噴き出してしまうんですが(森光子ならやりかねん!という説得力があるので)、さらに続く
「そりゃ、でんぐりがえしはできるけど、それとこれとはねぇ…」
というセリフには大爆笑。
ここで爆笑できる人がはたして視聴者の何割くらいなのかわかりませんが、現在帝劇で上演中の「放浪記」では、森光子による「伝説のでんぐりがえし」が毎日披露されています。
「放浪記」(作:菊田一夫)は、この9月4日で前人未踏の1800回を記録した東宝の当たり狂言で、森光子は40年以上前からこの作品の主役・林芙美子を演じ続けています。
でんぐりがえしは、「初めて自分の書いた小説が雑誌に掲載された芙美子が喜びのあまり木賃宿の布団の上ででんぐりがえしをする」というシーンで行われるのですが、森光子はいまだに軽々とこのパフォーマンスを披露し続け、客席もでんぐりがえった瞬間には万雷の拍手がわき起こるのがお約束となっています。
そのためのトレーニングとして、森光子が毎日150回のスクワットを欠かさないのはあまりにも有名です。
「放浪記」については、拙著「RE>PLAY」で詳しく書いたので内容については省略しますが、先日、私は初めて帝劇での「放浪記」を観てきました(この作品は、本来、芸術座というもっと小さい東宝の専用劇場のために書かれたものですが、現在芸術座は取り壊し中のため、今回はイレギュラーで帝劇での上演となったのです)。
多分、ほとんどの方はピンとこないと思いますが、「放浪記」の人気というのはかなりすごくて、決して安い料金ではないにもかかわらず、チケットは常に入手困難です(今回ももちろん1ヶ月間全日程が完売してます)。
私も3年前に芸術座でゲネプロを見せてもらったのが唯一の「放浪記」体験なので、今回が本当の意味での初「放浪記」となりました。
客席はかなり年齢層が高い!
皆、森光子の「若さ」にあやかろうと、お詣りにきた参拝客のようです。。。
たしかに森光子は若い。
舞台から発散されるエネルギーはまぶしいくらいです。
が、観ていてなんか気の毒だなーと思ったのは、あまりにも「86歳と思えない若々しさ」「スクワット150回」「でんぐりがえし」という記号が一人歩きしすぎているように感じられたこと。
ここまでわかりやすいセールスポイントが揃っていると、観るほうはそこでもう満足しちゃうと思うんですよ。
極端な話、とりあえず元気に動きまわって毎日舞台を務めてでんぐりがえしさえすれば「あー、やっぱり森光子若いわ〜。すごいわね〜」でOKになってしまう、みたいな。
年だけで充分価値が出てるというか。
ある意味子供とか動物とかが芸をすると点数が甘くなるのに似た感じになってくるというか。
でも、今回私が本当に「すごい」と思ったのは、「86にしちゃよくやるでしょ」っていう水準にまったく甘んじていない森光子のこの作品に賭ける飽くなき執念です。
3年前のゲネと今回と、たった2回しか観ていない私ですが、その2回を比較しても森光子が演じた芙美子は全然違う。
役の作り方というか、アプローチが明らかに変わってるんです。
だって皆さん、1800回ですよ。
普通、1800回演じたら、「もう目つぶってもできるわ」って気分になりそうだし、まあそこまでいかなくても「今さら前と違うものを作り直そう」という気にはなかなかなれないと思うんですよね。
気持ちの上で新鮮さを保つのだって容易じゃないと思うし、キャリアを積めば積むほど「今までの蓄積」で料理しようと思ってしまいがちです。
ましてや、でんぐりがえしをするだけでお客が喜ぶ境地にまできたら、「あとはどれだけこの状態を長くキープできるか」という守りに入るのが普通でしょう。
でも森光子は1800回越えても進化を続けていました。
もちろん、体力も気力もすごいんですが、それ以上に「毎回壊してもう一度作る」という地味でしんどい作業に挑み続ける勇気こそが真の賞賛に値するものなのではないでしょうか。
「長く続いた」というのは結果論にすぎないのですから。
森光子に遠くおよばないこんなちっぽけなキャリアですら、ちょっと油断すると「次もこの手でいこう」とか「このまま流用しよう」とか楽な方向へ流れてしまいそうになります。
「創造と破壊」の繰り返しに耐えられる強靱な精神力をもちたい…。
森さんをみてあらためてそう思いました。
伊東美咲が「無理、無理」と携帯でしゃべりながら手にもったカードをヒラヒラさせているうちに機内にたどりついてしまい、「乗れちゃった」と我に返るやつ……のほうではなく、「森光子編」です。
マネージャーとしゃべりながら無意識にカードをかざして次々にゲートを通過してしまう森光子。
「だって私もう86よ。いくらなんでも無理でしょう、小学生の役は」
ここですでに芝居好きの人は噴き出してしまうんですが(森光子ならやりかねん!という説得力があるので)、さらに続く
「そりゃ、でんぐりがえしはできるけど、それとこれとはねぇ…」
というセリフには大爆笑。
ここで爆笑できる人がはたして視聴者の何割くらいなのかわかりませんが、現在帝劇で上演中の「放浪記」では、森光子による「伝説のでんぐりがえし」が毎日披露されています。
「放浪記」(作:菊田一夫)は、この9月4日で前人未踏の1800回を記録した東宝の当たり狂言で、森光子は40年以上前からこの作品の主役・林芙美子を演じ続けています。
でんぐりがえしは、「初めて自分の書いた小説が雑誌に掲載された芙美子が喜びのあまり木賃宿の布団の上ででんぐりがえしをする」というシーンで行われるのですが、森光子はいまだに軽々とこのパフォーマンスを披露し続け、客席もでんぐりがえった瞬間には万雷の拍手がわき起こるのがお約束となっています。
そのためのトレーニングとして、森光子が毎日150回のスクワットを欠かさないのはあまりにも有名です。
「放浪記」については、拙著「RE>PLAY」で詳しく書いたので内容については省略しますが、先日、私は初めて帝劇での「放浪記」を観てきました(この作品は、本来、芸術座というもっと小さい東宝の専用劇場のために書かれたものですが、現在芸術座は取り壊し中のため、今回はイレギュラーで帝劇での上演となったのです)。
多分、ほとんどの方はピンとこないと思いますが、「放浪記」の人気というのはかなりすごくて、決して安い料金ではないにもかかわらず、チケットは常に入手困難です(今回ももちろん1ヶ月間全日程が完売してます)。
私も3年前に芸術座でゲネプロを見せてもらったのが唯一の「放浪記」体験なので、今回が本当の意味での初「放浪記」となりました。
客席はかなり年齢層が高い!
皆、森光子の「若さ」にあやかろうと、お詣りにきた参拝客のようです。。。
たしかに森光子は若い。
舞台から発散されるエネルギーはまぶしいくらいです。
が、観ていてなんか気の毒だなーと思ったのは、あまりにも「86歳と思えない若々しさ」「スクワット150回」「でんぐりがえし」という記号が一人歩きしすぎているように感じられたこと。
ここまでわかりやすいセールスポイントが揃っていると、観るほうはそこでもう満足しちゃうと思うんですよ。
極端な話、とりあえず元気に動きまわって毎日舞台を務めてでんぐりがえしさえすれば「あー、やっぱり森光子若いわ〜。すごいわね〜」でOKになってしまう、みたいな。
年だけで充分価値が出てるというか。
ある意味子供とか動物とかが芸をすると点数が甘くなるのに似た感じになってくるというか。
でも、今回私が本当に「すごい」と思ったのは、「86にしちゃよくやるでしょ」っていう水準にまったく甘んじていない森光子のこの作品に賭ける飽くなき執念です。
3年前のゲネと今回と、たった2回しか観ていない私ですが、その2回を比較しても森光子が演じた芙美子は全然違う。
役の作り方というか、アプローチが明らかに変わってるんです。
だって皆さん、1800回ですよ。
普通、1800回演じたら、「もう目つぶってもできるわ」って気分になりそうだし、まあそこまでいかなくても「今さら前と違うものを作り直そう」という気にはなかなかなれないと思うんですよね。
気持ちの上で新鮮さを保つのだって容易じゃないと思うし、キャリアを積めば積むほど「今までの蓄積」で料理しようと思ってしまいがちです。
ましてや、でんぐりがえしをするだけでお客が喜ぶ境地にまできたら、「あとはどれだけこの状態を長くキープできるか」という守りに入るのが普通でしょう。
でも森光子は1800回越えても進化を続けていました。
もちろん、体力も気力もすごいんですが、それ以上に「毎回壊してもう一度作る」という地味でしんどい作業に挑み続ける勇気こそが真の賞賛に値するものなのではないでしょうか。
「長く続いた」というのは結果論にすぎないのですから。
森光子に遠くおよばないこんなちっぽけなキャリアですら、ちょっと油断すると「次もこの手でいこう」とか「このまま流用しよう」とか楽な方向へ流れてしまいそうになります。
「創造と破壊」の繰り返しに耐えられる強靱な精神力をもちたい…。
森さんをみてあらためてそう思いました。
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「RE>PLAY〜一度は観たい不滅の定番」
Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!
Webサイトで連載していた演劇評をまとめて出版したものです。
「演劇って、興味なくはないけど何を選んだらいいのかわからなくて」………ビギナーが感じがちなそんな敷居の高さを取り払うために書きました。
数多い名作の中から「再演されたことのある作品」に絞り、 唐沢がお勧めの25本について熱く語りたおします。ビギナーからオタクまで、全種適用OK!
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年下キラー
それほど大きなイメージになってしまった森光子の代表作。
だから見たことなくても、あのCMには笑えました。
できれば「若い恋人?無理無理」と言う台詞も入れて欲しかった。
しかし「放浪記」は、紛れも無く「森光子参拝」なんですね。
進化し続けていると言うのはすごいことです。
役者魂が、あそこまで若く居させるんでしょうか?
私も可愛いおばあちゃんになりたいけど、無理かしらね~。
光子計画
まあ、森光子はどの作品でもアンチエイジングだってことですが。
フランソワさんもご存じのウサギ好きのライターH嬢は「女の究極の夢は“光子”」と言い切っています。
「ひいきのジャニーズの男の子が主演する原作を書き、初日のボックス席に招待され、『原作者のHさんです!』と紹介され、着物姿で挨拶するの」という壮大な野望の実現にむけて一歩一歩コマを進めているらしいです。
プロジェクト名は“光子計画”。
毎年、年賀状で「今ステージいくつまでいった?」と確認してるんですけど(笑)。
アンチエイジング
森光子、どこへ出ても実年齢よりかなり若い役しか回ってこないような気が…。
もう妖怪の域です。
妖怪と言えば、って失礼ですが、黒柳徹子もアンチエイジングな役が多い。
昨日も大竹まことに、「声だけは元気だけど、ホントは年寄りだから」と言われていました。
二人でフラバンジェノールのCMに出たら良いのに…。
一口飲んで、でんぐり返す森と、早口言葉を言う黒柳…。
売れなくなること必至ですね。
タマコおばさんは?
比較的年相応なのでは?
まああれも若作りのおばさんという役どころではありますが。
さすがにTVでは不自然なほど若い役はやらないんじゃないかな。
森光子って売れ始めたのが「放浪記」をやり始めた40すぎからなので、かなりの遅咲きらしいんです。
さぞかしエネルギーためこんでたんでしょうねえ(笑)。